トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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松竹

乾いた花

元ヤクザの親分で俳優の安藤昇のインタビュー「映画俳優安藤昇」(ワイズ出版)を読んでいたら、こんな発言があった。 大体、博打というのはスリルがあるから面白い。金は命から二番目に大切なものだろう。にもかかわらず、それをオモチャにするのだから、これ…

みな殺しの霊歌

有閑マダムが、次々と殺される事件が起きる。被害者の共通点は、ある日マンションの一室で麻雀をしていたことだけ。麻雀仲間は五人。次の被害者が出るおそれが高い。だが警察の捜査は難航する。 新宿、とある大衆食堂。雨で客も来ない。店じまいをしかけてい…

寅さん漬け

とっくに放送は終わっているんだが、録画しっぱなしで半年以上見ていなかったBSジャパン「土曜は寅さん!」を数日かけて12本まとめて見た。第24作「男はつらいよ 寅次郞春の夢」(山田洋次監督・1979年松竹)から第36作「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」(同…

からみ合い

向かいの席でタバコをふかしているこの男、吉田という名の嫌味たらしい男との偶然の再会のせいで、銀座のウィンドウショッピングは台無しになってしまった。 ——嫌な日になった。せっかくの散歩を台無しにして、思いもかけなかった不愉快な男と出会って。子供…

土曜は寅さん!(8): 男はつらいよ 寅次郎純情詩集

ヒロインが不治の病で死ぬというストーリーは喜劇にはあまりないと思うが、「男はつらいよ」シリーズ第18作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」(山田洋次監督・1976年松竹)ではマドンナ、柳生綾(京マチ子)の死によって寅次郞の恋が唐突に終わりを告げる異色の展…

土曜は寅さん!(7): 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

2020年夏季オリンピックの東京招致の決め手になったのが、滝川クリステルのプレゼンテーションで披露した「おもてなし」という言葉。2013年の流行語にもなったが、もてなすことの本質とは何だろうか。 男はつらいよシリーズ第17作「男はつらいよ 寅次郎夕焼…

吹けば飛ぶよな男だが

「「空気」の研究」などの日本人論で知られる評論家・山本七平に、こんな文章がある。これは山本の死後刊行されたエッセイ集「静かなる細き声」(1992)からのもの。 近頃はほとんど耳にしなくなったが、私が子供のころには「ヤソ」と言う一種独特の語感がする…

必殺!III 裏か表か

幕府と両替商組合の深い癒着に首を突っ込んだために、自分が属する南町奉行所から命を狙われる同心・中村主水(藤田まこと)の死闘を描く「必殺!III 裏か表か」(工藤栄一監督・1986年松竹)。 通常、「必殺仕事人」シリーズは闇の中の暗殺場面が見せ所だが、こ…

愛の讃歌

来年1月22日まで東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)で山田洋次監督の特集上映が開催されており、「男はつらいよ」シリーズのうち20作を含む54作品がラインナップされている。浅草名画座*1なき今となっては寅さんをスクリーンで見る貴重な機会になって…

土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その2)

(承前) 夕子(若尾文子)はとらやまで迎えに来た夫と共に出直すことを決意し、柴又を去って行く。寅次郎もまた、振られたその日のうちに柴又駅のプラットホームに立つ。見送りきたさくらと、ベンチで電車を待っている。 さくら ねえお兄ちゃん、もうお正月も近…

土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その1)

寅次郎にはまわりくどい言い回しが通用しない。言葉を言葉通りに受け取る人である。 今ならちょっとお医者さんに診てもらいましょうということになるのかもしれないが、「男はつらいよ」の世界ではとらやのおいちゃん(森川信)の口癖「バカだねあいつは」で済…

土曜は寅さん!(5): 男はつらいよ 奮闘篇

春。まだ雪残る新潟の山間部・越後広瀬駅の待合室から「男はつらいよ」シリーズ第7作「男はつらいよ 奮闘篇」(山田洋次監督・1971年松竹)は始まる。 待合室では就職のため上京してゆく学生服姿の少年少女たちと、その母親たちがストーブの暖を取っている。そ…

黒蜥蜴

マイベストソング2013〈今年の1曲でiTunes Cardを当てよう! 私のマイベストソング2013♪〉 映画「黒蜥蜴」/ "Black Lizard" - 丸山(美輪)明宏 明智小五郎 OP/ED ... 今年(2013年)の始めごろ、池袋の新文芸坐が深作欣二監督の没後10年を記念して、深作作品を…

土曜は寅さん!(4)

「男はつらいよ」シリーズ第5作「男はつらいよ 望郷篇」1970〔昭和45〕年。 むかし世話になった政吉親分が危篤だと聞きつけ、すぐにも札幌の政吉の許へと駆けつけようとする寅次郎だが、先立つ旅費がない。金を借りようにもとらやのおいちゃんは雲隠れ、帝釈…

土曜は寅さん!(3)

シリーズ2作目「続・男はつらいよ」(1969(昭和43))に、寅次郎のかつての恩師、坪内散歩(東野英治郎)という人物が登場する。かつて悪童寅次郎にゲンコツを食らわせた坪内先生は、いまは隠居して自宅で英語塾を開いているという役どころ。 坪内先生を演じる東…

フーテンの寅さんは反社会的勢力か

みずほ銀行の暴力団関係者への融資問題の第三者委員会報告書を、企業コンプライアンスの第一人者である郷原信郎弁護士は「銀行側の言い分を当たり障りなくなぞり、一方で、表面的な批判をしたに過ぎなかった」と厳しく批判している。 みずほ問題の本質は、銀…

土曜は寅さん!(2)

シリーズ第1作「男はつらいよ」は、寅次郎(渥美清)の20年ぶりの柴又への帰郷と叔父夫婦との再会にはじまり、異母妹・さくら(倍賞千恵子)の縁談、印刷工・諏訪博(前田吟)とさくらの結婚、結婚式での博と父(志村喬)の和解を経た後、幼なじみで柴又帝釈天の御前…

土曜は寅さん!(1)

今週のお題「秋の新番組」 TV東京系列のBSジャパンで「土曜は寅さん!」という新番組が始まった。 タイトル通り、1969年にはじまる「男はつらいよ」シリーズ全48作を週一本、約1年掛けて全作放送するのだという。 渥美清の急死で突然の終止符を迎えてから既…