トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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さすらいの恋人 眩暈(めまい)

挿入歌に中島みゆきの「わかれうた」が流れる恋愛映画に、ハッピーエンドは約束されていない。 にもかかわらず、「さすらいの恋人 眩暈(めまい)」(小沼勝監督・1978年日活)のなかで徹(北見敏之)と京子(小川恵)が、「わかれうた」をバックに二人だけの暮ら…

サイン本は物神化する——追悼・鈴木則文——

トピック「本好き」について 本好きへの100の質問 にひとつだけ答える。 057. サイン本を持っていますか?(タイトルと作家名は?) 数冊持っているが一冊だけ紹介しよう。 楷書のサインに、「則文」の落款。いわゆるサイン本のイメージとは少し違う高級…

野良猫ロック 暴走集団'71

1970年頃の日本映画は西新宿の風景を使用することが多い。この頃から超高層ビルの建設計画が進められ、1971年の京王プラザホテルを皮切りに現在の西新宿につながる風景が作られてゆくが、まだロケに適した空き地が多かったのだろうか。 新宿駅西口のロータリ…

くちづけ(1957)

拘置所で偶然知り合った若い男女が恋に落ちるまでの二日間。「くちづけ」(増村保造監督・1957年大映)のプロットはそれだけである。 * 選挙違反で捕まった父の面会に小菅の拘置所を訪れた大学生の欽一(川口浩)は、所内の売店で差し入れ品のお金が足りなくて困…

文系だけど宇宙の話が好きな人は野辺山の電波天文台に行ってみよう

今週のお題「海か? 山か?」 高校も大学も文系だったが、ネットのニュース記事で何万光年も彼方の銀河の画像やブラックホールのイメージ図を見かけると思わず見入ってしまう。そういう人は多いのではないかと思う。 国立天文台の各地の観測施設が年1回開催…

青空娘

溌剌としたポニーテールの若尾文子がとても可愛らしい「青空娘」(増村保造監督・1957年大映)は増村-若尾コンビの第1作。ストーリーは小公女ふうの明るい青春ものである。 * 地方の高校を卒業し、有子(若尾文子)は東京で会社を経営している父・小野栄一(新欣…

女の一生(1962)

日露の戦場・旅順の陥落を祝う提灯行列が歩く中、通りの裏のボロ家で折檻されている少女、おけい(京マチ子)がいた。母を幼くして失い、父も日清戦争でなくしたおけいは折檻の末に叔父夫婦の家を追い出され、あてどもなく彷徨ううちに、誕生会を祝う歌声に誘…

セーラー服鑑別所

Dr.スランプのアラレちゃんをマネして「キーーーン」をやりながら校門をくぐったら、学校が鑑別所になっていた。 「セーラー服鑑別所」(川崎善広監督・1982年日活)はそんな不条理なシチュエーションから幕を開ける。ミヨコ(美保純)とヨーコ(中川みず穂)の仲…

美貌に罪あり

杉村春子、山本富士子、若尾文子、野添ひとみ、勝新太郎、川崎敬三、川口浩、藤巻潤。 「美貌に罪あり」(増村保造監督・1959年大映)は没落した地主農家から自立してゆく家族の様々な生き方をオールスターで描く作品。お盆休み向けの目玉作品なので、大事なの…

北陸代理戦争

石川県の指定無形文化財に、能登半島のほぼ先端、輪島市名舟町に伝わる御陣乗太鼓という荒々しい伝統芸能がある。戦国時代、名舟に攻め寄せつつあった上杉謙信の軍勢を、木の皮と海藻でこしらえた異形の仮面とおどろおどろしい太鼓の音で脅かし、戦わずして…

赫い髪の女

6月第2週のNHK連続テレビ小説「花子とアン」は、主人公の祖父、安東周造こと「おじぃやん」が病に倒れてから息を引き取るまでがストーリーの核に描かれていて、必然的に石橋蓮司が大きくクローズアップされる週になった。不在の父、吉平(伊原剛志)に代わって…

赤線玉の井 ぬけられます

きーんらーんどーんすの おーびしーめなーがらはなよめごりょおーは なーぜなーくのーだろー・・・*1 公子(芹明香)は二年を過ごした「小福屋」を足抜けした。小福屋は「お父さん」(殿山泰司)と「お母さん」(絵沢萠子)が切り盛りする、玉の井では珍しくない小…

Let It Goの意味の広さ

トピック「レリゴー」 ディズニーのアニメーション映画「アナと雪の女王」が大ヒットして、挿入歌「Let It Go」がYouTubeで大流行しているそうだ。映画は見ていないが、同曲の動画はYouTubeで英語版、日本語版ともに見させてもらった。どちらも自己肯定感に…

狂った果実(1981)

20歳の哲夫(本間優二)は、昼はガソリンスタンド、夜は歌舞伎町のピンクサロンのボーイとして働いていた。ピンサロのマスター「アニキ」(益富信孝)はタイで活動したこともある元キックボクサーで、ホステスの春恵(永島暎子)と同棲していた。田舎の神社の息子…

激突!合気道

時代は大正の初め。和歌山の旧家に生まれ厳格な父に起倒流柔術を仕込まれた植芝盛平(千葉治郎)は弟子を率いて北海道開拓に赴く。 ある日植芝は北海組の飯場から脱走してきた少年をかくまったことがきっかけで一悶着になるが、北海組の雇われ用心棒で名取流空…

はい、菊池です

5月17日に流れた、二つの芸能ニュース。 マッカートニーさん 体調崩し公演延期 (NHK) 歌手のASKA容疑者を逮捕 覚醒剤所持 容疑を否認 (NHK) これ見て「はい、ポールマッカートニー取り調べ係の菊池です」という伊武雅刀の声が脳内再生された人は間違いな…

喜劇 特出しヒモ天国 (その2)

(承前) ター坊(下條アトム)は、A級京都に出前を届ける聾唖者の青年であった。まだ少年の面影を残すター坊には、しかし、やはり聾唖者の妻かおる(森崎由紀)がいた。 ある日ター坊はかおると共にA級京都で働かせて欲しいと昭平(山城新伍)に頼み込む。やむなく…

喜劇 特出しヒモ天国 (その1)

一が顔で二が持ち物(イチモツ)、三、四がなくて五が親切ーー。 これがストリッパー(業界用語で「タレント」)のヒモ(業界用語で「マネージャー」)稼業で生きていくコツだと、主人公・昭平は(山城新伍)はヒモ仲間から教えられる。女に寄生するヒモには、ルック…

蟹江敬三

3月に胃癌で亡くなった俳優・蟹江敬三のお別れの会が5月13日に都内で開かれたそうだ。 蟹江敬三さん『お別れ会』に700人参列 能年ら“あまちゃん”ファミリーも ニュース-ORICON STYLE- 蟹江敬三がいつ頃からテレビに進出したのか記憶が定かでないが、70年代は…

(秘)極楽紅弁天

(秘)極楽紅(あか)弁天(曽根中生監督・1973年日活)は人別帳にも載らない「帳外長屋」に暮らす、江戸社会の最下層の人びとのパワフルでアナーキーな生き様を描いたロマンポルノ。 長屋の同じ部屋に暮らす主人公・お紺(片桐夕子)は生娘、同居人は男好きのお品(…

幻の馬

馬を一頭しか飼っていない北国の貧しい牧場で、その子馬は夜明けと共に生まれた。 子馬に「タケル」と名づけた牧場の少年、次郎(岩垂幸彦)はタケルをこの上なくかわいがり、ハーモニカを吹いて歌を歌ってやる。タケルが腸の捻れで病んだときは寝ずに一晩中看…

iOS7.1で復活したカレンダーの「閲覧モード」から新規予定を追加するには

今さらな話だが、先日iPhoneのOSをiOS7.1にバージョンアップした。 iOS7.1では標準アプリの「カレンダー」が若干改良されて、月表示に「閲覧モード」が追加された。 カレンダーの月表示の「閲覧モード」ボタンをタップすると・・・ 閲覧モードに切り替わり、…

蟹工船

2008年に「蟹工船ブーム」というものがあった。この年はプロレタリアート作家・小林多喜二が獄中死してから75年の節目に当たり、小林を巡るシンポジウムや感想文コンクールが開かれたのだが、格差社会の中、明るい将来像を描けない若年層の仕事を巡る漠然と…

【書評】世直しとしての地震 — アウエハント『鯰絵』

1855(安政2)年旧暦10月2日夜10時頃、江戸を推定マグニチュード6.3の大地震が襲った。被災者の正確な統計はないものの、死者数千人、家屋倒壊1万数千軒、各地で火災が発生したと推定される。後代、安政大地震と呼ばれる地震である。 地震から数日も経たないう…

メカゴジラの逆襲

本多猪四郎は1993年に81歳で他界するが、監督作品としては「メカゴジラの逆襲」(1975年東宝)が最後となり、結果的にこの作品が本多の遺作となった。また東宝は、本作の興行的な失敗のため「ゴジラ」(1954年東宝)以来20年を経過しマンネリ化していた怪獣映画…

「フクシマ」後のゴジラ

東京・神保町の神保町シアターでゴジラ誕生60周年と新作映画の公開を記念して「ゴジラ映画総進撃」特集を開催している。第1作「ゴジラ」(本多猪四郎監督・1954年東宝)から「ゴジラFINAL WARS」(北村龍平監督・2004年東宝)まで全28本を連続して上映している。…

昼下りの情事 変身

涼子(青山美代子)はごく普通の会社の秘書課に勤めるOLだったが、病弱な父親と幼い弟妹を養うためスナックで夜のアルバイトをしていた。会社から帰ると、またアルバイトに出かける毎日。 アルバイトに出る道すがら、商店街の花屋で花を買っていくのが涼子の日…

現代っ子

居間の鴨居に、額に入れた三枚の表彰状が掲げてある。 「行ってきまーす!」長男のやすし(鈴木やすし)が飛び出すと、真ん中の表彰状がずり落ちてしまう。表彰状を直して、やすしは学校に向かう。 「行ってきまーす!」長女のチコ(中山千夏)が次に飛び出すと…

実録阿部定

彼女のモノローグから、映画は始まる。 あたしは、自分でも数え切れないくらいたくさんの名前を使ってきました。 彼女はいちいち憶えてはいられないほど数十個の偽名を丁寧に一つ一つ挙げ、 でも吉蔵さんが死んで、やっと本当の名前、定に戻ることができたの…

土曜は寅さん!(8): 男はつらいよ 寅次郎純情詩集

ヒロインが不治の病で死ぬというストーリーは喜劇にはあまりないと思うが、「男はつらいよ」シリーズ第18作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」(山田洋次監督・1976年松竹)ではマドンナ、柳生綾(京マチ子)の死によって寅次郞の恋が唐突に終わりを告げる異色の展…