トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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円谷英二

2013年10月23日のNHKニュース。円谷プロの関係者宅から「ウルトラマン」のNGフィルムが見つかったという。

 

ウルトラマンの「NG映像」発見 NHKニュース

 

このニュースのオチは、今回発見されたNG映像は近々発売の「ウルトラマン」Blu-rayボックスに収録予定というところで、ここでニュースじゃなくて宣伝だということがバレるのだが、それはともかく感想2点。

 

  • フィルムだから発見できた

フィルムという物理的なモノに焼き付けることでしか撮影できなかったからこそ、散逸するチャンス、数十年後に再発見されるチャンス、再評価されるチャンスが存在しえた。上書きも再編集も可能な現在のデジタル映像にこのような幸運は期待できないだろう。

 

古いジャズのレコードを再発したCDには「別テイク」と呼ばれる、発売時にボツになった録音をボーナストラックとして収録することが多い。何回かレコーディングを行って、その中で最良のものだけをオリジナルとして発売盤に収録していたという経緯があるから、聞いてみるとボツ曲と言ってもオリジナルと全く遜色はない出来栄えで、なぜこのテイクがダメだったのかはよくわからない。これもアナログ一発録音の時代だから可能になったことで、ミュージシャンは期せずして遠い未来に新曲を送り届けているようなものだ。新発見のNG映像はこれと似たような現象なのだと思う。

 

  • 昔のコストが今や資産

ニュースはこう説明している。

ウルトラマンが怪獣を持ち上げて投げ飛ばすシーンでは、誤ってセットの木まで抜いてしまい、撮り直しとなっています。
しかし、その木には根が付いていて、当時、背景に本物の木を1本1本植えていた様子が分かります。

 特撮監督・円谷英二の芸の細かさを示す逸話だ。しかし職人・円谷のこだわりは、特にミニチュア特撮という金も人手もかかるフィールドではビジネスと両立させるのは困難だったと、円谷英明は『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗 』という回想録の中で指摘している。コスト意識のなさと一流の職人のこだわりはコインの裏表だ。ウルトラマンを一話作り上げるたびに、円谷プロの赤字は膨れ上がって行ったのだから。

 

企業としての円谷プロは、もともと「去る者は追わず」というスタンスだったが、英二の死とともに求心力を失い、悪化しつづける資金繰りと経営者一族の内紛を経て、ついに円谷一族は会社から放逐されてしまう。いま円谷の名を冠するプロダクションに円谷家の人間はいないし、組織を動かしているのは職人ではなく、ライセンスビジネスをなりわいとするサラリーマンの集団だ。醒めた言い方だが、ウルトラマンの製作過程のNGという、円谷英二の職人気質と円谷プロの赤字体質の両方を象徴する映像が、いまやカネを生む資産に化けたというわけだ。

 

ウルトラマンが時代を超えて愛される作品であることは否定しない。だがもう、少なくとも大人たちはウルトラマンを夢とかあこがれ、郷愁だけで語るのはやめにしないか?