トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?

RIETI - 良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?

ペンシルバニア大学のセリグマン教授らが提唱したポジティブ心理学において、人々がどうしたらもっと幸せになれるかの研究が行われている。セリグマンらの研究では、毎晩寝る前に良いことを3つ書くことを1週間継続するだけで、その後半年間にわたって、幸福度が向上し、抑うつ度が低下する(うつの症状が減る)という結果が出た。これが本当であれば、我が国においても、学校や職場などでこのエクササイズを教えれば、幸福度向上およびそれに起因するメリットを多数の人々が享受できることになる。そこで、3つの良いことを書くエクササイズの効果を検証することとした。調査会社のモニターから選ばれた1000名の研究協力者をランダムに2つの群に分け、TGT(Three Good Things)群では、週に2回以上、3つ良いことを書いてもらい、統制群には、過去の思い出を3つ書いてもらった。但し、モニタリングが困難なことなどから毎晩寝る前にエクササイズすることまでは求めなかった。このエクササイズを4週間続けてもらった。

エクササイズの結果、TGT群の肯定的感情の得点がエクササイズ期間の終了直後に上昇したものの、その1カ月後には低下し、効果は持続しなかった(図1)。他の指標(抑うつ度(うつっぽさ)、生活満足度、楽観度、否定的感情)は、エクササイズによる効果はなかった。但し、人を信じる程度を点数化した一般的信頼尺度の得点だけは、TGT群・統制群の双方でエクササイズ後に上昇し、更に1カ月後も両群において上昇した(図2)。

本研究の結果を見る限り、3つの良いことを書くエクササイズは、セリグマンらが指摘したような高い効果はない可能性がある。但し、本研究では、夜寝る前にエクササイズを行うことを義務付けていないなど、セリグマンらの研究と厳密には一致していないことに留意する必要がある。

(強調は引用者による。図1、図2はリンク先参照)

 独立行政法人経済産業研究所(RIETI) は2001年に設立された経済産業省傘下の歴とした政府系シンクタンクだが、そこでは経産省の本業である産業政策そのものに拘らず多種多様な研究が行われているらしく、時々「おっ」と思うような興味深い論文やディスカッションペーパーの情報がメルマガ経由で送られてくる。

 

「寝る前に今日起きた良いことを三つ書く習慣をつけると幸せになる」とはまた、自己啓発本のタイトルのような研究テーマだ。こういうことを大まじめに研究するのがアメリカの心理学のユニークさだが、この研究を国内で検証したのがタイトルのディスカッションペーパー。残念だが、本家が主張する結論を確認することはできなかった。

 

しかし、人々の「心の健康」の維持は、直接的にではないけれども国家経済の問題でもあるという着眼点は正しい。減少する人口、縮小する市場、激化する国際間競争、疲弊してゆく労働現場、そしてそれに伴う心の病の増加。経済が強くあるためにはまず国民が幸せであらねばならないという研究者の思想がそこにある(と信じたい)。

今後の展開に期待したい。