トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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黒蜥蜴

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映画「黒蜥蜴」/ "Black Lizard" - 丸山(美輪)明宏 明智小五郎 OP/ED ...

今年(2013年)の始めごろ、池袋の新文芸坐深作欣二監督の没後10年を記念して、深作作品を日替わり上映する回顧特集をやっていたので、せっせと足を運んでいた。

 

自分にとって深作欣二とは、多くのファンと同じように、何よりも「仁義なき戦い」5部作などの実録路線ヤクザ映画や「狼と豚と人間」などのギャング映画で人間の本性を問いかけた監督である。もちろん実録ものだけが深作作品ではないことは承知しているが。

 

今回の回顧上映の最終日は「黒蜥蜴」(1968年松竹)と「黒薔薇の館」(1969年松竹)の二本立てだったのだが、この日だけ、劇場の客層が前日までと明らかに違うことに気がついた。それまで「北陸代理戦争」や「白昼の無頼漢」を見に来ていたのは100%男性だったが、この日だけは若い女性が半数近くを占めていたと思う。おかしな事もあるものだ、深作欣二に女性客が集まるとは。

 

その謎は上映が始まって間もなく解けた。

「黒蜥蜴」と、そのヒットに気をよくした松竹が再び作った「黒薔薇の館」はいずれも深作欣二が監督としてクレジットされているが、この二作は深作の作品というより主演の美輪明宏(当時は丸山明宏)の作品だからだ。

 

江戸川乱歩推理小説三島由紀夫が舞台化、それを映画化したのが本作品。木村功演じる探偵・明智小五郎美輪明宏演じる美しき女怪盗・黒蜥蜴の捕り物劇であるが、テーマ性よりも耽美的な画面作りで美輪の妖艶な魅力を描ききることに心血が注がれている。なるほど、これは女性受けするのもよくわかる。

 

美輪の歌う主題歌「黒蜥蜴の歌」がまた良い。地下クラブのサイケデリックな狂騒がピタリと止まった途端、かすかに聞こえてくるクラブのオーナー(=黒蜥蜴の表の顔)の優雅なヴィブラート。そして始まるタイトルバック。どこかのファンがこの作品のオープニングとエンディングを一本の動画にまとめてYouTubeにアップロードしているので、ため息の出るような美輪の歌声を堪能してほしい。

 

「黒蜥蜴」は深作欣二のフィルモグラフィの中では特異ではあるが、美輪明宏の世界を思う存分楽しめる作品として記憶に残った。