トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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税金の無駄遣いじゃの

選挙が告示される数日前から、自宅から駅に向かう途中の道ばたに候補者ポスターの掲示板が立つ。高さ1.5メートル、幅3メートルくらいだろうか。白塗りの板に、各候補者のポスターの貼付場所を示す緑のマスが引いてある。告示されてから投票日までの間に、掲示板はポスターでほぼ一杯埋められて、選挙が終わると一週間くらいで撤去される。

 

今の住所に住んで3年、この掲示板を見るのも3度目だ。去年は参議院選挙だった。その前の年は解散した衆議院。今年は都知事選挙。その度にこの掲示板は立てては撤去が繰り返される。使い回ししているのか作り直しているのかは知らない。

 東京都選挙管理委員会の事業概要によると、前回2011年4月10日の東京都知事選挙にかかった費用は約50億円。これには選挙広報にかかる費用、選挙実施の費用、候補者の選挙運動費用の公費負担分が含まれる。財源は都民税である。

 

 今回2014年の都知事選挙も同規模の費用がかかるとすると、5千万円の不明朗な融資で失職した猪瀬前知事の後任を、50億円の税金をかけて選び直すという構図になる。

 

もちろん、前知事の倫理的責任の軽重をカネの多寡で量るべきでないことはわかる。

だがそれでもなお、どこか釈然としない感覚が残るのだ。

 

「税金の無駄遣いじゃの」というフレーズを思い出す。 

仁義なき戦い 頂上作戦 」(深作欣二監督・1973年東映)で宿敵・山守組との全面戦争に備えてバリケードで固めた広能組事務所を、暴力団反対を叫ぶ市民とマスコミの圧力を受けて動き出した警察が包囲する。警官隊は拡声器で広能組組長・広能省三(菅原文太)の出頭を呼びかける。抵抗すれば組が壊滅することを知っていた広能は、ひとり警官隊の前に出て行き、手錠をかけられる。逮捕の直接の容疑は些細な暴行事件だった。両手にはめられた手錠を見つめながら、広能は「税金の無駄遣いじゃの」と広島弁で悪態をつぶやく。ヤクザ同士のケンカに水を差されたことへの小さな抵抗だ。

 

ともあれ広能の逮捕を皮切りに、警察は山守組の幹部組員も次々と検挙し、それぞれのバックについていた関西の広域暴力団も手を引いて、広島ヤクザ戦争は勝者なき幕切れを迎える。

 

断っておくが、自治体の長は選挙で選ぶべきだし、選挙に公費がかかるのも、暴力団排除に公費をかけるのも、その精神と目的において決して税金の無駄などではない。

それでもあの掲示板を見て感じる釈然としなささは、何かしら間尺に合わないことをしているのように思えるからだ。

 

「間尺に合わん仕事したのう」——これも「頂上作戦」中のセリフだが、これについてはいつか機会を改めて書こうと思う。