トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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独立機関銃隊未だ射撃中

戦争映画で密室劇というと、ドイツ映画「U・ボート」(ヴォルフガング・ペーターゼン監督、1981年)のような潜水艦ものがまず思い浮かぶ。潜水艦の搭乗員は、攻撃してくる敵の姿を目で見ることはできない。自艦が敵の水雷で次第に追い詰められていく恐怖は、爆音と振動だけで表現される。そして逃げ場のない海中の閉鎖空間という状況がさらに心理的効果を高める。

 

地上戦ではこういうタイプの映画はつくれないだろうと思っていたが、谷口千吉は「独立機関銃隊未だ射撃中」(谷口千吉監督・1963年宝塚映画)で第二次大戦末期の満州-ソ連国境を舞台として、陸における戦争密室劇を作り上げた。

 


1945年8月11日。満州関東軍第五国境守備隊のトーチカの一つ「マルキの3」(「マルキ」は「キ」を○で囲んだ記号。キは機関銃を配備したトーチカという意味)に新兵・白井(寺田誠)が着任する。マルキの3の班長は山根軍曹(三橋達也)。二番手は百姓あがりの渡辺上等兵(佐藤允)。そして金子三年兵(堺左千夫)、学徒出陣の原一等兵(太刀川寛)。この5人で物語は展開してゆく。

 

白井二等兵の着任まもなくソ連軍戦車部隊の侵攻が始まる。マルキの3は爆音に見舞われる。山根は砲兵トーチカに連絡して着弾点を誘導し、辛うじて戦車を撃退はしたものの、金子は精神に異常を来してしまう。その夜、マルキの3を訪れた小栗中尉(夏木陽介)から受けた命令は「死守」。すなわちここで死ねという事である。

 

翌日、ソ連軍は拡声器で守備隊に降伏を呼びかける。「降伏するなら『死守せよ』と言われたときにしているさ」と山根はつぶやく。「俺は天皇陛下のために戦っているんじゃない。生きるか死ぬか、それだけだ。」

 

再び敵の攻撃。猛烈な爆音。銃眼の隙間から飛び込む敵の跳弾が壁を削り、周辺のトーチカとの連絡も途絶える。山根と渡辺は塹壕を伝って戦車に近づき、手榴弾と地雷で何とか2台の戦車を破壊するが、山根班長は戦死する。指揮官を失ったマルキの3には渡辺、原、白井の3人が残される。

 

さらに翌日、ソ連軍はまたしても流ちょうな日本語で投降を勧告する。「あなた方は立派に戦った」と敵を讃え、「上官たちはもう逃げた」と戦意を萎えさせ、「赤とんぼ」の歌を流して里心を起こし、最後に「五分以内に降伏しなければ攻撃する」と脅す。

 

これ以上の攻撃は無意味だと悟った原は、渡辺と白井にともに投降するよう呼びかけるが、渡辺は、それはできないと答える。

「なぜですか!」

「わからねえ。でもできねえんだ!」

ソ連軍の攻撃が再開する。機関銃を構えた渡辺の顔を、銃眼の向こうから伸びた火焔放射器の炎が焼く。倒れた渡辺に代わって機銃を握った原が、背面の扉から侵入した兵士を蜂の巣にする。だが抵抗むなしく、砲撃はついにマルキの3を崩壊させる。奇跡的に助かった原は土砂の中から起き上がるが、渡辺は軍服だけがのこり、白井は壁にへばりついた肉片と化していた。

 

敵の攻撃も止んだ。マルキの3を這い出した原は周囲に咲き残った雑草の花にふと微笑みかける。がその瞬間、爆音と共に原と雑草は吹き飛んでしまう。


 

勇ましい題名とは裏腹に、「独立機関銃隊未だ射撃中」は一つのトーチカの中だけを舞台に、無残に死んでゆく下級兵の姿を冷酷に描く反戦映画である。

 

Googleでこの作品を検索するとレビューがいくつか見つかるので、ここでは他で指摘されていない点に触れておくと、山根班長が「俺は天皇陛下のために戦っていない」と本音をぶちまける場面が特に印象に残る。密室の中で、ごく少数の部下と死線を共にしているからこそ言える台詞ではないかと思う。