トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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現代っ子

居間の鴨居に、額に入れた三枚の表彰状が掲げてある。

「行ってきまーす!」長男のやすし(鈴木やすし)が飛び出すと、真ん中の表彰状がずり落ちてしまう。表彰状を直して、やすしは学校に向かう。

「行ってきまーす!」長女のチコ(中山千夏)が次に飛び出すと、左の表彰状がずり落ちる。チコは表彰状を直して学校に向かう。

次男の好夫(市川好郎)は表彰状がずり落ちないように抜き足差し足で居間を出ていく。だが玄関を出た途端、三枚の表彰状が全部ずり落ちてしまう。

こんなギャグから「現代っ子」(中平康監督・1963年日活)は始まる。

 

表彰状は交通巡査である三兄弟の父が警視庁から受けたもので、貧しいながらも市村家の誇りだ。だがその日、父は白タクを捕まえようとして殉職してしまう。

 

一家の大黒柱を失った市村家。家財の大半を処分して、チコは母(菅井きん)がお手伝いさんとして働くことになった海運会社の社長・石田家に居候の身に、やすしと好夫は叔父の五郎(桂小金治)の家に世話になる。とはいえ五郎の家も豊かではない。やすしは中学生の好夫を食わせるため学校を辞めて職を探すが、親友で石田家のボンボン・清(市村博)はやすしを芸能界に売り込もうと企み結局大ゲンカ、石田家の父(小沢栄太郎)と直談判して石田の会社で働かせてもらうことになる。

 

石田運輸は東京港に入港した外航貿易船の貨物を、隅田川を往来する数十艘のはしけで都内の拠点に受け渡す物流業の大手。そのはしけの一艘に、やすしと好夫は住み込ませてもらう。同居人はこの道40年のベテラン田原老人(嵯峨善平)。薄暗いはしけの船室を、好夫は一家の誇りである亡父の表彰状で飾る。

 

やすしの仕事が板についたころ、田原は恐れていた定年退職を言い渡される(何かの理由で年金を受け取れない事情があったようだ)。石田社長から「今までご苦労さん」と給金と僅かな退職金を渡された田原は、やけ酒をあおって好夫の大事な表彰状を海に棄て、自らも誤って海に落ちてしまう。そこに運良く駆けつけた好夫が、危ないところを助ける。

 

好夫は人命救助の中学生として警視庁から表彰され、父の表彰状よりも大きな感謝状を受け取って喜ぶ。だがはしけに戻った好夫が見たのは、次の仕事を求めて東京を後にする田原老人の哀れな姿だった。「たぶん仕事は見つからないだろうな」とやすしはつぶやく。自分が田原を助けたのは何のためだったのか。翌日、学校でラジオの取材を受けた好夫は「救助した人の話ばかり聞いて、なぜ救助された人の話は聞かないのか」と席を立ってしまう。

 

好夫はやっと判ったのだ。誇るべきものは表彰状ではなく、表彰に値する立派な行為のほうであるという当然の真実を。そして交通警官として働いた父のように、子供たちを交通戦争から護る行動を始める決意をする。 


 

中平康の映画はエピソードがテンポ良くつながり、スピード感のある展開が魅力だ。「現代っ子」はもともと日本テレビの人気ドラマ(脚本は倉本聰と弘田弘治) の映画化という事情もあって、これだけの要約では多数のエピソードが抜け落ちていて、とても書き切れていない。特に長女チコについてここでは何も触れていないが、彼女を巡るエピソードも三兄弟の成長の物語の中では重要な位置を持っている。

 

ここでは「表彰状」を手掛かりに次男好夫の視点を通してストーリーを書いてみたが、色々な見方ができる映画だろう。ソフト化されていないのが残念である。

 

ブラックシープ 映画監督「中平康」伝

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