トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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喜劇 特出しヒモ天国 (その2)

(承前

ター坊(下條アトム)は、A級京都に出前を届ける聾唖者の青年であった。まだ少年の面影を残すター坊には、しかし、やはり聾唖者の妻かおる(森崎由紀)がいた。

 

ある日ター坊はかおると共にA級京都で働かせて欲しいと昭平(山城新伍)に頼み込む。やむなくター坊の頼みをきいたものの、耳が不自由なかおるが、音楽に合わせて踊るストリッパーを勤まるのだろうか?

 

ある夜、ショーがはねて踊り子たちを送り届けた昭平は、ジーン(池玲子)に「ちょっと見て」とステージの様子を覗くよう促される。そこには、あたかも曲に合わせて踊っているかのように見せるため、必死に踊りのタイミングを体に叩き込むかおるとター坊の特訓風景があった。二人の懸命さに、昭平とジーンは胸を打たれる。

 

かおるの初舞台の日がやってきた。曲が始まる。練習の通りに、かおるは踊り始める。だがまもなく、BGMのテープレコーダーが故障して曲はぐちゃぐちゃになってしまう。だがかおるは、ハプニングが起きたことに気がつかないまま、体で覚えたテンポで華麗に踊り続ける。全然合っていない曲と踊り。観客は大爆笑。かおるは何が起こっているのかわからず、ステージに立ち尽くす。

 

泣きたくなるのを堪えて、覚悟を決めたかおるは即興で踊り始める。その自信に満ちた堂々たる舞に、爆笑していた観客は一転、拍手喝采を送る。

 

ジーンは昭平と別れた後、独りで各地を回っていたが、昭平が大西(川谷拓三)に刺されたと聞いて病院に駆けつける。だが昭平の心が既に自分にないことを知り、病室をあとにする。そこで偶然、ジーンはター坊と再会する。かおるのお産が始まっていたのだ。ター坊はジーンに必死に何かを伝えようとする。ジーンは察する。ター坊は生まれてくる赤ん坊が聾唖なのかもしれないと不安なのだ。「大丈夫よ!赤ちゃんはきっと耳が聞こえるわ!」

 

ジーンとター坊は分娩室の扉に耳を押し当てる。やがて扉の向こうから聞こえてくる赤ん坊の元気な泣き声。ジーンはター坊の手を取り、無事に赤ちゃんが生まれたことを教えてやる。

 


 

この作品のター坊とかおるのエピソードは、いうまでもなく高峰秀子小林桂樹コンビの名作「名もなく貧しく美しく」(松山善三監督・1961年東宝)へのオマージュである。「名もなく〜」が、肩を寄せ合うように生きる障害者の夫婦愛を描いた感動の名作であるのなら、同じ理由で「喜劇 特出しヒモ天国」もまた名作と呼ばれなければならない。

 

ストリップという賤業でも、聾唖者というハンデを負っても、必死に生きていこうとするター坊とかおるの姿に感動を禁じ得ない。それは現代のベートーベンとやら呼ばれたまがい物のドキュメントではなく、虚構だからゆえだと思える。

(了)

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