トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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北陸代理戦争

 石川県の指定無形文化財に、能登半島のほぼ先端、輪島市名舟町に伝わる御陣乗太鼓という荒々しい伝統芸能がある。戦国時代、名舟に攻め寄せつつあった上杉謙信の軍勢を、木の皮と海藻でこしらえた異形の仮面とおどろおどろしい太鼓の音で脅かし、戦わずして退散させたのが由来と言われる。*1


御陣乗太鼓 - YouTube

寺の境内でこの御陣乗太鼓の練習風景を遠巻きに眺めている傷ついたヤクザがいる。この男はこうして、体が癒えるのをまちながら、復讐の機会を淡々と狙っているのである。

 

御陣乗太鼓のクライマックスでは3人の仮面の男が同時に一つの太鼓を叩くのだが、「北陸代理戦争」(深作欣二監督・1977年東映) もまた、この北陸ヤクザ・川田とその仲間わずか3人が関西の巨大組織を、彼らに奪われた福井の土地から追い払うという物語である。御陣乗太鼓は代々名舟の村の者だけに打つ資格が与えられたように、福井のヤクザだけにこの土地を護る資格があるという矜持で川田はケンカを売る。かつて名舟の村民が謙信の軍勢を戦わず追い払ったように、力勝負で不利な巨大組織にあらゆる知恵で対抗する。

 


 

昭和43年、福井県三国に拠点を構える富安組系川田組組長・川田登(松方弘樹)は、競艇場の利権を巡って親分の安本(西村晃)と対立する。川田の恫喝に屈した安本は弟分の万谷(ハナ肇)をけしかけて川田の暗殺を企む。自分の弟分でもある川田の排除に消極的な万谷であったが、既に神戸の広域暴力団浅田組の武闘派幹部・金井(千葉真一)を呼び寄せて川田を潰す覚悟を決めていた安本は、富安組の跡目をエサに万谷に協力させる。

 

万谷は川井の行きつけの喫茶店に4人のヒットマンを差し向け、川田に銃弾の雨とドスの嵐を浴びせる。瀕死の傷を負った川田は愛人・きく(野川由美子)とその弟・隆士(地井武男)の手引で輪島の実家に匿われる。

 

川田が半死半生で輪島に隠れていることを耳にした万谷は、きくを説得して川田の身の安全を保証する替わりに自分の女にさせる。そのころ、川田はきくの妹・信子(高橋洋子)といつの間にか関係を深めることになる。

 

傷を癒やしたものの、自分の組を失った川田は単身で反転攻勢に出る。京都の賭場に万谷を襲撃し、自ら小指を食いちぎって詫びを入れる万谷の左手首を長ドスで切り落としたうえ、返す刀で金井の舎弟をも斬り殺す。その罪を被って服役した万谷は、獄中で金沢谷中組の元幹部、竹井(伊吹吾郎)と出会い、北陸の動きを知る。隆士は金井に寝返り、自分の親に当たる谷中の親分を謀殺したこと。出所して福井に戻れば金井の報復が待っていること・・・

 

川田はきくを通じて浅田組の幹部・岡野(遠藤辰郎)に接触し、金井の動きを封じるよう依頼して出所、さらにの岡野と直談判して自らの金井への復讐を「黙認」するよう頼む。浅田組への叛乱も辞さない危険人物・金井を疎ましく思っていた岡野は、自分の名前を出さないことを条件に川田の要請を請ける。

 

金井の力をバックに福井を支配する万谷から、福井を奪還する川田の作戦が始まる。まず金井のシノギを強奪して軍資金を手に入れた川田と竹井、そして元舎弟の花巻(矢吹二朗)ら3人は名古屋の組織を通じて武器を手に入れ、金井の舎弟をパワーショベルで血祭りにする。労務者を集めてあたかも出入りの準備をしているように見せかけ、頭に血の上った金井が返り討ちを準備していたその時、岡野のタレコミで県警が金井の事務所を一網打尽にする。

 

金井の後ろ盾を失った万谷は一気に弱腰になり、川田は勢力を取り戻すが、こんどは岡野ら浅田組幹部衆が福井に乗り込み、約束に反して名古屋で岡野の名前を出したことを理由に、川田に正式に舎弟になるよう迫る。川田はやむなく受け容れてしまう。なんのことはない、金井から岡野に頭が代わっただけで、福井は相変わらず神戸浅田組の勢力下でしかなかった。

 

一方、壊滅した金井組の残党として追われる身に堕ちた隆士は、川田の妻になったとは言え実の妹である信子を手下に陵辱させ、人質として川田を誘い出す。川田の奇襲作戦で信子は救い出されるが、縛りが解けたその瞬間、信子は包丁を手に取り、実の兄・隆士をメッタ刺しにする。信子は刑務所に送られる。

 

金井のシマを乗っ取り福井に乗り込んだ岡野は巨大なクラブ兼、事実上の浅田組北陸支部をオープンし、万谷から奪い取ったきくをママに据える。川田は金井の残党のチンピラ達をそそのかしてクラブを襲撃させ、それを万谷の計略であるかのように見せかけて、病室に逃げ込んでいた万谷を追い詰め、引退に追い込む。

 

こうして北陸は浅田組舎弟・川田のものになったかのように見えた。だが川田の戦いはまだ終わらない。クラブを襲撃したチンピラ3人を首だけ出して生き埋めにし、ジープで走り回ってその頭をスイカのようにブチ割るという壮絶な処刑を、岡野に見せつける。

 

「ワレ、これはどういうつもりじゃ。」岡野は、チンピラ達が川田の計略に嵌められたという叫びを聞き逃していなかった。川田は、岡野の下にはつかないことを宣言する。北陸ヤクザは盃よりも土地にこだわるのだと。大組織の幹部を前に「勝てないまでも、差し違えることはできますよ」と見栄を切り、岡野を退散させる。

 


 

敵と味方、狙う者と狙われる者が目まぐるしく入れ替わるこの作品は「仁義なき戦い」5部作の広島抗争を一本で再現したかのような内容で、1度見て抗争の全体像を把握することは難しい。40年前の映画ファンはどのようにこの作品をみていたのだろうか。

 

この作品は当初「新・仁義なき戦い」シリーズの1本として予定されていたが、主演予定の菅原文太が降りたために独立した作品として、主演・松方弘樹で製作された。また深作欣二にとってはこれが最後の実録ヤクザ映画となり、以後は「柳生一族の陰謀」をはじめとする大作時代劇へとシフトしてゆく。そういう意味では転機となった作品である。

 

この作品では三つものーー川田と安本=万谷と浅田組の三つ巴の争い、川田と竹井と花巻のトリオ、川田を巡るきくと信子の相克、そしてラストのリンチでカチ割られる三つの頭ーーが複雑に物語を織りなし、中盤の御陣乗太鼓のシーンが「3」の主題を重々しく奏でている。

 

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