トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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青空娘

溌剌としたポニーテールの若尾文子がとても可愛らしい「青空娘」(増村保造監督・1957年大映)は増村-若尾コンビの第1作。ストーリーは小公女ふうの明るい青春ものである。

 

*

 

地方の高校を卒業し、有子(若尾文子)は東京で会社を経営している父・小野栄一(新欣三)のもとに預けられることになった。だが旅立つ直前、彼女は育ててくれた祖母の死の床で、自分は栄一の子といっても妾腹の子であり、実の母・町子(三宅邦子)は満州で父と別れてから行方知れずであることを知らされる。

 

上京して小野の家の世話になることになり、お手伝いさんの八重(ミヤコ蝶々)や末弟の弘志(岩垂幸彦)とは間もなく仲良くなったものの、正妻・達子(沢村貞子)からは冷ややかな目で見られ、物置部屋に住まわされ家政婦同然の扱いを受ける。

 

だが持ち前の明るさで困難をものともしない有子に、長女・照子(穂高のり子)のボーイフレンド・広岡(川崎敬三)は好意を寄せる(一度卓球で勝負しただけなのに、デートもそこそこにあっという間にプロポーズまで行ってしまう急展開!)。 だが有子の心は、恋よりもまだ見ぬ母との再会に捕らわれていた。そこで広岡は、学校を辞めて東京の広告会社に勤めていた有子のもと担任・二見先生(菅原一郎)と有子の母探しに協力することになる。(有子を巡る広岡と二見の恋の駆け引きも楽しい)

 

いっぽう、フィアンセを有子に取られてしまった照子は、有子の大切な母の写真をびりびりに引き裂き、達子とともに有子を小野家から追い出してしまう。達子と意に沿わない結婚をした栄一にとって、唯一愛情を注いだのは町子のほうであり、その子・有子は誰よりも可愛い子であった。だが有子を家族と認めない照子と達子の酷い仕打ちに、栄一は心労に伏せってしまう。

 

有子は一度は故郷に帰ったものの、入れ違いに母が訪ねてきていた事を知り、再び東京へと向かい、同級生の紹介でジャズ喫茶で働き始める。その間にも有子の母探しを手伝っていた広岡はついに有子の母・町子(三宅邦子)の居所を突き止める。

 

涙の再会を果たした有子と町子母娘のもとに、栄一が病床で有子を呼んでいるという報せを弘志が運んでくる。栄一の元に駆けつけた有子は、「お父さんが私を愛してくれたように、お父さんはもっと家族を愛するべきよ」と諭してばらばらな小野家の心を一つに束ね、自分は町子とともに生きていく決意を告げる。

 

そして町子とともに故郷に帰った有子は、まもなく夫となるであろう広岡と岬で青空を仰ぐのだった。

 


 

タイトル通りの青空が美しい、大映の初期カラー作品。カラー映画の魅力を引き出すためか、ここでは東京・南青山に住むブルジョワ家庭のアメリカ風なライフスタイルが描かれる。

 

明日は東京へと旅立つ日、故郷の岬で「東京にも青空はあるかしら?」と有子は問いかける。

「青空は誰の頭の上にもある。皆それに気がつかないだけだ」と二見先生は答える。

「試しに目をつぶってみたまえ。見えるかい?青空が」

「見えるわ、青空が」

物語は大体こんな風なやりとりから始まるのだが、この作品は目をつむる/隠す行為を作品の重要な箇所で使っている。

 

家を追い出され、一度は故郷に帰った有子。そこでご近所さんから、わずか三日前に母が訪ねてきていたことを知らされる。

「ばかなお母さん、なぜ居場所を教えてくれないの・・・」と岬でもの思いに老ける有子の目を、後ろから「だーれだ?」と級友が隠す。そして帰省してきた有子と、有子を追って帰ってきた二見先生を囲んでの小さな同窓会が開かれるが、東京で二見先生に恋人(自称だが)ができていたことを既に知っていた有子は、素直に再会を喜ぶことができないでいる。

クラスメートに目を隠され、そして再び目をあけたとき、有子は女学生が教師に憧れる「はしか」のような恋の病から醒めてしまったのである。

 

二見先生と広岡の協力のおかげでやっと見つかった生母と再会するシーン。広岡は、ある小料理屋に有子を連れて行き、二階にあがってゆくよう促す。「ここは天国への階段だよ」と(キザな奴だな)。そして目をつぶって階段をあがってゆくように指示する。

「いいと言うまで、あけちゃだめだよ。」そう言って広岡は有子を二階の客間に連れて行く。

目を開けた有子の目の前に居たのは、瞼の母・町子であった。もう二度と離れないと、有子は町子を抱きしめる。

 

この作品の中では、目をつむり/隠し、再び開いたときにヒロインの運命が開けてゆく。のちにこのモチーフは視力を永久に奪うという盲目の主題として、「清作の妻」において若尾文子演じる妻が夫の目を潰すドラマの核心部分にまで発展し、さらに「盲獣」の緑魔子、「大地の子守歌」の原田美枝子といった女優を通じて、増村保造がほぼ生涯にわたって描いてゆくことになる。

 

その主題の萌芽が、増村の監督二作目である本作に早くも見られることは極めて興味深い。

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