トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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実録・私設銀座警察

昭和23年11月某日、一人の殺し屋が死んだ。同じ日、マスコミに"銀座警察"と呼ばれた暴力団が公安の一斉検挙で壊滅した。

 

「実録・私設銀座警察」(佐藤純彌監督・1973年東映)は終戦直後の混沌の中にのし上がったならず者たちと、彼らに飼われたヒロポン中毒の殺人鬼、渡井(渡瀬恒彦)を描くことで、時代の徒花になった彼らの"光"と"影"を描いている。

 

昭和21年、戦地から引き揚げてきた二等兵・渡井は妻みつが米兵相手の私娼になり、子供を産んでいたのを見るや激昂、みつを石で殴り殺し、赤ん坊を2階から投げ捨てる。ルンペンとなってゴミを漁っていた渡会は、MPに追われて偶然逃げ込んだ先のバーを根城とする愚連隊に匿われる。

のちに"銀座警察"と呼ばれる愚連隊は池谷(安藤昇)、樋口(梅宮辰夫)、岩下(室田日出男)の兵隊あがりと、戦前からの博徒宇佐美(葉山良二)が、自然発生的に結成した組織であった。当初は新橋界隈の闇市で幅を利かせる三国人に対抗する自警団であったが、やがて銀座を仕切る山根兄弟(郷鍈治、待田京介)を殺害し、そのショバを手中に収める。この時手駒として動いたのが、宇佐美の手でヒロポン漬けにされ、ためらいなく銃をぶっ放す殺人鬼と化した渡会だった。

 

銀座を獲った池谷らはそれぞれに手下を抱え、組織は大きくなる。混乱の時代が間もなく終わることを予期していた池谷は汚職官僚と癒着して羽振りのいい華僑の福山(内田朝雄)を恫喝して得た金で会社を設立し、まっとうな事業で身を立てようとする。

 

時代は池谷に味方した。治安は回復し、ショバ代のシノギが減ってくる宇佐見と、それを尻目にひとり順調な池谷との軋轢が生じる。宇佐見は渡井ら手下に池谷を襲撃させるが返り討ちに会い、渡会も池谷の手下の手で地面に埋められる。宇佐美は池谷を葬るどころか、逆に命乞いをすることになる。

 

しかし運命は池谷を裏切った。舎弟分の結婚式の最中に、殺したはずの渡会が死神のごとく現れ、弾丸が池谷の額をぶち抜く。ヒロポンで見境がつかなくなっていた渡会は宇佐美にさえ銃口を向けたところを取り押さえられる。

 

勝利は一転して宇佐美の手に転がったが、しょせんは一介の博徒にすぎない宇佐美に組織を維持するだけのカネを手にする知恵はない。そんな折り、池谷と福山の接点を嗅ぎ付けた宇佐美は、福山と汚職官僚岡村をリンチにかけ金を吐き出させようとするが、岡村は警察に駆け込み、捕らえられた福山は、はずみでヒロポン注射器を折られた渡会に殴り殺されてしまう。宇佐見のもとに、まもなく一斉摘発が入るとの情報が入る。

 

もう組織の崩壊は止められないところまで来ていた。

「どうせパクられたらうまい酒も女もねえんだ、パーッと行こうぜパーッと!」

楽天的な日和見主義者・樋口の提案で芸者を呼んで酒池肉林の大宴会が催される。座敷の片隅でただ一人渡会だけは、膝を抱えて震えている。乱痴気騒ぎが頂点に達したとき、渡会の禁断症状がはじまり便所に駆け込むが、硬くなった静脈に注射器の針はもう刺せない。渡会は大量吐血の中に倒れこみ、「みつ、助けてくれ」と妻の名を呼ぶ。

 



酸鼻をきわめる暴力描写で有名なこの作品、「てめえこの野郎!」的なセリフの連発、激しくぶれまくるカメラ、そしてこの種の映画では珍しいフリージャズとの相乗効果で酔いそうになる(鶴田浩二の着流しヤクザではありえない音楽だ)。葉山良二の頬の大きな切り傷も、悪ノリとさえ言えるほどの毒々しさを画面に添える。好き嫌いが分かれるだろうが、好きな人はこれを乱調美というだろう。

 

そうしたなかで、人間的な内面をわずかに垣間見せるのが実は渡瀬恒彦演じる死神・渡会である。度会はまもなくヒロポン漬けの廃人にされるという役どころで、セリフはほとんど与えられず、弾を撃つかクスリを打つかする以外はしゃがみ込んでいるだけ。生きた屍という表現がこれほど合う役はそうそうない。それだけに、渡会が血反吐の中で妻に救済を求める叫びがやけに耳に残る。

だが渡会は決して救われることはないだろう。 

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