トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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ジーンズブルース 明日なき無頼派

猟銃を構えた梶芽衣子の額のど真ん中に、小さな穴があく。

その穴から一筋の血がすーっと流れる。

彼女が目を見ひらいたまま崩れ落ち、バストショットのフレームの下に消えていくまでがスローモーションで捕らえる。

梶芽衣子が警察の狙撃隊に撃たれ絶命するこのラストシーンのだけのために、「ジーンズブルース 明日なき無頼派」(中島貞夫監督・1974年東映)は作られていると言っていい。

 

*

 

誰もいない深夜の十字路、二台のクルマが接触事故を起こす。一台に乗っていたのはチンピラの次郎(渡瀬恒彦)。ヤクザの本郷(内田良平)の命令で高利貸し殺しを手伝ったが、自分も証拠隠滅のため葬られると知って、高利貸しの金500万円を奪って逃げている真っ最中だった。

もう一台のクルマに乗っていたのは聖子(ひじりこ)(梶芽衣子)。乱交バーの雇われママ、爛れた商売の毎日に嫌気がさし、預かった車のキーでどこへともなく飛ばしていた。 

事故で漏れたガソリンが引火して二人の車を燃やしてしまったことから、二人は通りがかった車を奪って逃避行を共にすることになる。 

「久し振りにスッとしたわ、燃えているクルマ見て。さっきどこ行くつもりだったの?」

丹後半島さ。行こうぜ一緒に。なんか、あんたとだったら気が合いそうな気がするんだよ」

 翌朝、ガレージで買ったポンコツ車で東名高速を西へ進む二人を、本郷とその手下早川(室田日出男)、石松(川谷拓三、極度の吃音でほとんどまともに喋れないという設定が良い)、それに本郷の女マリー(加納えり子)が追う。

 

京都のモーテルに宿を取った次郎と聖子だったが、次郎に迫られたのを聖子が拒んだためにケンカになり、次郎は「女なら外になんぼでもおるんじゃ!」とカネをもったまま飛び出すが、ふとしたはずみみで大金の札束を歩道橋の上からばら撒いてしまう。ドライバーたちが落ちてきた万札を拾おうと路上は大騒ぎに。警察も出てくる騒ぎになり、ほとんどのカネを失った次郎は聖子の運転で再び逃げ出すが、運悪く本郷らに見つかり、振り切ろうとするうちに車をぶつけて次郎は右手の親指切断の重傷を負う。

 

なおも追ってくる本郷たちから逃れた先は貨物列車のコンテナ。次郎と聖子はコンテナの外から施錠され、どことも知れない先へと運ばれる。絶望の中、次郎は、500万円は故郷の妹に渡すはずだったと語る。次郎の妹・百合子(堀越陽子)は病気の友達の手術代を工面するために勤め先の農協の金庫から横領し、次郎に助けを求めていた。次郎は妹のために危険を冒して本郷から金を奪ったのだ。

「出たら別れよう。ワイとおったらあかんねや。ワイとおったら殺されてまうんや。ワイはホンマにアホや。スカタンや。生まれてからいっぺんもツイたことなんかあらへん。こんなアホと一緒で・・・」

「アンタと居るわ。そう決めたのよ。お金なんか何とかなるわ。追っかけてくる奴だって、その気になれば・・・」

聖子はこの、運から見放された男を護ろうと決意する。

 

ようやくコンテナが開けられる。コンテナから飛び出した次郎と聖子はハンターから猟銃を奪い、ガソリンスタンドを襲い、賭博場を襲撃してカネを奪い、追ってくるパトカーに発砲しながら丹後を目指す。一方、次郎の行き先が故郷の丹後だと勘づいた本郷は、先回りして百合子の身柄を抑える。

 

丹後に舞い戻った次郎は、百合子に裏山の山小屋でカネを渡す約束をする。だが翌朝、約束の場所に現れたのは百合子だけではなかった。本郷たちも一緒だった。早川は次郎を嘲笑う。お前は大甘だ、百合子はオトコに貢ぐカネ欲しさに嘘っぱちの手紙を次郎に寄越したのだと。

 

裏切り者は生かしちゃおけねえ。本郷たちは次郎をメッタ差しにする。見張りに立っていた聖子が猟銃を手に駆けつけたとき、もう次郎は虫の息だった。聖子は石松を撃ち、本郷たちを追い払う。山小屋に逃げ込んだ聖子は、次郎の最後の頼みを叶えてやる。銃弾が次郎の心臓を打ち抜く。

 

通報で駆けつけた警察が山小屋を包囲する。聖子は百合子を解放し、次郎が命がけで作ったカネに火を放ち、たった一人警官隊に立ち向かう。

 


 

「ジーンズブルース 明日なき無頼派」は、企画経緯を調べたわけではないが「俺たちに明日はない」(Bonnie and Clyde, アーサー・ペン監督・1967年アメリカ)の翻案であり、それは次郎が京都で自分用に仕立てる格子模様のスリーピースとハンチングが、30年代アメリカのギャング・ファッションを田舎者がやるとこうなる、といった風情でまるでサマになっておらず吹き出すようなシーンに垣間見ることが出来る。

 

大恐慌期のアメリカで強盗殺人を繰り返した末に、最後は警察の手で車ごとハチの巣にされて短い生涯を散らしたボニー・パーカーとクライド・バーロウの、破天荒ながら火花のように輝く物語は「暗黒街の弾痕」(You Only Live Once, フリッツ・ラング監督・1937年アメリカ)以来たびたび映画・ドラマ化されているが、クライマックスはやはりその壮絶な死に様だ。下の動画は2013年にアメリカのA&E TVが製作したミニシリーズからのもので、ボニーにはイギリスの女優ホリデイ・グレインジャー、クライドをエミール・ハーシュが演じている。

 

1934年5月23日、実在のボニーとクライドもルイジアナ州の田舎道でこのようにあっけなく殺され、ハチの巣にされたフォードV8の記録映像はYouTubeで見ることができる。

 

オートマチック・ライフルで武装し茂みの中で待ち伏せ、最初の一発で死んだ相手に追い打ちの憎悪をぶつけるかのように何十発もの銃弾を浴びせるのは、太平洋の向こうに暮らす我々の感覚からすると、却って警察のやり方らしさを感じられない。このシーンゆえにボニーとクライドの悲劇はアメリカの人々の共感を得ているのは事実だろうが、日本を舞台に翻案するには別の死なせ方のほうが相応しい。

 

そこで、中島貞夫は警官隊に包囲された梶芽衣子が、たった一発の銃弾で倒れる場面をサラリと描くことで、日本版ボニーとクライドの旅路のあっけない終わりを表現しようとしたのだろう。そしてその戦術は見事に当たっていると思う。

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