トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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ゴルゴ13

片付けをしていたら、昔録画した「ゴルゴ13」(佐藤純彌監督・1973年東映)のDVDが出てきた。引っ越しの時に捨てたものだとばかり思っていた。

原作者のさいとう・たかをは、主人公デューク・トウゴウを高倉健をイメージしながら作ったと聞いているが、高倉健主演によるこの長寿マンガの最初の映画化作品は、彼のフィルモグラフィーとしては珍品というべきもので、テレビ放映されること自体珍しく(B級映画に強いテレビ東京さまさまである)、友人に録画DVDを貸して見せたことがある。

 

いずれにしてもこのタイミングでDVDが出てくるということも天国の健さんの配剤だろう。せっかくなので追悼を込めて観ることにした。

 

ジャンルとして確立しているわけではないが、古い日本映画のなかには「観光映画」と呼ぶべきタイプの作品がある。外貨持ち出し制限などの理由で海外旅行のハードルが高かった時代に、外国政府や航空会社とのタイアップで海外ロケを敢行して観客に異国情緒を楽しんで貰うタイプの企画作品を個人的にそう呼んでいる。石原裕次郎主演の「アラブの嵐」(中平康監督・1961年日活)や森繁久彌の人気シリーズの一本「社長外遊記」(松林宗恵監督・1963年東宝)などがそうだ。

 

「ゴルゴ13」はハードなストーリーながらその流れを汲む作品で、イラン政府が製作に協力し、ほぼ全編をイランでロケし、ゴルゴ13は標的を追って首都テヘラン、古都イスファハンペルセポリスの遺跡、そして砂漠を移動する。キャストは高倉健以外全員イラン人(ただしセリフはすべて日本語に吹替えというのがマンガっぽくて良い)。目下のイランの国際的な立ち位置を考えると信じられないような文化開放ぶりだが、時代は79年のイスラム原理主義革命の前、親米派の王朝政権のおかげだ。スタッフロールに映るアーザーディー・タワーは当時シャーヤード(シャー[王]の栄光)・タワーと呼ばれていた。

予告編に観光映画ぶりがよく現れていると思う。



ストーリーは、いつもの「ゴルゴ13」だと思えばいい。某国情報部は貿易商を隠れ蓑にした国際麻薬・売春シンジケートの大ボス、マックス・ボア(ガダギチアン)がイランに潜伏していることを掴んだが、潜伏先は外国、しかも犯罪人引渡条約未締結国なので大っぴらに身柄を抑えることができない。ボア暗殺のためテヘランに送り込んだ工作員は次々と返り討ちに遭い、情報部長フラナガンはやむなくゴルゴ13に仕事を依頼する。が、実は誰もマックス・ボアの顔を知らない。人前では常に身代わりを立てているからだ。

 

テヘランに潜入したゴルゴは情報屋のエフバリに調査を依頼するが、エフバリは「マックス・ボアは小鳥を可愛がる」というダイイング・メッセージを残して殺される。殺害現場に居合わせたゴルゴは警察から追われる身になるが、情報部からゴルゴを追って来たキャサリン(プリ・バナイ)の助けで難を逃れる。小鳥を肩に乗せたボアの身代わりを撃ち、ボアの手下、盲目の殺し屋ワルター(ヤドロ・シーランダミ)に敢えて捕らえられたゴルゴはボアの居所がイスファハンであることを掴むと、ワルターを倒しキャサリンイスファハンに向かう。テヘラン警察のアマン警部(モセネ・ソーラビ)も、取り逃がした正体不明の東洋人が市内で頻発する女性誘拐事件に関与している疑いを深め、後を追う。

 

イスファハンでボアの屋敷を突き止めたゴルゴは、ボアが日課にしている庭でのモーニング・ティーを塔の上から狙う。だがテーブルには全く同じ背格好の男が6人。本物のボアは誰だ・・・ゴルゴのM16はテーブルの鳥かごを撃つ。伏せる6人の男の間を、鳥かごから出たオウムが渡り歩く。オウムが乗った肩の男・・・その男がボアだ。だがボアをスコープに捕らえた瞬間、ボアの一味の銃弾がゴルゴに襲いかかる。助っ人に駆けつけたキャサリンは逆に捕らえられてしまう。

 

ボアはゴルゴをおびき出すため、さらった女達(その中にはキャサリンも、アマン警部の妻もいる)をペルセポリスに連れ出し、ゴルゴに投降しなければ一人ずつ女を殺すと呼びかける。ボアの居場所を探すゴルゴ。ボアの手下ダグラスはキャサリンを撃つ。ゴルゴに出てきてはいけないと呼びかけ、キャサリンは倒れる。犯罪の全貌を掴んだアマン警部が妻を救い出すため一味に殴り込むが、健闘むなしく命を落とす。ボアを殺せというゴルゴへの伝言を残して。

 

ボアの後を追って砂漠へと車を走らせるゴルゴ。だが視界の先に、ボアとダグラスの乗った二機のヘリが待ち構える・・・

 

この時期高倉健は任侠路線の終了とともにやくざ映画から卒業し、任侠スターからの脱皮を図っていた時期である。時折しも東映のドル箱は「仁義なき戦い」の大ヒットで火がついた実録路線であった(「ゴルゴ13」の前に佐藤純彌が撮ったのが「実録・私設銀座警察」である)が、高倉健が登板することはなかった。

 

「幸せの黄色いハンカチ」(山田洋次監督・1977年松竹)をきっかけに、高倉健は人情味あふれる人柄を木訥に表現するシャイな男、というイメージを作り上げて成功してゆくが、もともと高倉健東映東京撮影所のギャング映画で地歩を築いた人であって、欲望やアクションをぶっきらぼうに表現するところに原点があると思う。その魅力を引き出していたのが60年代では「狼と豚と人間」「ジャコ萬と鉄」の深作欣二、70年代では「新幹線大爆破」の佐藤純彌ではなかろうか。そういう意味で、「ゴルゴ13」も高倉健の代表的な一本に数えたい。

 

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