トーキョーナガレモノ 日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。 2015-09-22T21:08:43+09:00 sny22015 Hatena::Blog hatenablog://blog/12921228815711227703 プログラミング本に人生を影響されたっていいじゃないか hatenablog://entry/6653458415122237694 2015-09-22T21:08:42+09:00 2015-09-23T10:33:16+09:00 今週のお題「人生に影響を与えた1冊」 去年の夏はフィルムセンターで毎日のように増村保造のメロドラマを観ていたのに、今年の夏はほとんど映画を観ることができなかった。 きっかけはこの本だった。 プログラマのためのコードパズル ?JavaScriptで挑むコードゴルフとアルゴリズム 作者: 柳井政和 出版社/メーカー: 技術評論社 発売日: 2014/02/19 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る JavaScriptプログラミングの本である。 解説書や入門書ではないのでJavaScriptの文法に通じていないと読み通すのは難しいが、jQuery等の知識は必要ない。 この本のテー… <p><a class="keyword" href="http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/odai">今週のお題</a>「人生に影響を与えた1冊」</p> <p>去年の夏はフィルムセンターで毎日のように<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>のメロドラマを観ていたのに、今年の夏はほとんど映画を観ることができなかった。</p> <p>きっかけはこの本だった。</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00IJ7EAPM/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="プログラマのためのコードパズル ?JavaScriptで挑むコードゴルフとアルゴリズム" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51hlFuu6IAL._SL160_.jpg" alt="プログラマのためのコードパズル ?JavaScriptで挑むコードゴルフとアルゴリズム" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00IJ7EAPM/scorpion701-22/">プログラマのためのコードパズル ?JavaScriptで挑むコードゴルフとアルゴリズム</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> 柳井政和</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%BB%BD%D1%C9%BE%CF%C0%BC%D2">技術評論社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/02/19</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Kindle">Kindle</a>版</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00IJ7EAPM/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>プログラミングの本である。</p> <p>解説書や入門書ではないので<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>の文法に通じていないと読み通すのは難しいが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/jQuery">jQuery</a>等の知識は必要ない。</p> <p>この本のテーマは「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>」。ゴルフが少ない打数でカップインを目指すように、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>はいかに少ない文字数で結果を出力するかを競う遊びだ。</p> <p>実例を見るのが早いだろう。本書の最初の問題「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%B9%A5%AD%A1%BC%A5%A2%A1%BC%A5%C8">アスキーアート</a>で丸を描こう(1)」から。(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%DE%A1%BC%A5%C8%A5%D5%A5%A9%A5%F3">スマートフォン</a>で見えやすいように、丸のサイズをオリジナルの半分にしています) </p> <p>█ 普通の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>コード (runをクリックして実行)</p> <script src="//repl.it/embed/BJng/5.js"></script> <p>█ <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>コード (runをクリックして実行)</p> <script src="//repl.it/embed/BJng/6.js"></script> <p>function(){ ... }内の文字数を比べてみると、上は350文字、下は76文字しかない。同じ結果を得るのに、その気になればここまで短く書けるのである。</p> <p>もちろん短くするために色んなものが犠牲にされている。インデントもスペースもない、変数名が一文字しかない、if<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%C6%A1%BC%A5%C8%A5%E1%A5%F3%A5%C8">ステートメント</a>を<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B9%E0%B1%E9%BB%BB%BB%D2">三項演算子</a>で代用している、forループに変な書き方をしている、これらのために可読性はひどく低下している。特にvarを省略しているので全ての変数が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B0%A5%ED%A1%BC%A5%D0%A5%EB%CA%D1%BF%F4">グローバル変数</a>になっているのはミスを招きやすく危険だ。業務でこういうコードを書いたら間違いなく怒られるだろう(自分は仕事でプログラミングをすることがないのでそういう機会はないのだが)。だから<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>は「遊び」と割り切るプログラミングだ。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>は腕に覚えのある<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%DE%A1%BC">プログラマー</a>の手なぐさみに過ぎないのだろうか。そうではない。</p> <blockquote> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>を上手く行うには、その<strong><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%DF%A5%F3%A5%B0%B8%C0%B8%EC">プログラミング言語</a>の仕様を熟知していなければなりません</strong>。また、問題によっては、<strong>同じ処理を別の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>で置き換えたり、提示されたデータを<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>で生成</strong>したりして、文字数を削減する必要があります。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>は、言語仕様の知識と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>に対する造<ruby>形<rt>ママ</rt></ruby>、柔軟な発想が求められる、<strong><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%DE">プログラマ</a>向けの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D1%A5%BA%A5%EB%A5%B2%A1%BC%A5%E0">パズルゲーム</a></strong>です。(序文より)</p> </blockquote> <p> 「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>」という言葉が3回出てきた。たしかに、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>のプログラミング経験がある人なら、「;」は省略可能であることも、for文やif文の「{}」も、既述のようにvarも略せることは知っている。ここまでは言語仕様の熟知の範囲でできることだ。</p> <p>さらにその先の、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>の工夫を凝らすところに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>の面白さがある。Mathオブジェクトを使わずに計算する、定数で置換可能な変数は定数にする、文字列に添字を渡して文字を取得する、二重ループを一重に変換する…これらは人間の頭を使わないとできない、奥深い<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%DF%A5%F3%A5%B0%A5%C6%A5%AF%A5%CB%A5%C3%A5%AF">プログラミングテクニック</a>だ。これらを駆使して短く書くための論理構造を手と頭を駆使して考える。そしてある時「あー、こうすれば短くなるじゃん!」という気づきが訪れる(そうならない時もあるが)。その、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B4%A5%EA%A5%BA%A5%E0">アルゴリズム</a>をうまくコードにはめ込んで動かした瞬間の面白さに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>の真髄がある。実に知的な遊びではないか。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>に限らずプログラミング本は何冊も読み、読んでは挫折を繰り返した。だがプログラミング本で知的興奮を覚えたのは本書が初めてだった。もっと若い時にこんな本に出会いたかった。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>はブラウザさえあれば実行可能だし、編集はエディタさえあればいい。今は<a href="https://repl.it">repl.it</a>や<a href="http://ideone.com">Ideone.com</a>のようなオンラインのコードエディタもある。結果はオンラインコードエディタの「run」をクリックすれば即座に表示される。プログラミング環境を用意する必要はなく、チャレンジする気さえあればいつでも始められ、コーディングに専念できるのが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/JavaScript">JavaScript</a>を<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A1%BC%A5%C9%A5%B4%A5%EB%A5%D5">コードゴルフ</a>言語に採用した本書の狙いである。</p> <p> </p> <p>本書は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EA%A5%AF%A5%EB%A1%BC%A5%C8">リクルート</a>のITエンジニア向けスキル評価サービス<a href="https://codeiq.jp">CodeIQ</a>で著者が出題した問題をセレクトし解説を加えて一冊にまとめたもの。「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%DE">プログラマ</a>のためのコードパズル」に感化されてしまった自分は夏じゅう、開いている時間をほぼ全てCodeIQの問題解きに使ってしまった。プログラミングスキルは上がったか?それは聞かないでほしい。</p> <p> </p> <h5>カテゴリ「読書」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2015/06/09/005142">ある東大生の遺書</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/07/232337">新橋ロマン劇場が最後の番組に選んだ作品と、その歴史</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/12/025939">サイン本は物神化する——追悼・鈴木則文——</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/31/184405">【書評】世直しとしての地震 — アウエハント『鯰絵』</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/26/004818">連想読書</a></li> </ul> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 最前線物語 hatenablog://entry/6653458415121513460 2015-09-21T11:42:35+09:00 2015-09-22T23:33:48+09:00 「気狂いピエロ」(Pierrot le Fou, ジャン=リュック・ゴダール監督・1965年フランス)を見たという人も今ではもう少ないだろうと思うので、この作品に本人役で出演したサミュエル・フラーの有名な言葉を引用しておくのは無駄ではないだろう。 映画は戦場のようなものだ…愛、憎しみ、暴力、死。一言で言えばエモーションだ。*1 ゴダールの支持表明によって、サミュエル・フラーは映画スノッブの間でイコンと化してしまった感があった。手許にある何冊かの映画本のPDF(自炊してテキスト埋め込んだ)、「サミュエル・フラー」と検索すると出てくる膨大な結果には辟易させられるほどだ。蓮實重彦、江戸木純、藤原帰一… <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%A4%B6%B8%A4%A4%A5%D4%A5%A8%A5%ED">気狂いピエロ</a>」(<em>Pierrot le Fou</em>, <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B8%A5%E3%A5%F3%3D%A5%EA%A5%E5%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B4%A5%C0%A1%BC%A5%EB">ジャン=リュック・ゴダール</a>監督・1965年フランス)を見たという人も今ではもう少ないだろうと思うので、この作品に本人役で出演した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>の有名な言葉を引用しておくのは無駄ではないだろう。</p> <blockquote> <p>映画は戦場のようなものだ…愛、憎しみ、暴力、死。一言で言えばエモーションだ。<a href="#f-79b36f1e" name="fn-79b36f1e" title="https://en.wikipedia.org/wiki/Samuel_Fuller#Acting">*1</a> </p> </blockquote> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%C0%A1%BC%A5%EB">ゴダール</a>の支持表明によって、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>は映画<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%CE%A5%C3%A5%D6">スノッブ</a>の間でイコンと化してしまった感があった。手許にある何冊かの映画本のPDF(自炊してテキスト埋め込んだ)、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>」と検索すると出てくる膨大な結果には辟易させられるほどだ。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CF%A1%D5%E9%BD%C5%C9%A7">蓮實重彦</a>、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%BE%B8%CD%CC%DA%BD%E3">江戸木純</a>、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%A3%B8%B6%B5%A2%B0%EC">藤原帰一</a>までが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>を賞賛する。だがフラーほど名前だけ知られ、その作品に直に触れる機会がお寒い状況だった監督もそう居ないのではないかと思う。</p> <p> </p> <p>かく言う自分もフラーの作品と言えば「鬼軍曹ザック」(<em>The Steel Helmet</em>, 1951)、「最前線物語」(<em>The Big Red One</em>, 1980)、「ストリート・オブ・ノー・リターン」(<em>Street of No Return</em>, 1989)くらいしか見られていない。それも20年ほど前のことだ。</p> <p> </p> <p>国立東京近代美術館フィルムセンターで開催中の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%D4%A4%A2%A5%D5%A5%A3%A5%EB%A5%E0%A5%D5%A5%A7%A5%B9%A5%C6%A5%A3%A5%D0%A5%EB">ぴあフィルムフェスティバル</a>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/PFF">PFF</a>)が今回、若い映画作家に作品を見て欲しい特集上映として<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>を選んだのは賢明なことだと思う。もうそろそろスノビスムは終わりにして、あらためて<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>を見てみようではないか。そういうメッセージが込められている気がした(あくまで気がしただけだが)。聞けばフラーの特集上映は1990年以来だから実に25年ぶりだ。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/PFF">PFF</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>特集上映第1弾「最前線物語」は、合衆国陸軍歩兵として<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E8%C6%F3%BC%A1%C0%A4%B3%A6%C2%E7%C0%EF">第二次世界大戦</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%A5%A2%A5%D5%A5%EA%A5%AB">北アフリカ</a>〜欧州戦線を転戦したフラーの実体験に基づく物語だという。原題The Big Red Oneはヘルメットにつけられた陸軍第一歩兵師団の赤いマークのことだが、19世紀アメリカの作家スティーブン・クレインの戦争小説「勇者の赤いバッジ」(<em>The Red Badge of Courage</em>)を思わせずにはいられない。上映前の短いトークショーで話されていたことだが、この作品のオリジナルは6時間にも及び、それをフラー自身が編集して4時間半にまで縮めたが、製作元の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EF%A1%BC%A5%CA%A1%BC%A1%A6%A5%D6%A5%E9%A5%B6%A1%BC%A5%BA">ワーナー・ブラザーズ</a>はフラーを閉め出して1時間56分にまで短くしたとのことだ。フラーの不満は想像に難くない。だがそのおかげで、この作品に商業的成功をもたらしたことも認めなければならないだろう。(下記の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Amazon">Amazon</a>のリンクはフラー没後の2004年にリコンストラクション・エディションとして発売されたもので、追加シーンを含めて2時間43分になっている)</p> <p> </p> <p>この作品は、戦争が終わる場面から始まる。1918年、独仏戦線。&lt;戦争は終わった&gt;と近づいてくるドイツ兵を、"軍曹"(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EA%A1%BC%A1%A6%A5%DE%A1%BC%A5%F4%A5%A3%A5%F3">リー・マーヴィン</a>)は敵の計略と誤解して刺殺してしまう。だが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%D4%CF%B9%E8">塹壕</a>に帰ると、彼は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E8%B0%EC%BC%A1%C0%A4%B3%A6%C2%E7%C0%EF">第一次世界大戦</a>は本当に8時間前に終わっていたことを知らされる。</p> <p>殺してはならない者を殺してしまった悔恨を抱えたまま、1942年、新兵たちを連れて"軍曹"は第二次大戦の最前線に立つ。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B8%A5%A7%A5%EA%A5%A2">アルジェリア</a>で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%F3%A5%E1%A5%EB">ロンメル</a>の戦車隊に追われ、生き残ったのは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%F3%C5%F9%CA%BC">二等兵</a>グリフ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A1%BC%A5%AF%A1%A6%A5%CF%A5%DF%A5%EB">マーク・ハミル</a>)らわずか4名。"軍曹"の第18小隊は地中海を渡って<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%C1%A5%EA%A5%A2">シチリア</a>に上陸、そして英国から<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CE%A5%EB%A5%DE%A5%F3%A5%C7%A5%A3">ノルマンディ</a>ー上陸作戦に参加、ドイツ軍との一進一退を続けながら<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%A7%A5%B3%A5%B9%A5%ED%A5%D0%A5%AD%A5%A2">チェコスロバキア</a>へと向かう。</p> <p>そして1945年5月。&lt;戦争は終わった&gt;と近づいてくるドイツ兵に"軍曹"はナイフを突き立てる。だが再び、終戦が事実だと知った"軍曹"は踵を返し、今まで虫けらのように殺してきた無名のドイツ兵を、「お前だけはなんとしても助ける」と救助する。</p> <p> </p> <p>この間、さまざまなエピソードが綴られる。"軍曹"がかつて過ちを犯した北フランスの荒野。巨大な十字架が20年前と同じ様ににそびえ立つその場所で、死んだふりをして待ち伏せるドイツ兵たちを蹴散らした小隊の前に、一台の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%A4%A5%C9%A5%AB%A1%BC">サイドカー</a>が飛び込んでくる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%A4%A5%C9%A5%AB%A1%BC">サイドカー</a>には陣痛に苦しむ妊婦。運転手の夫は死んだ。小隊は止むに止まれず敵の放棄した戦車の中でお産を手伝う。ゴム手袋の代わりにコンドームを指につけ、今し方まで敵兵をなぶり殺しにしていた戦車の中で新しい命を見届ける。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%C1%A5%EA%A5%A2">シチリア</a>では、丘の上の小屋に隠れた戦車を背後から攻撃する。戦車の周りは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%C1%A5%EA%A5%A2">シチリア</a>の農婦たちがドイツ兵の監視の下、農作業のふりをさせられている。小隊が戦車を制圧すると、農婦たちは鍬や鋤で監視兵を切り刻む。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D9%A5%EB%A5%AE%A1%BC">ベルギー</a>では内通者の手引きで、ドイツ軍に占拠された修道院を襲撃する。精神病者を保護するその修道院では、狂人たちと軍人たちが向かい合って食事を共にしている。そこで狂女のふりをした内通者(この役を演じる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%C6%A5%D5%A5%A1%A1%BC%A5%CC%A1%A6%A5%AA%A1%BC%A5%C9%A5%E9%A5%F3">ステファーヌ・オードラン</a>という女優は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AF%A5%ED%A1%BC%A5%C9%A1%A6%A5%B7%A5%E3%A5%D6%A5%ED%A5%EB">クロード・シャブロル</a>の夫人だそうだ)が踊りながら次々とドイツ兵の喉を掻き切ってゆく。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%A7%A5%B3%A5%B9%A5%ED%A5%D0%A5%AD%A5%A2">チェコスロバキア</a>、ファルケナウ。何の場所なのか知らないままドイツ軍の施設を襲撃した"軍曹"の小隊は、そこで一列に並んだ焼却炉を発見する。グリフがその一つを開ける。グリフは焼却炉の中に、人間の白骨死体が折り重なっているのを発見する。ここは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%AF%C0%A9%BC%FD%CD%C6%BD%EA">強制収容所</a>だったのだ。グリフは隣の焼却炉を開ける。拳銃を手にした<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CA%A5%C1%A5%B9">ナチス</a>の男が隠れている。グリフは無表情に突撃銃の引き金を引く。バン、バン、バン…と十数発の銃声が収容所に響き渡る。</p> <p>いっぽう、"軍曹"は生き残った一人の幼い少年を発見する。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E6%A5%C0%A5%E4">ユダヤ</a>人か、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DD%A1%BC%A5%E9%A5%F3%A5%C9">ポーランド</a>人か。衰弱しきった少年に言葉は通じない。ミルクを飲ませ、パンを食べさせて少し元気が出た少年を、"軍曹"は肩車に乗せて散歩する。無邪気に"軍曹"の肩にのる少年。だが間もなく、少年はガクンと頭を下げる。命が尽きた少年を乗せたまま、軍曹は30分構内を歩き回った…とグリフのナレーションが語る。</p> <p> </p> <p>敵に対して無感覚に引き金を引ける生命観の摩耗と、敵でないものに対する溢れる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%E5%A1%BC%A5%DE%A5%CB%A5%BA%A5%E0">ヒューマニズム</a>が一人の人間の中に混在する。その矛盾を引き受けなければ前線では生き残れない、とこの作品は言っているように思える。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B8%A5%A7%A5%EA%A5%A2">アルジェリア</a>での最初の戦闘におそれをなしたグリフは、自分にはmurderはできないと呟く。"軍曹"はmurderではない、killだと言う。若いグリフにmurderのkillの区別はつかない。だがためらいは恐れを生み、恐れを抱けば戦場では生き残れない。グリフはD-デイの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AA%A5%DE%A5%CF">オマハ</a>ビーチで身をもってそれを知ることになる。前からはトーチカの銃弾の雨、後ろからは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%B0%BF%CA">前進</a>せよという"軍曹"の威嚇の一発。「最前線物語」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A1%BC%A5%AF%A1%A6%A5%CF%A5%DF%A5%EB">マーク・ハミル</a>にフォースの導きなどない。目の前の過酷な現実があるだけだ。グリフは歯を食いしばって進むことを選ぶ。</p> <p> </p> <p>映画に始まりと終わりがあるように、戦争にも始まりと終わりがある。終わったその瞬間から、敵は敵でなくなり、殺すべき命は救うべき命になり、killはmurderになる。"軍曹"は先の大戦でそのことを知っていた。だが終わりがいつ訪れるのかは、前線の兵士にとっては神の振る舞いのように不可知だ。世界が一変する終戦の時まで、そしてその時に生き延びていられるまで、兵士は葛藤を抱えてkillを続けなければならない。</p> <p> </p> <p>「映画は戦場のようなものだ」というフラーの言葉は、いままで数ある比喩の一つだと思っていたが、「最前線物語」をあらためて見直してみて、これはもっと重い意味を持っているのだろうと、と今は考えている。</p> <p><iframe src="https://www.youtube.com/embed/Z7jwYpAM6RU?feature=oembed" width="480" height="270" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="https://youtu.be/Z7jwYpAM6RU">youtu.be</a></cite></p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/PFF">PFF</a>で上映の前説の度に宣伝されているので、ここでひとつ触れておこう。2002年に発刊された<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%DF%A5%E5%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A1%BC">サミュエル・フラー</a>の自伝の邦訳が今年の12月に発売されるそうだ。出版社に購入予約すると割引価格(6000円→4500円)になるとのことなので、興味あるかたはどうぞ。</p> <p><iframe class="embed-card embed-webcard" style="display: block; width: 100%; height: 155px; max-width: 500px; margin: 10px 0px;" title="9/12〜フラー作品上映、9/15〜『サミュエル・フラー自伝』先行予約受付! | boid.net" src="//hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Fwww.boid-s.com%2F758" frameborder="0" scrolling="no"></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="http://www.boid-s.com/758">www.boid-s.com</a></cite></p> <h5>カテゴリ「戦争」の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/12/15/014509">あゝ決戦航空隊</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/29/233940">戦争の霧</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/15/205702">独立機関銃隊未だ射撃中</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009Q0J9W/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="最前線物語 ザ・リコンストラクション スペシャル・エディション [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/41M5C8MQ3GL._SL160_.jpg" alt="最前線物語 ザ・リコンストラクション スペシャル・エディション [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009Q0J9W/scorpion701-22/">最前線物語 ザ・リコンストラクション スペシャル・エディション [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EF%A1%BC%A5%CA%A1%BC">ワーナー</a>・ホーム・ビデオ</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2005/08/05</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 2人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 32回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B0009Q0J9W/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (10件) 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<blockquote class="hatena-bookmark-comment"><a class="comment-info" href="http://b.hatena.ne.jp/entry/261379487/comment/sny22015" data-user-id="sny22015" data-entry-url="http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/articles/ASH815TCXH81UCLV00D.html" data-original-href="http://www.asahi.com/articles/ASH815TCXH81UCLV00D.html" data-entry-favicon="http://cdn-ak.favicon.st-hatena.com/?url=http%3A%2F%2Fwww.asahi.com%2F" data-user-icon="/users/sn/sny22015/profile.gif">俳優の加藤武さん死去 「犬神家の一族」で警察官役:朝日新聞デジタル</a><br> <p style="clear: left;">ああ惜しい。昭和の邦画を代表する名脇役。「月曜日のユカ」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D1%A5%C8%A5%ED%A5%F3">パトロン</a>、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>・代理戦争」のヘタレ親分(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E2%BB%D2%BF%AE%CD%BA">金子信雄</a>にコケにされるシーンは絶品)…ご冥福を祈ります</p> <a class="datetime" href="http://b.hatena.ne.jp/sny22015/20150801#bookmark-261379487"><span class="datetime-body">2015/08/01 19:06</span></a></blockquote> <p> <script src="https://b.st-hatena.com/js/comment-widget.js" async="" charset="utf-8"></script> </p> <p>&nbsp;<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/NHK">NHK</a><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B2%CF%A5%C9%A5%E9%A5%DE">大河ドラマ</a>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B7%B3%BB%D5%B4%B1%CA%BC%B1%D2">軍師官兵衛</a>」にも出演して驚くほどの健在ぶりを発揮していたが、やはり寿命は来るものである。</p> <p>&nbsp;</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>といった主役俳優の訃報であれば、自分がわざわざ書かなくとも大勢の声が書いたりまとめたりしてくれるだろう。だが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C9%F0">加藤武</a>については、やはり何か書いておきたい気がした。作品は主役だけで成り立つものではない。加藤のような達者な脇役があって生きてくる。</p> <p>&nbsp;</p> <p>ましてや、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」シリーズの第三・四部「代理戦争」「頂上作戦」で加藤が演じた打本組組長・打本昇はシリーズの本質を貫く、ヤクザの集団抗争を喜劇としての群像劇に再構成する上でクリティカルな存在である。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」の構成を練った脚本家、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DE%B8%B6%CF%C2%C9%D7">笠原和夫</a>は自身の思う「実録<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%E4%A4%AF%A4%B6%B1%C7%B2%E8">やくざ映画</a>」の喜劇性について色々な箇所で言及している。</p> <blockquote> <p> 〈実録もの〉というとノンフイクションかと思われがちだが、わたしは当初から〈化粧直しの虚構〉と割りきっていた。リアリズムという点では、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>の場合、東京撮影所が古くから<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%A3%B0%E6%C0%B5">今井正</a>、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C8%BE%EB%CC%A6%C2%E5%BC%A3">家城巳代治</a>、小林恒夫などの監督陣の力作を生んで、確固とした伝統を築いていた。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>監督もその中で育った人である。しかし〈実録もの〉はリアリズム映画ではない。写実に徹することがリアリズムの基本姿勢だが、〈実録もの〉はデフォルメ(変形)に力点をおき、素材の〈毒性〉を意図的に誇張することで、現実の隠れた<ruby><rb>貌</rb><rt>かお</rt></ruby>を摘出しよう、というのが私の考えだった。従って作品の形態は喜劇(コメディ)になる。</p> <p> 早い話が、〈任侠映画〉で描き尽くしてきた「男の中の男」から「男の中の男でない男」を描くことが許されてきたわけで、わたしにとっては自分に<ruby><rb>よ</rb><rt>・</rt><rb>り</rb><rt>・</rt><rb>近</rb><rt>・</rt><rb>い</rb><rt>・</rt></ruby>作品を書ける機会に恵まれたのである。</p> <p align="right">——「破滅の美学 <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%E4%A4%AF%A4%B6%B1%C7%B2%E8">やくざ映画</a>への鎮魂歌(レクイエム)」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%C1%A4%AF%A4%DE%CA%B8%B8%CB">ちくま文庫</a>・2004)</p> </blockquote> <blockquote> <p> さあこの難物[註:広島やくざ抗争]をどうホンにしようか、悩んでいると、会社からまたトンデモナイことを言ってきた。第三部で広島事件をやってシリーズも終わりかと思っていたら、広島事件を第三 部、第四部と二つに分けて書いてくれ、というお達しである。</p> <p> 二つに分ける以上、第三部を抗争に至る内紛劇、第四部を抗争の顛末に宛てざるをえない が、この内紛というのがとても絵になるシロモノではない。</p> <p> アクション一つなく、盃外交、裏切り、思惑、疑惑、ねたみ、恐怖、欲望、腹芸、離合集散、これらを日夜えんえんと繰り返すやくざたちの生態をどう書けばいいのか。格好いいところはどこにもなく、むしろ、何とも浮世離れしたズッコケ話のオンパレードである。</p> <p> なるほど飯千晃一氏や美能さん[註:「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」の原案となる手記を執筆した元<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>組長・美能幸三]の文章で読むと面白いのだが、映像でどう表現すればいい か判らず、よしんば映像にできても爽快なアクションを期待しているお客さんの期待に沿うものはできそうになかった。</p> <p>(中略)</p> <p> あれこれ悩んだ末、ズッコケ野郎たちのズッコケ話を随所で流すことで、ブラック・ユー モアも出せるだろうし、ある種の混沌が示せれば、おれなりの「人間喜劇」を見せることが できるだろう、と腹を括った。どうせ真相は藪の中なのだから、いちいちストーリーを作り、 起承転結があって、誰はこうなりました、彼はこうなりました、というのは止めにした。</p> <p align="right">——「映画はやくざなり」(新潮社・2003)</p> </blockquote> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;そうした笠原の狙いが最大限に発揮されるのは、上のブックマークコメントで言及した「代理戦争」における、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E2%BB%D2%BF%AE%CD%BA">金子信雄</a>にコケにされるシーンだということに、異論を唱える人はまずいないだろう。</p> <p>&nbsp;</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%AD%C5%E7%BB%D4">広島市</a>最大の組織村岡組の跡目相続を狙う打本昇は、親しかった広能(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>)を通じて神戸の大<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>明石組幹部・相原(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%F3%C6%A3%C3%A4%CD%BA">遠藤辰雄</a>)と秘かに兄弟盃を交わし、神戸の力をバックにつける。がこれが却って村岡組長の不興を買い、意に反して跡目は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%E2%BB%D4">呉市</a>の山守組組長・山守義男(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E2%BB%D2%BF%AE%CD%BA">金子信雄</a>)に渡ってしまう。跡目襲名披露の場に招かれた相原の面前で、慢心高まった山守は徹底的に打本をコキ下ろす。</p> <p>「この打本いうたら、偉うない偉うないいうて、こんなバカはおらんのです」</p> <p>兄弟分の前で赤っ恥をかかされ打本は悔し涙を流すが、山守に「お前どうしたの、泣いとるの? 泣かんの、泣かんのよ」と追い打ちをかけられる。</p> <p>山守らが去った後、広能は打本をなだめるが、逆に「おどれみたいな腹黒いやつと酒が飲めるか!」と逆ギレする。だがそれは自業自得というべきもので、実は打本も相原との兄弟盃で飽き足らず、相原に内緒で明石組組長と直盃を交わそうと工作したのが相原を通じて広能にバレ、それが村岡組跡目問題で頭を悩ます幹部たちの耳に入ったからだった。腹黒いのはどっちだよというわけである。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「蘇る!<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a> 公開40周年の真実」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%C1%B4%D6%BD%F1%C5%B9">徳間書店</a>、現在は合本「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a> COMPLETE」に収録されているらしい)というムック本に2011年4月に収録した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C9%F0">加藤武</a>=打本昇のインタビューが掲載されているが、加藤はこのシーンをこのように振り返っている。</p> <blockquote> <p>まあ金子さんの憎たらしい演技がうまいんだ。で、俺がヒイヒイ泣くんだが、言ってみれば金子さんの山守が大悪党、俺のが小悪党なんだよ。卑怯未練なだらしない様が、どこかコミカルで妙な現実感がある。この役は、今まで演じた中で最も気に入っているよ。</p> </blockquote> <p>&nbsp;打本は広能組と組み、村岡組を吸収した山守組と睨み合いになる。双方に神戸の大組織がバックにつき、西日本の覇権を巡る代理戦争の様を呈してくるが、一方の大将であるはずの打本は腰が引けて動こうとしない。一方、山守組は防御を固めるのに集めた客人の経費ばかりが消えてゆく。台所事情は打本も同じ。</p> <p>しびれを切らした打本の若者が飛び出してゆくと、慌てた打本は敵の大将・山守組幹部・武田(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B0%B0">小林旭</a>)に電話をかけ、「今ウチの若いもんが飛んでいったけえ止めちゃってくれ」と頼む。おまけに「うまいこと止められたらちいと金貸してくれんかの」と頼む始末(!)。</p> <p>&nbsp;</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>のコワモテ俳優が勢揃いし、爆発すれば凄惨な事態になるはずの広島抗争が結果として勝者なき決着へと流れていったのは、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>に呼ばれて参加した、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>カラーの薄い俳優演じる大将の小物・弱腰のゆえであり、まさにそのデフォルメされたグダグダ感の体現者として打本はこのシリーズ後半の最重要人物と言える。そして忘れてならないのは、大将が動けずにいる間、若い者から先に報われない血を流してゆくことである。そこを強調するためにも、打本は必然的に無能な親分として描かれなければならなかった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>そんな打本という戯画を描き抜いた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C9%F0">加藤武</a>にとって、代表作は「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a> 代理戦争」なのではないかと思う。「金田一シリーズ」の警察署長役も面白いけど。</p> <h5>追悼関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/12/025939">サイン本は物神化する——追悼・鈴木則文——</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/16/012502">蟹江敬三</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/19/140852">小野田寛郎という現象</a></li> </ul> </ul> <p>&nbsp;</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4197103964/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/61IGB2GAvnL._SL160_.jpg" alt="菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4197103964/scorpion701-22/">菅原文太 仁義なき戦い COMPLETE (Town Mook)</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> 石田伸也</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%C1%B4%D6%BD%F1%C5%B9">徳間書店</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/12/26</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 単行本</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4197103964/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00RDTJ9AI/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="仁義なき戦い 代理戦争" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/61vxLdHF9HL._SL160_.jpg" alt="仁義なき戦い 代理戦争"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00RDTJ9AI/scorpion701-22/">仁義なき戦い 代理戦争</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/12/15</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Amazon">Amazon</a> インスタント・ビデオ</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00RDTJ9AI/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> <p>&nbsp;</p> sny22015 誇り高き挑戦 hatenablog://entry/8454420450102244156 2015-07-26T19:53:21+09:00 2015-07-26T20:40:12+09:00 昔のことを蒸し返す奴はけむたがれるのが普通だ。 しかし深作欣二のいくつかの作品では、昔のことは忘れたという奴が悪役に回る。「仁義なき戦い」(1973)の終盤、広能昌三(菅原文太)が狡猾な親分山守義男(金子信雄)に絶縁を言い渡す場面。広能は山守の腰巾着・槇原(田中邦衛)から殺しの標的・坂井(松方弘樹)の隠れ場所を手渡される。その走り書きに、広能はふと七年前の出来事を思い出す。 「おい、若杉の兄貴の隠れ家地図に書き込んで、サツにチンコロしたのはおどれらか!」「そがな昔のこと、誰が知るかい」 「仁義なき〜」はシナリオの科白を一字一句変更しないで撮るという条件で笠原和夫が深作の監督を了承したという経緯… <p>昔のことを蒸し返す奴はけむたがれるのが普通だ。</p> <p>しかし<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>のいくつかの作品では、昔のことは忘れたという奴が悪役に回る。「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」(1973)の終盤、広能昌三(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>)が狡猾な親分山守義男(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E2%BB%D2%BF%AE%CD%BA">金子信雄</a>)に絶縁を言い渡す場面。広能は山守の腰巾着・槇原(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%CB%AE%B1%D2">田中邦衛</a>)から殺しの標的・坂井(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%CA%FD%B9%B0%BC%F9">松方弘樹</a>)の隠れ場所を手渡される。その走り書きに、広能はふと七年前の出来事を思い出す。</p> <p>「おい、若杉の兄貴の隠れ家地図に書き込んで、サツにチンコロしたのはおどれらか!」<br>「そがな昔のこと、誰が知るかい」</p> <p>「仁義なき〜」はシナリオの科白を一字一句変更しないで撮るという条件で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DE%B8%B6%CF%C2%C9%D7">笠原和夫</a>が深作の監督を了承したという経緯があり、これだけをもって深作の思想の反映とは言い切れないが、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CF%B5%A4%C8%C6%DA%A4%C8%BF%CD%B4%D6">狼と豚と人間</a>」(1964)では、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>幹部に出世しナイトクラブの経営者についた長兄(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%D4%A2%CF%A2%C2%C0%CF%BA">三國連太郎</a>)は、母の死を知らせるため訪ねてきた、スラム街の生家に今も住み続ける末弟(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%C2%E7%CF%A9%B6%D5%CC%E9">北大路欣也</a>)をはした金で追い払う。長兄にとって末弟はとっくに捨てた過去でしかない。末弟と次兄(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>)は長兄の組織に戦いを挑み、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D0%A5%E9%A5%C3%A5%AF">バラック</a>小屋に立てこもって銃撃戦がはじまると、「帰ってこいよ!一緒にやろうぜ、昔みたいによお!」と次兄が何度も呼びかけても長兄はただ立ちすくんでいることしかできない。そして弟たちは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%EB%A2%EA%FA">襤褸</a>きれのように殺され、長兄は途方に暮れて歩み去る。兄弟の虐殺を遠巻きに見ていたスラムの住民達は、長兄の背中に向けて次々と石つぶてを投げる。</p> <p>&nbsp;</p> <p>昔のことを忘れた奴を悪の側に配置すると、過去を蒸し返す役目は主人公に立てざるを得なくなるが、それは別に正義漢や善人である必要はない。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>は上記の場面の後で彼を欺いた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%CA%FD%B9%B0%BC%F9">松方弘樹</a>とケジメをつけるために銃を手にするのであり、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%C2%E7%CF%A9%B6%D5%CC%E9">北大路欣也</a>は自分だけをスラムに残した兄たちを恨み続け、カネを手にして這い上がろうとしていた。昔のことをほじくり返すというのは、だから、お前は俺と同じくらい汚れた手をしている、それを直視しろというメッセージを投げかけているだけなのである。</p> <p>&nbsp;</p> <p align="center">*</p> <p>&nbsp;</p> <p>「誇り高き挑戦」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>監督・1962年ニュー<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)は過去から逃れられない新聞記者・黒木(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%E1%C5%C4%B9%C0%C6%F3">鶴田浩二</a>)と現在にのみ生き続ける闇商人・高山(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%B0%C7%C8%C5%AF%CF%BA">丹波哲郎</a>)の対決を描く物語である。</p> <p>&nbsp;</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%C8%B3%A6%BB%E6">業界紙</a>「鉄鋼新報」の記者黒木は、三原産業が発注元不明のマシンガン製造に携わっていることを嗅ぎつけ、張り込み取材をしているうちにある男を目撃する。それが高山であった。</p> <p>黒木は高山の顔をこの十年間忘れたことはなかった。戦時中は日本軍の特務機関員、戦後は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/GHQ">GHQ</a>の諜報機関に乗り換えた、餌をもらえるならどこにでも尻尾を振る野良犬。全国紙の社会部記者だった米軍占領期、ある女の殺人事件を追う黒木を捕らえリンチにかけた男だった。黒木は全国紙を辞め、目元の傷跡を隠すため常にサングラスをかけるようになった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>黒木と部下の畑野(梅宮辰夫)の追跡取材で、三原産業のマシンガンは文化行事を隠れ蓑に革命から日本に逃れてきていた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>某国のスルタンら王党派が、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%BF%B3%D7%CC%BF">反革命</a>闘争の武器として調達を画策しており、その手引きをしているのが高山であることを黒木は突き止める。黒木の動きを察知した高山は自ら彼に接触する。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「用件を聞こうか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「俺を忘れたか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「失礼だが覚えていない。どこかでお会いしたようだな」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「占領中のことだ。山口夏子という女が基地の中で殺された。犯人はまだ挙がっていない。思い出したか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「君はあの事件の…なかなか立派な新聞記者だったな。しかし今さらパンスケが殺された事件なんかほじくってどうするんだ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「ふざけるな! 夏子はパンスケなんかじゃなかった。あの事件は、単純な痴情殺人として片付けられた。しかし、俺が彼女の足取りを辿っていくと、軍の諜報部に行き当たった。そこで彼女は消えた。つまりお前達に殺されたんだ。取材中の俺を脅迫して、新聞社から追放したのも、真実の曝露を恐れたからだ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「君はそんなことを確かめるために私に会いたかったのか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「お前には忘れることができても、俺には忘れられんことだからな」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「なるほど、では教えてやろうか。全部君が調べたとおりだったよ。夏子は日ソ協会に勤めていた。そこの情報を探らせようとしたんだが言うことを聞かん。バカな女だった」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「バカ? 貴様のような、根性の腐った日本人じゃなかったんだろう」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「戦後の日本人には根性なんてものはないよ。ないものは腐るわけあるまい。死んでまで頑張ることはなかったんだ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「聞いたようなことを言うな! 殺しの片棒担ぎやがって」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「手っ取り早く用件を片付けようじゃないか。一体いくら欲しいんだ。ただし余りいい値段じゃ買えないな。慰謝料くらいならくれてやってもいいが」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「俺が金のためにだけお前を追っかけ回してると思っているのか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「ゆすり専門のごろつき記者を前にして他のことが考えられるかね。それとも時代遅れの正義屋に逆戻りするつもりか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「それもいいと思ってるんだ、場合によってはな」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「かったるい言い方はよせ! 俺は忙しいんだ。何が欲しいんだ一体」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「それを俺も考えていたんだが今わかったよ。俺が欲しいのは金じゃなくてお前の泣きっ面だ。お前の利口ぶった顔つきは十年前と同じだ。その面をひんむいてやる。普通の日本人並みになるようにな」</p> <p>&nbsp;</p> <p>黒木は十年前の殺人事件の真相を記事に書き、かつての勤務先の新聞社に持ち込むが、諜報部の存在を露骨に曝露するものは載せられないと断られる。かつて黒木の上司だった社会部長(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%C2%F4%B1%C9%C2%C0%CF%BA">小沢栄太郎</a>)が「俺たちなりに真実は伝えようとしているんだ。だがその真実という奴が難物なんだな。だが気長に少しずつ変えていく、ステップ・バイ・ステップ。それが俺たちがこの世の中でできる唯一の抵抗だ」とたしなめた時、黒木の怒りは爆発する。&nbsp;</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「もう結構ですよ…同じだ、全く同じだ。あの頃、あんたはそこのデスクに座ってた。そして口癖のように俺に言い聞かせた。『ものごとは辛抱が肝心だ。占領が終わったら、その時こそ何でも言える、何でも書ける。気長に少しずつ変えてゆこう』ステップ・バイ・ステップか…ふざけるな! 占領が終わってあんたたちはどう変わった! 何にも変わっちゃいねえ! イスが一つ、でかく立派になっただけだ! このことははっきりさせとこう。あんた達の力じゃ世の中びくともしねえんだ! あんた達は何も変えることはできないんだ!」</p> <p>&nbsp;</p> <p>高山の行方を追う黒木は、尾行してきた男を通じて革命政府の情報部と接触し、武器密輸阻止のため情報交換を申し出る。「同じアジア人として手を結べないか」という黒木の言葉を、情報部員(山本麟一)は冷たく突き放す。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「太平洋戦争の時も、日本人はそう言った。しかし私達を結んでいた手は、いつの間にか鉄の鎖に変わってしまった。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C1%AF%C0%EF%C1%E8">朝鮮戦争</a>で日本経済は立ち直った。そしてまたよその国の戦争で儲けようとしている。アジアの歴史は、日本人を信用するなと教えている」</p> <p>&nbsp;</p> <p>黒木の唯一の協力者であった三原産業の事務員で黒木の昔馴染みの弘美(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%B8%B6%A4%D2%A4%C8%A4%DF">中原ひとみ</a>)が行方不明になり、彼女をさがすうちに辿り着いたとある精神病院に黒木も捕らえられ、鉄格子付きの病室に幽閉される。そこが高山のアジトだったのだ。武器は翌朝、港で荷揚げされる。黒木は高山に寝取られたスルタン夫人マリン(楠侑子)の協力で病室から脱出に成功するが、弘美は拷問で廃人になっており、荷物の武器は港に向かいつつあった。黒木は車を港に飛ばすが、すでにマシンガンを載せた船は出港した後だった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>その夜、高山は黒木を再び呼び出す。ナイトクラブの喧噪の中で二人の日本人が対峙する。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「俺に何の用だ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「お前の方で俺を捜していたんじゃないのか。俺の泣きっ面を見たいと言っていたな。だがあいにく俺は笑いが止まらなくて困ってるところだ。仕事は上手くいく金は入る、美人にはもてる。だが人間、得意な時ほど落ち目の奴が可愛くなるものだ。一杯いこう」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「いい気になるなよ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「相変わらず鼻っ柱の強い奴だ。君はあの事件以来俺や諜報部を目の敵にしているようだが、それはちょっとお門違いじゃないかな。毎朝新聞が君をあっさりクビにしたんで驚いたのはこっちの方だ。君をダメにしたのはどうやら、周りにいた日本人自身じゃないかと思うんだが。<br>だが俺は毎朝新聞を咎めようとは思わん。日本人全体としてはそうするしか生きる途はなかったんだから。妥協できるところは妥協して…ほうら見ろ、結構な復興ぶりだ。こうしてみると植民地もまた好しだ。ようは多いに儲ければいいんだから。餌あるところに飛び込む一匹狼。孤独で、厳しくてロマンティックで。そうは思わんか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「言いたい屁理屈はそれだけか」</p> <p>黒木は今度こそ高山と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/GHQ">GHQ</a>の工作を記事に書くまくってやる、そうすれば日本も少しは変わるだろうと挑戦状を叩きつける。その最中、高山に呼び出されて現れたのは革命政府の情報部員たち。驚く黒木の前で、高山は「お前たちが知りたがっている<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%BF%B3%D7%CC%BF">反革命</a>軍の武器の荷下ろし場所の情報を買わないか」と持ちかける。怒りに席を立とうとする黒木を、高山は引き留める。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「幕の途中で帰るつもりか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「お前の一人芝居も先が見えたよ。そのうち、自分も裏切られて殺されるんだ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「誰も信じちゃいない俺が誰に裏切られる」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「お前の中のお前にだ。せいぜい今のうちに楽しんでおけ」</p> <p>&nbsp;</p> <p>黒木は宣言通り、鉄鋼新報に「日本を覆う<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F5%A4%A4%CC%B8">黒い霧</a>」の記事を書きつける。鉄鋼新報に送りつけられた大量の脅迫に、編集長も畑野さえも黒木のもとを去る。それでも黒木は一人で書き続けると意地を張る。黒木の記事に動揺したのは高山でも日本社会でもなく、高山を利用し続けてきたアメリカの諜報機関だった。彼らは決断する。騒ぎが大きくなる前に、高山とはサヨナラだと。</p> <p>&nbsp;</p> <p>追い詰められた高山は、三度黒木を呼び出すため電話をかける。高山のアジトの精神病院と繋がっている組織の正体を教えるという。だが待ち合わせの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%E4%CE%A9%C3%CF">埋立地</a>に黒木が駆けつけたとき、高山はすでに死体になって転がっていた。</p> <p>&nbsp;</p> <p>高山殺しは「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>の内部抗争」として新聞に載った。十年前と何も変わらない、真実を見ようとしない世の中に苛立ちを覚える黒木。その黒木を、十年前の事件の被害者の妹、いまは大学生になった妙子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B6%F5%BF%BF%B5%DD">大空真弓</a>)は叱咤する。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「あなたには何も変わってないように見えるけど、それはそのサングラスのせいなのよ。よく見ないとわからないところで、少しずつ変わってるんだわ。<br>第一、黒木さんの目の前のものが変わったわ。あたし、黒木さんが好きよ。サングラスなしの黒木さんが。そんなことかと言わないでね。人間が変わったら、世の中だって変わるわ」</p> <p>&nbsp;サングラスを外した黒木には、国会議事堂の後ろで輝くまばゆい太陽が見えた。</p> <p>&nbsp;</p> <p align="center">*</p> <p>&nbsp;</p> <p>「誇り高き挑戦」は、高山の自滅によって黒木が苦い勝利を納め、彼の数少ない理解者である妙子の力でわずかな希望を取り戻すという物語になっている。</p> <p>だがこの作品で強調されているのは、むしろ「ない根性が腐るわけはない」「植民地もまた好しだ」といってはばからない闇商人高山と、彼の言葉を通して皮肉られる日本の戦後社会そのものだと思える。この作品には敗戦の年に15歳だった<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>の、戦後史へのシニカルな視線がダイレクトに反映されているような気がしてならない。都合の悪いことに目をつむり、見ない振りをしているうちに本当に忘れてしまった数々の悲劇の上に、我々は繁栄のあぐらをかいているのではないか?と。</p> <p>&nbsp;</p> <p>その「忘却する日本人」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%EA%A5%AB%A5%C1%A5%E5%A5%A2">カリカチュア</a>として描かれる高山を演じられるのは、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%B0%C7%C8%C5%AF%CF%BA">丹波哲郎</a>をおいてほかになかっただろう。巧みな英語でアメリカとも<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>とも王党派とも革命派とも渡り合い、自然体でも策士のたたずまいを漂わせる俳優は彼をおいてない。知的でずる賢く、独自の哲学をもつ悪役でありながら、まぎれもない我々の同類である高山を体現した点において、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%B0%C7%C8%C5%AF%CF%BA">丹波哲郎</a>は「仁義なき〜」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E2%BB%D2%BF%AE%CD%BA">金子信雄</a>も「狼と〜」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%D4%A2%CF%A2%C2%C0%CF%BA">三國連太郎</a>も超えていると言えるだろう。</p> <p>&nbsp;</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2015/07/12/181340">人斬り与太 狂犬三兄弟</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/06/25/025053">北陸代理戦争</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/26/141404">税金の無駄遣いじゃの</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/06/070000">黒蜥蜴</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00008XWQW/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="誇り高き挑戦 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/21C3PPFQV7L._SL160_.jpg" alt="誇り高き挑戦 [DVD]"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00008XWQW/scorpion701-22/">誇り高き挑戦 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>ビデオ</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2003/05/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00008XWQW/scorpion701-22" 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%A8%CF%C2%A5%B7%A5%B9%A5%C6%A5%E0">秀和システム</a>1993年・絶版)でアジア各国のゲーム事情を面白おかしく紹介している。90年代前半のアジアのゲーム市場はアーケード用・家庭用ともに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%FC%CB%DC%C0%BD%C9%CA">日本製品</a>のコピーでほぼ席巻されていたと言っていいだろう。同書からマレーシアのゲーム事情を抜粋してみよう(強調は著者による)。</p> <blockquote> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>のゲーセンはどこもゲーム代が格安なので、ゲーマー旅行者にとっては嬉しい限りだ。そして、マレーシアは中でもウルトラ最強の存在である。 何と1プレイの料金が8円(20マレーシア¢)から!という<strong>恐いもの知らずな強力プライスだ</strong>。</p> <p>例え8円でも、別にそこらの駄菓子屋みたいに10 年も前の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AF%A5%BD%A5%B2%A1%BC">クソゲー</a>を並べているわけじゃなく、ほとんどが日本のゲーセンでも通用する基盤を使っている。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DA%A5%CA%A5%F3%C5%E7">ペナン島</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B8%A5%E7%A1%BC%A5%B8%A5%BF%A5%A6%A5%F3">ジョージタウン</a>にそびえ建つ64階の 巨大ビル、コムター内の巨大なショッピングセンターには、ちょっと雰囲気の暗いゲーセンの集結している地帯があって、毎日、 朝から夜中まで、常に目を血走らせた娯楽のない若者達が入り浸っている。</p> <p>ここらのゲーセンには<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%CE%B4%B6%A5%B2%A1%BC%A5%E0">体感ゲーム</a>こそないが、その代わリエロマージャンなど が充実していたりして、日本でいうと郊外のちょっとさびれたゲーセンの雰囲気 に近い。安い代わりにメンテナンスは最悪だが、やはり1プレイ8円は凄すぎる。 当り前だけど<strong>100回やっても800円なのだから凄い</strong>。</p> <p>それからマレーシアではスト2に限らず、対戦できるゲームに乱入するのは常識となっているので、いきなり変な奴が乱入して来ても怒らないように。 それに「スト2」をよく観察していると、<strong>マレー人とかインド人など</strong>色の黒い少年達は、やっばリ<strong><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C0%A5%EB%A5%B7%A5%E0">ダルシム</a>を好んでよく選ぶ</strong>ようである。</p> </blockquote> <p>目を血走らせた娯楽のない若者とか<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C0%A5%EB%A5%B7%A5%E0">ダルシム</a>を好んで選ぶとか(これが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AF%A1%BC%A5%ED%A5%F3%B9%F5%C2%F4">クーロン黒沢</a>の文体なんだけど)、よけいなお世話だろと思わずにはいられないが、自身も93年から94、5年くらいまで、仕事で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>に出張することが多くて、休日になると<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%F3%A5%AC%A5%DD%A1%BC%A5%EB">シンガポール</a>のゲーセンに出入りしていたので光景はなんとなく思い浮かぶ。</p> <p>&nbsp;</p> <p>向こうのゲーセンは100円硬貨ではなくて店頭でトークンと呼ばれる専用のコインを買って投入するのが普通だった。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%F3%A5%AC%A5%DD%A1%BC%A5%EB">シンガポール</a>は物価が高いので、マレーシアのように激安という感覚はなかったが、それでも<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D0%A1%BC%A5%C1%A5%E3%A5%D5%A5%A1%A5%A4%A5%BF%A1%BC">バーチャファイター</a>2のような日本でも最新のゲームがプレイできるのはさすがに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>の先進国だという感じがした。</p> <p>&nbsp;</p> <p>さて、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%E0%A5%E9%A5%A4%A5%B9%A5%D4%A5%EA%A5%C3%A5%C4">サムライスピリッツ</a>」というゲームがある。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%C8%A5%EA%A1%BC%A5%C8%A5%D5%A5%A1%A5%A4%A5%BF%A1%BCII">ストリートファイターII</a>で火がついた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%CA%C6%AE%A5%B2%A1%BC%A5%E0">格闘ゲーム</a>ブームに乗った<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/SNK">SNK</a>が、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%EE%CF%B5%C5%C1%C0%E2">餓狼伝説</a>2」に次いで93年に発売した作品で、18世紀頃の日本を舞台に日本のサムライと世界各地の剣士が真剣勝負するというチャンバラ格ゲー。輸出用の英語タイトルは「Samurai Shodown」(今気が付いたのだがShowdownではない)。</p> <p>&nbsp;</p> <p>このゲームに魅せられたのはゲーム性が高いとか、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%F8%C0%B8%BD%BD%CA%BC%B1%D2">柳生十兵衛</a>や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C9%FE%C9%F4%C8%BE%C2%A2">服部半蔵</a>や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%C1%F0%BB%CD%CF%BA%BB%FE%C4%E7">天草四郎時貞</a>(といっても「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%E2%B3%A6%C5%BE%C0%B8">魔界転生</a>」のだが)という実在の人物が時代背景を無視して登場すると言ったことよりも、音楽とSEが時代劇のようでもあり時代劇ではあり得ない、和洋折衷の不思議な音響イメージを奏でていたからだと思う。それは特に、キャラクター選択画面のBGM(動画では2曲目)に用いられる、尺八と太鼓を巧みに使いながら主旋律は西洋弦楽器が導いている曲に現れている。</p> <p><iframe src="https://www.youtube.com/embed/KAdGnFrLrsY?feature=oembed" width="459" height="344" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="https://youtu.be/KAdGnFrLrsY">youtu.be</a></cite></p> <p>SEの面では、斬ったときの「ブシュッ!」も「ありそうで実はない肉を斬る音」として70年代頃から使われてきた音を使う一方、大技を決めるために相手に急接近する時に歌舞伎の「ツケ」を使うのも新鮮だった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>ある時、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%F3%A5%DC%A5%B8%A5%A2">カンボジア</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D7%A5%CE%A5%F3%A5%DA%A5%F3">プノンペン</a>に出張することがあった。90年代前半の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%F3%A5%DC%A5%B8%A5%A2">カンボジア</a>は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DD%A5%EB%A1%A6%A5%DD%A5%C8">ポル・ポト</a>の暴政と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D9%A5%C8%A5%CA%A5%E0">ベトナム</a>との戦争、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DD%A5%EB%A1%A6%A5%DD%A5%C8">ポル・ポト</a>政権崩壊後の内戦で完全に疲弊しており、フン・セン首相のもとで立ち直る一歩を踏み出したばかり。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%CF%A2">国連</a>平和維持部隊がようやく撤収を始めた頃だった。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%C6%EE%A5%A2%A5%B8%A5%A2">東南アジア</a>のよさは国が貧しくても食べ物は豊富なことだと思うが、逆に言えばそれ以外は大変だ。停電は毎日、エアコンは止まる、蒸し風呂のように暑い。シャワーは水しか出ない。水道水は絶対に飲むなと現地駐在員に注意された。夜中に銃声を聞いたこともある。片足を失った物乞いは珍しくなかった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>日曜日のことだった。いま思えば、そんな経済状態の国でゲーセンを見つけたのは不思議と言えば不思議だ。おそらく商魂たくましい華僑が経営していたのではないかと思うが、店内は日本で見慣れたゲームで溢れていた。ここでのトークンは香港のコインが使われていた。おそらく香港で使われた中古の筐体を持ち込んだのだろう。そうそう思い出した。たしかこの店は筐体の前に座るとなぜかおしぼりを出してくれた。</p> <p>&nbsp;</p> <p>店は繁盛していた。一台だけ、「Samurai Shodown」の筐体を見つけた。サムライはもちろん、日本がどこにあるかこの子達は知っているんだろうかと今思えば傲岸不遜なことを考えつつ、対CPUモードで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%F8%C0%B8%BD%BD%CA%BC%B1%D2">柳生十兵衛</a>を選択した。十兵衛はボタン連打で必殺技が出せるし、KOを決めた後のオーバーなポーズが好きでよくチョイスしていた。</p> <p>ところが1人目を片付ける前に早くも、隣に座った10歳くらいの上半身裸のガキンチョから「挑戦者あり」の表示が。向こうは何を選んでいたか、今となっては思い出せない。アースクエイクだったかも知れない。とにかく、サムライの国から来たサラリーマンは現地のガキに一勝も取れず店を退散した。ゲームは世界の共通語だよなと、悔しい自分を誤魔化すようなことを考えようとしながら。</p> <p>&nbsp;</p> <p>その後そのゲーセンには足を運べなかった。</p> <p>&nbsp;</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0025VKKKC/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="NEOGEOオンラインコレクション THE BEST サムライスピリッツ六番勝負" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51ZvQlhUaDL._SL160_.jpg" alt="NEOGEOオンラインコレクション THE BEST サムライスピリッツ六番勝負"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0025VKKKC/scorpion701-22/">NEOGEOオンラインコレクション THE BEST サムライスピリッツ六番勝負</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/SNK%A5%D7%A5%EC%A5%A4%A5%E2%A5%A2">SNKプレイモア</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2009/06/18</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> Video Game</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 5人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 24回</li> <li><a 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class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2005/12</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 文庫</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 2人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 83回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4344407377/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (24件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 人斬り与太 狂犬三兄弟 hatenablog://entry/8454420450088527594 2015-07-12T18:13:40+09:00 2015-07-12T20:31:41+09:00 ラーメンにのせるチャーシューは一、二枚の方がいい。 そのほうが丼の小さな世界におけるチャーシューの希少価値を高めるし、どのタイミングで食べるかっていう作戦を立てるのも、じっくり味わうのも楽しい。一杯のラーメンにおけるチャーシューの存在意義は、ショートケーキにおけるイチゴのそれに等しい。 共にラーメンを食べる家族、恋人、友人に自分のチャーシューという貴重品をあげるという行為は、だから、自分には経験はないけれど、それはある意味で親密性の儀式なのではないかと思う。俺はお前の敵ではない。お前と俺は身内だ。その証しに俺のチャーシューをお前に授ける。 * 「人斬り与太 狂犬三兄弟」(深作欣二監督・1972… <p>ラーメンにのせるチャーシューは一、二枚の方がいい。</p> <p>そのほうが丼の小さな世界におけるチャーシューの希少価値を高めるし、どのタイミングで食べるかっていう作戦を立てるのも、じっくり味わうのも楽しい。一杯のラーメンにおけるチャーシューの存在意義は、ショートケーキにおけるイチゴのそれに等しい。</p> <p>共にラーメンを食べる家族、恋人、友人に自分のチャーシューという貴重品をあげるという行為は、だから、自分には経験はないけれど、それはある意味で親密性の儀式なのではないかと思う。俺はお前の敵ではない。お前と俺は身内だ。その証しに俺のチャーシューをお前に授ける。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>「人斬り与太 狂犬三兄弟」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>監督・1972年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)はこんな映画である。</p> <p>「ムショから出てくりゃ金バッジの大幹部」になれると期待して、村井組組員・権藤(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>)は弟分の大野(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%CB%AE%B1%D2">田中邦衛</a>)とともに敵対する新生会<a href="#f-9918d23c" name="fn-9918d23c" title="この敵の組の名前、日本映画データベース http://www.japanese-cinema-db.jp/Details?id=11878 でも雑誌「シナリオ」2015年3月号に掲載されたオリジナル脚本でも「北闘会」という名前になっている。撮影直前に何らかの事情で変更になったようだ">*1</a>を襲撃し、組長を刺殺、ひとり警察に自首する。だが六年後、出所した権藤を迎えたのは大野一人。シマに戻れば、新生会の奴らがうろついている。村井組長(内田朝雄)に聞けば、村井組と新生会は手打ちをしたという。世間の眼も厳しくなり、もう派手な出入りはできず、互いの縄張りに手は出さないという了解ができていたのだ。組のために六年も臭いメシを食ったのは何だったのか。釈然としない権藤。</p> <p> </p> <p>鬱憤晴らしにシマの商店からカスリを脅しあげてバクチに注ぎ込み、若頭の五十嵐(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%BC%C5%C4%C6%FC%BD%D0%C3%CB">室田日出男</a>)に咎められた権藤は、自分のシノギは自分で稼ぐ、とモグリで売春宿を営むバー「おけい」のママを恫喝し強引に用心棒に収まる。さらにペットの蛇をいつも連れ歩く気味の悪い流れ者の谷(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%C3%AB%BE%BA">三谷昇</a>)を仲間に加え、権藤・大野・谷は「おけい」を根城にトリオを結成する。</p> <p> </p> <p>まもなく、ある田舎娘(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%ED%A4%DE%A4%E6%A4%DF">渚まゆみ</a>)が騙されて「おけい」に連れて来られる。が、この娘は最初こそ権藤に犯され処女を奪われるものの、以後は強引に抵抗して客を取ろうとしない。怒った権藤にぶん殴られ、服も下着も取り上げられ、「大人しく客を取るまで何も着さねえからな」と脅されるが、それでも客の金的を蹴り上げ全裸のまま繁華街へと逃げだし、権藤に髪の毛をひっつかまれて連れ戻される。翌朝、娘の強情さにさすがの権藤もねをあげ、服を着せて「おけい」を追い出す。が、その日のうちに谷が娘を連れて帰ってくる。聞けば、勤めるはずだった工場が潰れてしまい、働く場所も、住む家も、行くあてもなく彷徨っていたのだという。</p> <p> </p> <p>同じ頃、ヤミ売春のことを知った村井組長は、警察の摘発が入る前にすぐ商売を辞めろと権藤をどやしつけ、「おけい」は休業に追い込まれる。無業になった三人のヤクザと一人の娘の奇妙な共同生活がはじまった。</p> <p>明くる日、権藤は昼飯に出前のラーメンを頼んだ。チャーシューメン二つと、ラーメン一つ。権藤と大野と谷の分だ。だが大野は用事で外に出かけていた。権藤は娘にラーメンを食べさせてやる。自分のチャーシューメンから、チャーシュー二つ取り分けてやる。</p> <p> </p> <p>権藤は新生会の借金取り立てに苦しむ町工場の社長から借金帳消しを頼まれ、新生会を追い払う。だがこれは明確な新生会のシマ荒らしだった。新生会から反撃されて谷は命を落とし、権藤と大野は村井組から謹慎を受ける。ヤケを起こした権藤は、仇敵の新生会代貸・志賀(今井雄二)を撲殺し、「おけい」に女を連れ込んでイモーー権藤は田舎娘のことをそう呼ぶようになっていた。イモ娘のイモであるーーの目の前でセックスを始める。イモは権藤が寝ている間に「おけい」を出て行く。</p> <p> </p> <p>村井組長は志賀殺しのケジメをつけるため、権藤の処分を新生会に約束する。権藤と大野は高飛びを図るが、軍<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>を取り立てようとした大野の母と弟に逆上され、大野は殺される。ひとりになった権藤は反撃を決意し、村井を自宅で射殺するが、五十嵐ら村井組の襲撃でハチの巣にされる。</p> <p> </p> <p>担架で運ばれる権藤の死体を、警察の現場検証のロープの外から見つめている女がいた。イモである。次の場面、中華そば屋でイモの前にラーメンが差し出される。彼女はチャーシューを箸に取り、そっとドンブリに戻す。そして麺をすする。涙がこぼれる。やがてイモはうなだれて嗚咽をはじめる。字幕が被さる。</p> <p> </p> <p>そして数ヶ月後<br />この女は<br />狂犬の血をひいた<br />赤ん坊を産んだ</p> <p> </p> <p align="center">* </p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>のフィルモグラフィの中では「人斬り与太 狂犬三兄弟」は「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」(1973)の一つ前にあたり、主演も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>で、親分子分の争いというストーリーも両作品の類似性を感じさせる。</p> <p>だがこの作品を、極めて暴力的な内容にも拘わらず独自の詩情を漂わせているのは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%ED%A4%DE%A4%E6%A4%DF">渚まゆみ</a>の存在感あってのことだと思う。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%ED%A4%DE%A4%E6%A4%DF">渚まゆみ</a>自身も「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」一作目では<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%CA%FD%B9%B0%BC%F9">松方弘樹</a>の女房役として、また四作目「頂上作戦」ではヌードスタジオに売り飛ばされた過去を持つヤクザの情婦として登場するが、出番はあまり多くない。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%ED%A4%DE%A4%E6%A4%DF">渚まゆみ</a>はもともとは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>でデビューし、60年代から活躍していた。「濡れた二人」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督・1968年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>)では<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%C8%F8%CA%B8%BB%D2">若尾文子</a>を向こうに回して<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%C2%E7%CF%A9%B6%D5%CC%E9">北大路欣也</a>演じる若い漁師を取り合う漁協の娘役をーー増村映画の女性らしく自分の情念に忠実でそのために体を張ることも厭わないーー熱演したのが印象的だ。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>の倒産と前後して<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>に移ったが、ヌードも辞さない度胸もありヤクザの情婦役が多かったように思う。</p> <p> </p> <p>「人斬り与太 狂犬三兄弟」での「イモ」(脚本では桂木道代という役名が与えられているが、劇中その名前で呼ばれることは一度もない)には、科白がまったくない。声が出ない役なのではない。松田寛夫・神波史男による脚本では「・・・」や「・・・!」という「せりふ」ばかりなのだ。</p> <p>しかもイモは端役ではない。血の気が多すぎる狂犬・権藤がほんの束の間、気まぐれに垣間見せる優しさを受け止める、極めて重要な役だ。それを権藤が何気なく自分にチャーシューを分け与える仕草にハッと驚く表情、そして権藤の死を目の当たりにし、ふたたびラーメンに向かったときに一度チャーシューを持ち上げ、そっとドンブリにもどし、泣きながら麺をすする仕草を、一切の科白なしで表現した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%ED%A4%DE%A4%E6%A4%DF">渚まゆみ</a>の素晴らしさを、決して忘れてはならない。</p> <p> </p> <p>ある男の壮絶な生の記憶を、普通の人生であれば交錯するはずのない一人の娘が受け継いでゆく。そのきっかけがラーメンのチャーシューを与えるという一見何気ない場面だったのである。</p> <p> </p> <div> <p><iframe src="https://www.youtube.com/embed/ZGh4gpDjIog?feature=oembed" width="480" height="270" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="https://youtu.be/ZGh4gpDjIog">youtu.be</a></cite></p> </div> <h5><a 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href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00008XWR0/scorpion701-22/">人斬り与太 狂犬三兄弟 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>ビデオ</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2003/05/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 1人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 3回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00008XWR0/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (7件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00S5TL0JS/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="シナリオ2015年3月号" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/61feTxswXTL._SL160_.jpg" alt="シナリオ2015年3月号" /></a> <div 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href="http://www.japanese-cinema-db.jp/Details?id=11878">http://www.japanese-cinema-db.jp/Details?id=11878</a> でも雑誌「シナリオ」2015年3月号に掲載されたオリジナル脚本でも「北闘会」という名前になっている。撮影直前に何らかの事情で変更になったようだ</span></p> </div> sny22015 乾いた花 hatenablog://entry/8454420450097587759 2015-07-06T23:05:44+09:00 2015-07-06T23:05:44+09:00 元ヤクザの親分で俳優の安藤昇のインタビュー「映画俳優安藤昇」(ワイズ出版)を読んでいたら、こんな発言があった。 大体、博打というのはスリルがあるから面白い。金は命から二番目に大切なものだろう。にもかかわらず、それをオモチャにするのだから、これ以上面白いことはないだろう。 安藤昇はヤクザ映画ブームの一翼を担って多数の映画に出演する傍ら、ギャラの大半は競馬でスっていた。というより、競馬の資金を映画会社から前借りして、返すために映画に出ていたと言った方がいい。まあ、その一方で堅実な事業にも着手していたから、破綻することもなく晩年にさしかかりつつある。 思うに安藤昇のギャンブル狂には、少年時代の軍隊生… <p>元ヤクザの親分で俳優の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>のインタビュー「映画俳優<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EF%A5%A4%A5%BA%BD%D0%C8%C7">ワイズ出版</a>)を読んでいたら、こんな発言があった。</p> <blockquote> <p>大体、博打というのはスリルがあるから面白い。金は命から二番目に大切なものだろう。にもかかわらず、それをオモチャにするのだから、これ以上面白いことはないだろう。</p> </blockquote> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>はヤクザ映画ブームの一翼を担って多数の映画に出演する傍ら、ギャラの大半は競馬でスっていた。というより、競馬の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>を映画会社から前借りして、返すために映画に出ていたと言った方がいい。まあ、その一方で堅実な<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F6%B6%C8">事業</a>にも着手していたから、破綻することもなく晩年にさしかかりつつある。</p> <p>思うに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>のギャンブル狂には、少年時代の軍隊生活が影を落としているのだろう。昭和18(1943)年海軍航空隊に18歳で入隊、昭和20(1945)年6月、横須賀の特攻部隊に配属され本土決戦の猛訓練を受ける。その内容は潜水服を着て敵の上陸艇の船底に竹槍で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%FA%CD%EB">爆雷</a>を突き立てるという酷いものだった。当時のアクアラングは性能が悪く、運が悪ければガス中毒か大火傷かという危険きわまりないものだった。</p> <blockquote> <p>…本当に、一歩間違えれば死と隣り合わせなんだから、危ないよ。清浄函という薄い錫板に苛性ソーダが入っているから、ちょっとした岩にぶつかっただけでも破れ、水が入って&lt;ソーダ爆発&gt;が起こり、噴き出してしまう。そうなれば火傷で済めばいい方で、下手をすれば、そのままお陀仏になってしまう。今考えると、あの頃の日本の軍隊が考えることは本当にお粗末なものだ。</p> </blockquote> <p>人生で最も多感な18、19歳の時期を、こうした≪小さな死≫の反復で生きてきた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>は、博打という命の次に大切なものをオモチャにすることで≪小さな死≫を反復し続けずにはいられなくなったのではないか、と思わずにはいられない。</p> <p> </p> <p>だが博打狂いが戦争体験世代の特権かというとそんなわけでは全くないことは、数多の実例が証明している。博打の本質は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>が的確に述べているように、命の次に大切なものをオモチャにするスリルであって、そこに異存を唱える人はいないと思う。</p> <p> </p> <p>だから、「乾いた花」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%C4%C5%C4%C0%B5%B9%C0">篠田正浩</a>監督・1964年松竹)に登場する謎めいた美女——美少女と言って良いくらいだが——冴子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>)が明らかに戦後世代なのにも拘わらず、賭場に出入りしては<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%D6%BB%A5">花札</a>博打に大金を注ぎ込む姿に我々は何の違和感も感じないし、むしろ彼女の大きな瞳と、膝を崩し長い睫毛を伏し目がちに落として賭場をじっと見つめる姿を美しいとさえ思う。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>の競馬狂いの一節を読んで、真っ先に思い出したのは「乾いた花」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>の姿だった。</p> <p> </p> <p>「乾いた花」は出所したばかりのヤクザ・村木(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%D3%C9%F4%CE%C9">池部良</a>)が賭場で冴子と出会い、彼女の破滅願望に時に付き合い、時に諫めながら奇妙な関係を結ぶという物語で、娑婆に出てみればかつての仇敵の組同士が手を取り合う緩みきった世界で、今より強いスリルを求めてレートの高い賭場をさ迷う冴子に心ならず惹かれてゆく村木の愛情と嫉妬ないまぜの感情を、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%D3%C9%F4%CE%C9">池部良</a>の抑制した名演で描かれる。冴子の本名も、家庭も仕事も最後まで明らかにはされない。</p> <p> </p> <p>冴子は友達の医師から(本当は賭場にたむろする中国人・葉(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%A3%CC%DA%B9%A7">藤木孝</a>)から)<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%D0%C0%C3%BA%DE">覚醒剤</a>をもらい試したと村木に告げる。カッとなり「馬鹿野郎!」と怒鳴る村木。「あんたにヤクよりもっといいもの見せてやる」と、村木は冴子をある高級レストランに連れて行く。</p> <p> </p> <p>村木は冴子の見ている前で、関西の新興組織のボスを刺す。組の仕事だ。</p> <p>「つまらない事だわ」<br />「つまらん事さ」</p> <p>ことの一部始終はBGMのオペラのアリアにかき消され、音もなく終わる。瞬きもせず、冴子はじっと見つめる。そしてそれが村木と冴子の、最後をともにする瞬間となる。村木は再び収監され、冴子との音信は途絶え、二年後に村木はある噂を耳にする…。</p> <p>この殺害シーンの撮影を、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>はずっと後にエッセイ集「純情ババアになりました。」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%D6%C3%CC%BC%D2">講談社</a>)でこう回想している。</p> <blockquote> <p>…映画のラストシーンで、私は池部さんが人を殺す光景をただ眺めてる。 その時の私の表情を、篠田さんはこうたとえてサジェストした。</p> <p>「マリアの顔だよ!マリア」</p> <p>あっ、そうなのね。一度は素直に思うものの、"生意気・西洋野菜・カガ"はパコ ーン!とボールを打ち返す。</p> <p>「それはマググラのマリアですか、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%BB%CA%EC%A5%DE%A5%EA%A5%A2">聖母マリア</a>ですか?」</p> <p> だけど、私も監督も、そんな瞬間化学反応みたいな会話から生まれてくる現場の空気を愛していたのだと思う。十字架にかけられたイエスの死を見守り、受容したマリアの静謐さをもって立ち尽くすんだよ、と。そうやって組み立てていく"モノづく り"が好きだったのだ。</p> </blockquote> <p> こうして冴子=<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>は忘れがたい表情を観客に刻印する。</p> <p>「乾いた花」で≪小さな死≫にのめりこんでゆく女を演じた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>は当時19歳。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>が特攻隊員として死の瀬戸際に立っていたのと同じ年であった。</p> <div> <h5>カテゴリ「ドラマ」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/11/21/023512">遊び</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/21/023440">盲獣</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/28/201416">妻は告白する</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/14/004548">青空娘</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/08/011248">女の一生(1962)</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a 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href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4898302890/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009YDAHGG/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="&lt;あの頃映画&gt; 乾いた花 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51uda2qeZ5L._SL160_.jpg" alt="&lt;あの頃映画&gt; 乾いた花 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009YDAHGG/scorpion701-22/">&lt;あの頃映画&gt; 乾いた花 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2013/01/30</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 1回</li> <li><a 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C2%E7%B3%D8%CB%DC%B6%BF%A5%AD%A5%E3%A5%F3%A5%D1%A5%B9">東京大学本郷キャンパス</a>の三四郎池の藤棚で、法学部4年生のN君は首をつった。N君のジャンパーにはレポート用紙3枚に長文の遺書が書かれており、それには次のようなことが書いてあった。</p> <blockquote> <p><img src="http://chart.apis.google.com/chart?cht=tx&chl=%7B%E4%BB%A5%E4%B8%8B%E3%81%AE%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8A%E8%87%AA%E6%AE%BA%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%5C%5C%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%8B%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%82%92V%E3%80%81%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%5C%5C%E5%80%A4%E6%89%93%E3%81%A1%E3%82%92vt%E3%81%A8%E3%81%8A%E3%81%8F%E3%81%A8%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20V%3D%5Cint_b%5Edvt%5C%20dt%5C%20%28b%E3%81%AF%E5%87%BA%E7%94%9F%E6%99%82%E3%80%81d%E3%81%AF%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E6%99%82%29%5C%5C%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81S%E3%82%92%E8%87%AA%E5%B7%B1%E6%BA%80%E8%B6%B3%E3%80%81Q%E3%82%92%E4%BB%96%E4%BA%BA%E3%81%8C%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AB%5C%5C%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%82%8B%E7%A6%8F%E7%A5%89%E3%80%81E%E3%81%AF%E4%BA%BA%E9%96%93%E4%BB%A5%E5%A4%96%E3%81%AE%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AB%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%82%8B%5C%5C%E7%A6%8F%E7%A5%89%E3%81%A8%E3%81%8A%E3%81%8F%E3%81%A8%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20vt%3DV%28St%2CQt%2CEt%29%5C%5C%28%E8%BF%91%E4%BC%BC%E7%9A%84%E3%81%AB%5Cdisplaystyle%20vt%3DSt%2BQt%2BEt%E3%81%A8%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A6%5C%5C%E5%A4%A7%E9%81%8E%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%29%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20E%3D%5Cint_b%5EdEt%5C%20dt%5C%20%E3%81%AF%E3%81%BB%E3%81%A8%E3%82%93%E3%81%A9%E3%81%AE%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%5C%5C%E8%B2%A0%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82%5C%5C%E3%81%9D%E3%81%93%E3%81%A7%E5%A4%9A%E3%81%8F%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20Q%3D%5Cint_b%5EdQt%5C%20dt%5C%20%5C%20%5C%20%5C%20S%3D%5Cint_b%5EdSt%5C%20dt%5C%5C%E3%81%A8%E3%81%8F%E3%81%AB%E5%BE%8C%E8%80%85S%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%80%A4%E3%81%AB%E3%82%88%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%80%81E%E3%81%AE%5C%5C%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%82%92%E6%AD%A3%E5%BD%93%E5%8C%96%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%80%82%5C%5C%E7%A7%81%E3%81%AE%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%82%92t_0%E3%81%A8%E3%81%8A%E3%81%8F%E3%81%A8%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20%5Cint_b%5E%7Bt_0%7Dvt%5C%20dt%5Clt0%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20%5Cint_%7Bt_0%7D%5Edvt%5C%20dt%20%5Cgeqq%20%5Cint_b%5E%7Bt_0%7Dvt%5C%20dt%5C%5C%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B%E3%80%82%5C%5C%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%BE%E3%81%A7%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%8C%E3%80%81%E4%BB%8A%E5%BE%8CE%E3%81%AE%E5%80%A4%E3%81%AE%5C%5C%E5%A4%89%E5%8C%96%E3%81%AF%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%82%82%E3%80%81S%E3%80%81Q%E3%81%AE%E6%80%A5%E6%BF%80%E3%81%AA%E4%BD%8E%E4%B8%8B%5C%5C%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8A%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20%5Cint_%7Bt_0%7D%5E%7Bd_0%7Dvt%5C%20dt%5Clt0%5C%20%28d_0%E3%81%AF%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%AD%BB%E3%81%AE%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%29%5C%5C%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E7%A2%BA%E5%AE%9F%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%20V_%7Bt_0%7D%3D%5Cint_b%5E%7Bt_0%7Dvt%5C%20dt%2C%5C%20V_%7Bd_0%7D%3D%5Cint_b%5E%7Bd_0%7Dvt%5C%20dt%5C%5C%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%80%81%5C%5C%5Cdisplaystyle%200%5Cgt%20V_%7Bt_0%7D%5Cgt%20V_%7Bd_0%7D%5C%5C%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AF%E3%80%81V_b%3D0%E3%82%92%E9%81%B8%E6%8A%9E%5C%5C%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%A7%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AB%E3%81%AFV_b%E3%81%AF%E9%81%B8%E6%8A%9E%E3%81%AE%E4%BD%99%E5%9C%B0%5C%5C%E3%81%AE%E5%A4%96%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8A%E3%80%81%5C%5C%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AEV_%7Bt_0%7D%E3%81%A8V_%7Bd_0%7D%E3%81%AE%E9%81%B8%E6%8A%9E%E3%81%AE%E4%BD%99%E5%9C%B0%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%5C%5CV_%7Bt_0%7D%E3%82%92%E9%81%B8%E6%8A%9E%E3%80%82%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%8C%E7%A7%81%E3%81%AE%E8%A6%8B%E8%A7%A3%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E2%80%A6%E2%80%A6%E3%80%82%7D" alt="{&#x4EE5;&#x4E0B;&#x306E;&#x7406;&#x7531;&#x306B;&#x3088;&#x308A;&#x81EA;&#x6BBA;&#x3059;&#x308B;&#x3053;&#x3068;&#x306B;&#x3057;&#x307E;&#x3059;&#x3002;\\&#x751F;&#x304D;&#x308B;&#x610F;&#x5473;&#x3092;V&#x3001;&#x73FE;&#x5728;&#x751F;&#x304D;&#x308B;&#x3053;&#x3068;&#x306E;\\&#x5024;&#x6253;&#x3061;&#x3092;vt&#x3068;&#x304A;&#x304F;&#x3068;&#x3001;\\\displaystyle V=\int_b^dvt\ dt\ (b&#x306F;&#x51FA;&#x751F;&#x6642;&#x3001;d&#x306F;&#x6B7B;&#x4EA1;&#x6642;)\\&#x307E;&#x305F;&#x3001;S&#x3092;&#x81EA;&#x5DF1;&#x6E80;&#x8DB3;&#x3001;Q&#x3092;&#x4ED6;&#x4EBA;&#x304C;&#x672C;&#x4EBA;&#x306B;\\&#x4E0E;&#x3048;&#x308B;&#x798F;&#x7949;&#x3001;E&#x306F;&#x4EBA;&#x9593;&#x4EE5;&#x5916;&#x306E;&#x3082;&#x306E;&#x306B;&#x4E0E;&#x3048;&#x308B;\\&#x798F;&#x7949;&#x3068;&#x304A;&#x304F;&#x3068;&#x3001;\\\displaystyle vt=V(St,Qt,Et)\\(&#x8FD1;&#x4F3C;&#x7684;&#x306B;\displaystyle 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dt\\&#x3068;&#x3057;&#x306A;&#x3051;&#x308C;&#x3070;&#x306A;&#x3089;&#x306A;&#x3044;&#x3068;&#x8003;&#x3048;&#x308B;&#x3002;\\&#x3044;&#x307E;&#x307E;&#x3067;&#x751F;&#x304D;&#x3066;&#x304D;&#x307E;&#x3057;&#x305F;&#x304C;&#x3001;&#x4ECA;&#x5F8C;E&#x306E;&#x5024;&#x306E;\\&#x5909;&#x5316;&#x306F;&#x5C11;&#x306A;&#x3044;&#x3068;&#x3057;&#x3066;&#x3082;&#x3001;S&#x3001;Q&#x306E;&#x6025;&#x6FC0;&#x306A;&#x4F4E;&#x4E0B;\\&#x306B;&#x3088;&#x308A;&#x3001;\\\displaystyle \int_{t_0}^{d_0}vt\ dt\lt0\ (d_0&#x306F;&#x81EA;&#x7136;&#x6B7B;&#x306E;&#x6642;&#x671F;&#x3068;&#x306A;&#x308B;)\\&#x3068;&#x306A;&#x308B;&#x3053;&#x3068;&#x304C;&#x78BA;&#x5B9F;&#x306A;&#x306E;&#x3067;&#x3001;\\\displaystyle V_{t_0}=\int_b^{t_0}vt\ dt,\ V_{d_0}=\int_b^{d_0}vt\ dt\\&#x3068;&#x3059;&#x308B;&#x3068;&#x304D;&#x3001;\\\displaystyle 0\gt V_{t_0}\gt V_{d_0}\\&#x3068;&#x8003;&#x3048;&#x3089;&#x308C;&#x308B;&#x3002;&#x672C;&#x5F53;&#x306F;&#x3001;V_b=0&#x3092;&#x9078;&#x629E;\\&#x3059;&#x3079;&#x304D;&#x3067;&#x3042;&#x3063;&#x305F;&#x3002;&#x4EBA;&#x9593;&#x306B;&#x306F;V_b&#x306F;&#x9078;&#x629E;&#x306E;&#x4F59;&#x5730;\\&#x306E;&#x5916;&#x3067;&#x3042;&#x308A;&#x3001;\\&#x73FE;&#x5728;&#x306E;V_{t_0}&#x3068;V_{d_0}&#x306E;&#x9078;&#x629E;&#x306E;&#x4F59;&#x5730;&#x306E;&#x9593;&#x3067;&#x306F;&#x3001;\\V_{t_0}&#x3092;&#x9078;&#x629E;&#x3002;&#x4EE5;&#x4E0A;&#x304C;&#x79C1;&#x306E;&#x898B;&#x89E3;&#x3067;&#x3042;&#x308A;&#x307E;&#x3059;&hellip;&hellip;&#x3002;}"/>  </p> </blockquote> <p>一見すると難解なようだが、N君の数式は高校で習うレベルの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%D1%CA%AC">積分</a>式で、つまるところ"この先自然死するまで生きてても生きる意味は今より悪くなるだけだ(0&gt;Vt0&gt;Vd0)"ということが言いたいだけである。司法試験に落ちたことが契機になったようだ。</p> <p>このニュースに接した映画評論家・岩崎昶は死の前年に上梓した自伝「映画が若かったときー明治・大正・昭和三代の記憶」で、N君の死に接してある種の感慨を覚えている。岩崎自身が東大OBなのもあるが、それ以前にN君の死は岩崎に、彼の母校・旧制<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E8%B0%EC%B9%E2%C5%F9%B3%D8%B9%BB">第一高等学校</a>(通称一高、東大<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%B5%CD%DC%B3%D8%C9%F4">教養学部</a>の前身)の先輩であった藤村操の死を思わせたからだった。</p> <blockquote> <p>悠々たる哉天壌、遼々たる哉古今、五尺の小軀を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲学竟に何らのオーソリチーを値するものぞ、万有の真相は唯一言にして悉す、曰く「不可解」、我この恨を懐て煩悶終に死を決す。既に厳頭に立つに及んで胸中何等の不安あるなし、初めて知る、大なる悲観は大なる楽観に一致するを</p> </blockquote> <p>1903年5月22日、藤村操は日光<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%DA%B8%B7%A4%CE%C2%EC">華厳の滝</a>の傍らの大樹にこの「厳頭之感」を書き付け、身を投げた。岩崎が生まれたのはその翌年のことであったが、藤村の衝撃は岩崎が一高に進学してもなお昨日のことのように語り継がれていたという。</p> <p>明治という時代は、青年が初めて個我というものに向き合うことを余儀なくされた時代でもあった。軍隊や鉄道や工場は国家がもたらしてくれた。だが真理や生の意味は自分でつかみ取らなければならなかった。煩悶する時間だけは手に余るほど持っていた日本の青年にとって個人を基底とする西洋哲学は、知的スノビスムの段階を超えて突き詰めていけば行くほど、自分を追い込むものであったのであろう。藤村操は「不可解」という結論を出さざるを得なかった。70年を超えるその命脈を、岩崎昶はN君に見た。</p> <p> </p> <p>しかし、である。年間三万人が自ら命を絶つと言われる今の時代、その理由の大半は「健康(おそらくメンタルも含まれるのであろう)」と「経済」である。それにいじめを原因とした子供の痛ましい死を併せ考えると、哲学的自殺はそれこそが「不可解」と言わざるを得ないのだ。</p> <p> </p> <p>N君の自殺に感慨を覚えた岩崎昶は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B4%D8%C5%EC%C2%E7%BF%CC%BA%D2">関東大震災</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C2%E7%B6%F5%BD%B1">東京大空襲</a>で二度焼け野原になった東京を生き延び、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A1%A5%B7%A5%BA%A5%E0">ファシズム</a>の嵐の中で弾圧を受けてなお生き抜いた人である。</p> <h5>読書の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/07/232337">新橋ロマン劇場が最後の番組に選んだ作品と、その歴史</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/12/025939">サイン本は物神化する——追悼・鈴木則文——</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/31/184405">【書評】世直しとしての地震 — アウエハント『鯰絵』</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/26/004818">連想読書</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J857O2/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="映画が若かったとき―明治・大正・昭和三代の記憶 (1980年)" src="http://d.hatena.ne.jp/images/hatena_aws.gif" alt="映画が若かったとき―明治・大正・昭和三代の記憶 (1980年)" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J857O2/scorpion701-22/">映画が若かったとき―明治・大正・昭和三代の記憶 (1980年)</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> 岩崎昶</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CA%BF%CB%DE%BC%D2">平凡社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 1980/09</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> ?</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B000J857O2/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (1件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 まむしの兄弟 恐喝三億円 hatenablog://entry/8454420450088423477 2015-05-31T23:59:58+09:00 2015-05-31T23:59:58+09:00 「兄貴、3億の半分言うたらなんぼや?」「アホウ、そないなこともわからんのけ。1500万やがな」 神戸・新開地の「一度食いついたら死んでも離さない」まむしことゴロ政(菅原文太)と勝(川地民夫)のチンピラコンビが暴れ回る「まむしの兄弟」シリーズの6作目「まむしの兄弟 恐喝(かつあげ)三億円」(鈴木則文監督・1973年東映)は、兄貴分・ゴロ政と弟分・勝のコミカルなやり取りと痛快な立ち回りに「母」という主題を加える。それは序盤、九州の刑務所を出所して神戸に帰ってきたゴロ政が、母の日のカーネーション配りの少女に出くわす場面から明らかになっている。お母さんがいる人は赤いカーネーション、いない人は白いカーネ… <p>「兄貴、3億の半分言うたらなんぼや?」<br />「アホウ、そないなこともわからんのけ。1500万やがな」</p> <p><span style="line-height: 1.5;">神戸・新開地の「一度食いついたら死んでも離さない」まむしことゴロ政(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>)と勝(川地民夫)のチンピラコンビが暴れ回る「まむしの兄弟」シリーズの6作目「まむしの兄弟 <ruby><rb>恐喝</rb><rp>(</rp><rt>かつあげ</rt><rp>)</rp></ruby>三億円」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%EB%CC%DA%C2%A7%CA%B8">鈴木則文</a>監督・1973年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)は、兄貴分・ゴロ政と弟分・勝のコミカルなやり取りと痛快な立ち回りに「母」という主題を加える。それは序盤、九州の刑務所を出所して神戸に帰ってきたゴロ政が、母の日の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>配りの少女に出くわす場面から明らかになっている。お母さんがいる人は赤い<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>、いない人は白い<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>を。ゴロ政は白い<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>を買う。</span></p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>いつもならムショに出迎えに来るはずの勝が来ないのを不審がったゴロ政は、勝が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%F6%A4%BF%A4%EA%B2%B0">当たり屋</a>に失敗して入院したことを知る。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%F6%A4%BF%A4%EA%B2%B0">当たり屋</a>の相手は神洋商会の香港商人・李陽徳(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%CF%C4%C5%C0%B6%BB%B0%CF%BA">河津清三郎</a>)の娘・麗花(堀越光恵)。ゴロ政と勝は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>安武組組長・安武(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%CF%CA%D5%CA%B8%CD%BA">渡辺文雄</a>)と李の商談の場に乗り込み、慰謝料3百万円の小切手とゴルフボール1個をせしめるが、二人を送り届けた李のボディガード・マオ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%CA%FD%B9%B0%BC%F9">松方弘樹</a>)にコテンパンにのめされ、ゴルフボールを奪い返される。ゴルフボールには3億の大取引となるヘロインのサンプルが仕込んであったのだ。</p> <p> </p> <p>寡黙で感情を顔に出さないマオは、李の半ば奴隷として虐待され、こき使われていた。マオの本名は広津健、戦時中上海で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%D6%B0%C2%C9%D8">慰安婦</a>をしていた母が5円で幼い我が子を李に売り渡したのだ。日本人でも中国人でもない無国籍者マオの母の記憶は、財布に忍ばせた雑誌の切り抜き一枚だけ。いつしか麗花はマオを愛するようになっていた。</p> <p> </p> <p>やがて李と安武組の取引日が訪れる。マオは意を決し、ひとり李に叛旗を翻して3億のヘロイン強奪を企てる。麗花は父とマオとの板挟みで、マオについて行く決意をする。だがまだ手が足りない。麗花はゴロ政と勝を男と見込んで手助けを依頼する。マオの傲岸不遜な態度に一度は話を蹴るゴロ政だったが、マオが大切にしている母の写真を見たゴロ政はマオの真意を読み取り、ヘロイン強奪に協力することになる。</p> <p> </p> <p>ゴロ政と勝、マオと麗花は二手に分かれ、ゴロ政達は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%CB%C3%B0%B6%F5%B9%C1">伊丹空港</a>でヘロインのトラックを奪い取る。ヘロインが奪われたことを知った李は安武組に救援を頼む。安武組の追っ手からしこたま銃弾を撃ち抜かれながらもマオとの待ち合わせの場所に辿り着く。マオは実のところ、ゴロ政と勝を消すつもりでいた。「日本人は信じるな」と李に何度も教え込まれてきたからだ。だがマオを信じてハチの巣になったトラックで駆けつけたゴロ政に、マオは初めて人を信じることを覚える。</p> <p>「まむしの、オレはあんたを裏切るところだった。一生忘れねえぜ」<br />「ワイは白やけど、ワレは赤や。中国行ったら、二人で親孝行すんのやで」</p> <p>ゴロ政はマオに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>を渡す。去って行くマオと麗花のオープンカー。だが道路の先には、安武組一派がマシンガンで待ち構えていた。</p> <p> </p> <p>マオと麗花の逃避行はあっけなく終焉を迎えた。3億の賭に負けたマオと麗花の復讐のため、ゴロ政と勝はたった二人で安武組に殴り込む。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%EB%CC%DA%C2%A7%CA%B8">鈴木則文</a>・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>コンビの、のちの「トラック野郎」を彷彿させる作品である。</p> <p>興味深いのは、この作品、主要登場人物が全員「母の記憶」を持っていないことだ。ゴロ政は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%EF%BA%D2%B8%C9%BB%F9">戦災孤児</a>で、施設と少年院を出たり入ったりして育った。勝も同じく施設育ちで、家族の記憶は唯一「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%FE%C5%B4">満鉄</a>小唄」のメロディーだけである(このことは、勝がおそらく在日<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C1%AF%BF%CD">朝鮮人</a>の子であることをほのめかす)。こうした二人の出自はシリーズ1作目「懲役太郎 まむしの兄弟」(中島貞雄監督・1971年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)で明らかにされる。マオ=広津健の出自についてはすでに触れた。李麗花は陽徳との二人暮らしで、そこに母の影は見えない。</p> <p> </p> <p>「まむしの兄弟 恐喝三億円」は母のない三人の子(ゴロ政、勝、麗花)が母に捨てられた子(マオ)のために命を張るという構図になっていて、そのテーマ性は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A1%BC%A5%CD%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3">カーネーション</a>を象徴的な小道具にして明確に意図されている。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>の任侠映画には、よく見ているとこうした「母もの」の主題が底に流れる作品が案外多い。見せ場の荒々しい殴り込み場面との対比として、こうした情緒に訴えかける主題でバランスを取っていたのだろうと思わせる。</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%EB%CC%DA%C2%A7%CA%B8">鈴木則文</a>監督の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/12/025939">サイン本は物神化する——追悼・鈴木則文——</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/07/233132">大阪ど根性物語 どえらい奴</a></li> </ul> <div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003AZFJQW/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="まむしの兄弟 恐喝三億円 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51lFTFjjz2L._SL160_.jpg" alt="まむしの兄弟 恐喝三億円 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003AZFJQW/scorpion701-22/">まむしの兄弟 恐喝三億円 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> TOEI COMPANY,LTD.(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/TOE">TOE</a>)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2010/07/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 14回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B003AZFJQW/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (2件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 愛に濡れたわたし hatenablog://entry/8454420450090890158 2015-05-24T11:25:50+09:00 2015-05-24T17:50:40+09:00 港町、雷雨の夜。ずぶ濡れの京平(石津康彦)が雨宿りにバーに駆け込む場面から映画は始まる。客もなく、有線放送で森進一の「港町ブルース」が流れるだけの小さな店。カウンターには愛想のないママの美和(宮下順子)ただ一人。二人はそれがさも当然であるかのように肌を合わせる。美和の右の太股には包帯が巻いてある。 京平は会社を辞めて失踪した妻・よし子の行方を捜していた。京平と出会った美和は店を辞め、京平の妻捜しを手伝うつもりで世田谷区北沢にアパートを借りた。京平は美和の包帯が刺青を隠すためのものであることをいつの間にか知っていた。 「また考えてる、奥さんのこと。今夜も帰るの?」京平は美和と半同棲の状態になりな… <p>港町、雷雨の夜。ずぶ濡れの京平(石津康彦)が雨宿りにバーに駆け込む場面から映画は始まる。客もなく、有線放送で森進一の「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%C1%C4%AE%A5%D6%A5%EB%A1%BC%A5%B9">港町ブルース</a>」が流れるだけの小さな店。カウンターには愛想のないママの美和(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%B2%BC%BD%E7%BB%D2">宮下順子</a>)ただ一人。二人はそれがさも当然であるかのように肌を合わせる。美和の右の太股には包帯が巻いてある。</p> <p> </p> <p>京平は会社を辞めて失踪した妻・よし子の行方を捜していた。京平と出会った美和は店を辞め、京平の妻捜しを手伝うつもりで世田谷区北沢にアパートを借りた。京平は美和の包帯が刺青を隠すためのものであることをいつの間にか知っていた。</p> <p>「また考えてる、奥さんのこと。今夜も帰るの?」京平は美和と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%BE%C6%B1%C0%B3">半同棲</a>の状態になりながらも決して暮らすことはなく、畑に囲まれた郊外の自宅の住所を美和に教えようともしない。</p> <p> </p> <p>ある日京平が美和のアパートを訪ねると、見知らぬ女が待っていた。美和の妹・月子(青木リサ)だというその娘は、美和に京平の世話するように命じられてきたのだという。さらにその娘は、失踪したよし子の居場所を知っていると不可解なことを言う。戸惑っていると、今度はサングラスの男(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%B6%B6%CC%C0">高橋明</a>)が「照美を出せ」といきなり部屋に怒鳴り込んでくる。</p> <p> </p> <p>小池という名のその男もまた、突然失踪した妻・照美を探していた。その女が美和にそっくりだったのだ。翌日、小池の誤解を解いて別れた美和の姿を偶然見かけた京平は美和の後を追うが、見失ってしまう。アパートで美和を問い詰めると、「知らないわ」と素っ気なく返す。それどころか「奥さんの居場所がわかったわ。あした、月子が情報を持ってくるわ」とはぐらかすようなことを言う。</p> <p>「うれしいでしょ。あたしを奥さんだと思って抱ける?」<br />「僕は美和を抱くんだ」<br />「奥さんのこと、忘れて・・・あなたが好きよ」</p> <p> </p> <p>夜、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%BD%C9%A5%B3%A5%DE%B7%E0%BE%EC">新宿コマ劇場</a>まえ。約束の時間を遙かに遅れて駆けつけたのは月子ではなく美和。美和は月子が交通事故に遭って今日は居場所を教えられないと言いのこし、京平を残して病院へと駆け去る。京平が家に帰ると、部屋が何者かに荒らされていた。</p> <p>「奥さんは?」<br />「妻は家出したんです」<br />「警察へは届けを出しましたか。家出人捜索願というやつですが」<br />「そんなこと、どうでもいいでしょう」<br />「どうでもいいってことはないでしょう」</p> <p>窃盗の被害届を出しに来た交番で、京平の行動にもまた不可解な点があることが判明する。なぜ京平は妻の捜索願を出そうとしないのか。</p> <p> </p> <p>「窃盗傷害の前科あり。まむしの美和。」妻捜しの調査を依頼していた興信所の調査員から京平は美和の正体を教えられる。美和の太股の刺青は南米に逃れた情夫への愛の証。情夫は間もなく帰国するはずだ。そうなれば京平は間違いなく殺される。それでも京平は美和を愛さずにはいられない。「奇妙な女だ。騙されるのが楽しくなる。企みはどこまで膨れてゆくのか。それに揺られている快楽・・・」</p> <p> </p> <p>またある日、美和が誘拐された、身代金100万円持ってこいと月子は京平に告げる。</p> <p>「驚かないの?」<br />「驚いてるさ」</p> <p>有り金をはたいて身代金を月子に渡す京平。月子は京平の家に向かう。美和の名を呼ぶ。だが返事はない。月子は100万円を庭に放り投げる。跡をつけていた京平は月子を問いただす。</p> <p>「君は100万で僕を試そうとしただろう」<br />「そうよ。だからお金を返したでしょ」<br />「美和はどこにいるんだよ!」<br />「そんなこと知らないわ。ここで二人で待ち合わせて、あんたをとっちめる約束をしたんだ。でも美和にはそんなことできなかったのね」</p> <p> </p> <p>美和はその頃多摩川の川辺にいた。美和は数日前、この川辺にたむろする不思議な女(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C0%EE%CD%FC%B3%A8">中川梨絵</a>)とその取り巻きの若い男達に出会った。そして再び出会った男達に輪姦され、サディストのその女にナイフでなます切りにされる。そんな遊びに飽きて踵を返した女からナイフを取り上げた美和は、苦悶に表情を歪ませながら、太股にぐるりと描かれたまむしの刺青をみずからえぐり取る。その様子を冷たい視線で見つめた女は無言で去って行く。</p> <p> </p> <p>翌日「今度こそ奥さんに会わせる」と美和に呼び出された京平は、町田の火葬場に連れて行かれる。妻が火葬されていることをなぜ知っているのか問いただす京平に、美和は「愛しているからよ」としか答えない。「奥さんのこと忘れられた?本当に奥さんを追い続けていたの?」と。だが火葬に付されていたのも、やはり別人だった。</p> <p> </p> <p>「美和はもう帰ってこないわよ。あたしが今日からここに住むの」<br />美和のアパートには月子が待っていた。美和は姿を消した。</p> <p>「栗原美和。写真がありませんな」<br />美和の家出人捜索願を出した京平は、警官に答える。<br />「写真は、ないんです」</p> <p> </p> <p>港町、雨の夜、場末のバー、BGMの森進一。美和はずぶ濡れでこの店に帰ってきた。中ではかつて美和を捨てて逃れたヤクザが彼女を待っていた。抱擁。美和はヤクザの腹に包丁を突き立てる。吹き出す返り血で真っ赤に染まる美和のワンピース。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>前々回の記事で観客は映画を見る時に無意識に持っている前提を、「期待」という言葉で表現した。</p> <p>「登場人物の全ての行動には理由があり、それが説明されなければならない」。</p> <p>「すべての謎はエンディングまでに解明されなければならない」。</p> <p>この二つの期待は、観客の期待のうちでも最も根本的な種類のものであろう。人は生理的に物語を欲求する。この二つは物語の成立条件に関わる期待である。そしてこの期待を意図的に裏切る作品は「不条理」「難解」「実験的」「退屈」といった否定的なニュアンスを含んだ評価を受ける。</p> <p> </p> <p>「愛に濡れたわたし」(加藤彰監督・1973年日活)はその種の観客の期待を裏切る作品であり、美和がなぜ嘘をつき京平を試し続けるのか、月子と美和は本当の姉妹なのか(月子は姉・美和に対して「姉さん」ではなく「美和」と常に名前で呼ぶ)、京平は本気で妻を捜していたのか、妻の捜索願を出さなかった京平がなぜ美和の捜索願を出したのか、それらの謎はこれだけ字数を使ってネタバレしても明らかにならない。確かなことは美和が京平を愛し、前の情夫を捨てる決意をしたことだけだが、それでも美和の説明なき行為は京平を疑問と確信の間に宙吊りにする。</p> <p>そのことが、我々観客が持っている物語への期待ーーすなわち登場人物の行動への期待、謎の解明への期待の存在を逆照射する。観客に、期待を持って作品に臨んでいることを自覚させる。つまり「愛に濡れたわたし」はメタな作品である。この作品世界でもし仮に、美和に彼女の行動の理由のすべてをセリフで説明させても、それは「クレタ人はみなウソつきだ」というクレタ人の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D1%A5%E9%A5%C9%A5%C3%A5%AF%A5%B9">パラドックス</a>しか生じさせないだろう。</p> <p> </p> <p>この作品の謎めいたストーリーとは対照的に、描かれる風景は極めてリアルなロケーションである。美和のアパートがある世田谷区北沢、京平の自宅がある東京郊外の畑、不思議な女がたむろする多摩川土手、これらは日活調布撮影所がある<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%FE%B2%A6%C0%FE">京王線</a>沿線の風景を切り取ったものである。この中で1時間あまりの作品世界が進んでゆく。</p> <p> </p> <p>ただし、オープニングとエンディングで描かれるいかにもセット然とした港町の盛り場のシーンだけが極めて虚構めいている。そしてそこで惨劇が起きる。</p> <p> </p> <p>加藤彰はオープニングとエンディングに同じ場面を使うことが多いが、「愛に濡れたわたし」ではリアルな風景の中の幻想への「出入口」がこの虚構の港町の盛り場なのだろう。</p> <p> </p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000BV7ULU/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="愛に濡れたわたし [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/211CSK5FBEL._SL160_.jpg" alt="愛に濡れたわたし [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000BV7ULU/scorpion701-22/">愛に濡れたわたし [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B8%A5%A7%A5%CD%A5%AA%A5%F3%20%A5%A8%A5%F3%A5%BF%A5%C6%A5%A4%A5%F3%A5%E1%A5%F3%A5%C8">ジェネオン エンタテインメント</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2005/12/22</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 18回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B000BV7ULU/scorpion701-22" 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ところかわって、とあるクリーニング屋。北海道から集団就職で住み込み勤めに… <p>有閑マダムが、次々と殺される事件が起きる。被害者の共通点は、ある日マンションの一室で麻雀をしていたことだけ。麻雀仲間は五人。次の被害者が出るおそれが高い。だが警察の捜査は難航する。</p> <p>&nbsp;</p> <p>新宿、とある大衆食堂。雨で客も来ない。店じまいをしかけていたところに、陰気な男(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%B0%F4">佐藤允</a>)がのれんをくぐる。「もうおしまいなんですけど」「なんでもいいんだ」男はカツ丼を頼む。食堂の店員・春子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%DC%BE%DE%C0%E9%B7%C3%BB%D2">倍賞千恵子</a>)は男に箸とフォークをそっと差し出す。川島、という名のその男が次々とマダム殺しに走る動機は一向ににわからないまま、春子と川島は交流を深めてゆく。</p> <p>&nbsp;</p> <p>ところかわって、とあるクリーニング屋。北海道から<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%B8%C3%C4%BD%A2%BF%A6">集団就職</a>で住み込み勤めに来て、理由もわからず自ら命を絶った少年の、位牌に線香を上げてやる川島がいる。しかし死んだその少年と、川島の接点は同郷だという以外にはない。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「あの子と結婚するのか。それならそれで、まじめに考えてほしいんだ。聞いたのか、あの子の兄さんのこと」</p> <p>食堂の主人は春子の暗い過去を川島に打ち明ける。五年前、手のつけられないほどぐれて家族に暴力を振るう兄を絞め殺し、執行猶予付きの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%C2%B7%BA">実刑</a>判決を受けていたのだ。春子の心根の良さを知る定食屋の主人は、せめて春子に幸せな結婚をさせてやってくれと涙ながらに川島に懇願する。川島は店の壁を見つめる。視線の先には、警察の指名手配犯のポスター。だが一カ所だけ破り取られているところがある。その場所には本来、川島の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E2%A5%F3%A5%BF%A1%BC%A5%B8%A5%E5">モンタージュ</a>写真があるはずだった。同じ頃、春子は荒川の土手になすこともなく佇んでいた。</p> <p>&nbsp;</p> <p>指名手配犯・川島の孤独な逃亡生活は二つの出会いによって引き裂かれつつあった。一つは潜伏先の工事現場で出会ったクリーニング屋の少年、その突然の死、彼を死に追いやった五人の女への復讐。もう一つは、彼を逃亡犯と知りながらなお愛してくれる不幸な春子が望む平穏な生活。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「自首してほしかったのか」<br>「そうよ!自首して出れば五年か、長くても十年。それくらいならあたし、待っててあげようと思ったの・・・」</p> <p>荒川土手の草むらで春子は川島を説得する。だが川島にはあと一人だけ、殺さねばならない女がいる。</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%D5%A4%C1%A4%E3%A4%F3">春ちゃん</a>、待ってくれ。一つだけ、明日の朝、明日の朝ここで会ってくれ!」</p> <p>そう言い残して川島は復讐を完遂するために春子を置いてゆく。</p> <p>&nbsp;</p> <p>翌朝、雨。約束の場所で春子は待っている。来るはずもない川島を。春子は川島とのただ一つの記憶である、ポスターから切り取った<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E2%A5%F3%A5%BF%A1%BC%A5%B8%A5%E5">モンタージュ</a>写真を一度は破り捨て、そして再びつなぎ直す。</p> <p>&nbsp;</p> <p align="center">*</p> <p>&nbsp;</p> <p>「みな殺しの霊歌」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C2%D9">加藤泰</a>監督・1968年松竹)は何の映画か。人は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%CB%DC%BC%FE%B8%DE%CF%BA">山本周五郎</a>「五瓣の椿」の現代的な映像化である<a href="#f-8237d817" name="fn-8237d817" title="「加藤泰、映画を語る」によると、もともとは「五人の女が次々と殺されてゆく話を作ってくれ」と松竹製作本部からの依頼を受けて加藤が「五瓣の椿」を連想したところから企画がスタートしたそうだ">*1</a>と言い、またある人は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A3%A5%EB%A5%E0%A1%A6%A5%CE%A5%EF%A1%BC%A5%EB">フィルム・ノワール</a>であると言い、またある人は超クロースアップと雨の場面を重視する<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C2%D9">加藤泰</a>らしい作品であると言い、またある人は鏑木創の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%AD%A5%E3%A5%C3%A5%C8">スキャット</a>を多用した音楽が感傷的すぎると言い、またある人は大衆食堂、荒川といった舞台や刑事役の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%C2%BC%C3%A3%CD%BA">松村達雄</a>、クリーニング店主役の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%C0%BA%CB%B5%D7%CD%BA">太宰久雄</a>といったキャストに松竹の下町もののテイストがある<a href="#f-cb78afa3" name="fn-cb78afa3" title="製作には山田洋次が参加している">*2</a>というだろう。</p> <p>それはすべて正しい。映画の見方に正解はない。</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;印象的なのは、この作品における<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E2%A5%F3%A5%BF%A1%BC%A5%B8%A5%E5">モンタージュ</a>写真という小道具だろう。春子は川島が氏名手配犯であることを悟られまいとして、川島の写真を破り取り、川島の社会的存在を消してしまう。やがてそれは、ラストシーンにおいて春子が大切に持っていた、彼女にとっての川島の唯一の記憶であることが判明する。その頃、川島はこの世からいなくなっている。人間としての川島が消滅している。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E2%A5%F3%A5%BF%A1%BC%A5%B8%A5%E5">モンタージュ</a>写真とは、相貌のパーツごとに他人の顔を組み合わせて作り上げたまがいものの顔である。まがいものの顔以外、春子と川島の間には何も残っていない。だから春子はまがいものと知りつつ、そこにしか思いを仮託することはできない。人と人とは、なんと<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E5%A4%A4%C9%B3%C2%D3">弱い紐帯</a>によって生きているのか。この場面はそんなことを問いかけているように思える。</p> <p>&nbsp;</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480430687/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="加藤泰、映画を語る (ちくま文庫)" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/514xyR7gDnL._SL160_.jpg" alt="加藤泰、映画を語る (ちくま文庫)"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480430687/scorpion701-22/">加藤泰、映画を語る (ちくま文庫)</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C2%D9">加藤泰</a>,<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%BA%AC%C4%E7%C3%CB">山根貞男</a>,安井喜雄</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> 筑摩書房</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2013/07/10</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 文庫</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4480430687/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (1件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006DTNUD6/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="あの頃映画 「みな殺しの霊歌」 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51bocUOr0cL._SL160_.jpg" alt="あの頃映画 「みな殺しの霊歌」 [DVD]"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006DTNUD6/scorpion701-22/">あの頃映画 「みな殺しの霊歌」 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2012/02/22</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 5人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 13回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B006DTNUD6/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <h5>松竹の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/27/230745">寅さん漬け</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/07/015914">からみ合い</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/04/015312">土曜は寅さん!(8): 男はつらいよ 寅次郎純情詩集</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/12/020921">土曜は寅さん!(7): 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/09/233006">吹けば飛ぶよな男だが</a></li> </ul><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-8237d817" name="f-8237d817" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%C6%A3%C2%D9">加藤泰</a>、映画を語る」によると、もともとは「五人の女が次々と殺されてゆく話を作ってくれ」と松竹製作本部からの依頼を受けて加藤が「五瓣の椿」を連想したところから企画がスタートしたそうだ</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-cb78afa3" name="f-cb78afa3" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">製作には<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C5%C4%CD%CE%BC%A1">山田洋次</a>が参加している</span></p> </div> sny22015 若さま侍捕物帳 黒い椿 hatenablog://entry/8454420450094080021 2015-05-10T23:28:45+09:00 2015-05-11T00:40:29+09:00 娯楽映画にはある種のルールがあり、そのルールは観客から作品への「期待」と、作品から観客への「サービス」(それがたとえ社会規範や倫理に反するものであっても)からなる。作品が観客との間に交わしたこの約束を忠実に履行することが、先品の成功を左右する基礎になる。 「伊豆大島の活火山・三原山に立つ者は、火口に落ちなければならない」。これはそのルールの一つであると言える。現実には何人も三原山火口に落ちるなどということはあってはならない。だが映画のなかの三原山の火口に立つ者を捉えたシーンでは、観客はその者に落ちてくれと期待せずにはおれない。作品はたっぷりの演出を込めて期待に応える。 例としてリメイク版の「ゴ… <p>娯楽映画にはある種のルールがあり、そのルールは観客から作品への「期待」と、作品から観客への「サービス」(それがたとえ社会規範や倫理に反するものであっても)からなる。作品が観客との間に交わしたこの約束を忠実に履行することが、先品の成功を左右する基礎になる。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%CB%C6%A6%C2%E7%C5%E7">伊豆大島</a>の活火山・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>に立つ者は、火口に落ちなければならない」。これはそのルールの一つであると言える。現実には何人も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>火口に落ちるなどということはあってはならない。だが映画のなかの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口に立つ者を捉えたシーンでは、観客はその者に落ちてくれと期待せずにはおれない。作品はたっぷりの演出を込めて期待に応える。</p> <p>&nbsp;</p> <p>例としてリメイク版の「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%B8%A5%E9">ゴジラ</a>」(橋本幸治監督・1984年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>)のクライマックスを挙げよう。動物学者の発明した音波誘導装置で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口まで誘き出された無敵の怪獣。火口には防衛隊が爆弾を仕掛けている。一瞬、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%B8%A5%E9">ゴジラ</a>は火口の寸前で立ち止まる。カメラは怪獣を正面からの短いバストショットで捕らえる。観客はその瞬間、知能としては下等動物にーーより正確にいえば人間らしい表情の作りようがないラテックスの着ぐるみにーーすぎないそのモノに、ある種の「思惟」を読み取る。怪獣が、そこに致命的な罠が仕掛けてあることに気づいているのではないかと錯覚する。あるはずもない怪獣の≪心≫を、観客自身が作品に刻印する。</p> <p>だが観客が怪獣の思惟を内面に言語化する前に、せっかちな防衛隊は爆弾を破裂させ、足下を崩された<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%B8%A5%E9">ゴジラ</a>は奈落へと落ちてゆく。映画は待ってくれないのだ。</p> <p>この印象的なシークエンスを効果的に成り立たせているのは「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口に立つ者は、そこに落ちてくれなければ映画にならない」という観客の期待である。作品がそれに如何に応えるか、として腐心するために日本で異常発達した特撮の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%BB%CB%A1">技法</a>は必要ない。サスペンスの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%BB%CB%A1">技法</a>が必要なのだ。</p> <p>&nbsp;</p> <p align="center">&nbsp;*</p> <p>&nbsp;</p> <p>「若さま侍捕物帳 黒い椿」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%F4%C5%E7%C3%E9">沢島忠</a>監督・1961年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)はさらに「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口ルール」に忠実な作品である。</p> <p>&nbsp;</p> <p>氏名不詳の主人公・通称「若さま」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%C0%EE%B6%B6%C2%A2">大川橋蔵</a>)は江戸の喧噪を離れ大島に保養に来る。冒頭、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>を散策していた若さまは花を手に火口に佇む不思議な少女・お君(丘さとみ)と出会う。お君は大島のどこにでもいる可憐なアンコ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%CB%C6%A6%C2%E7%C5%E7">伊豆大島</a>の未婚女性)にしか見えないが、実はお君の母はかつて江戸から来た侍と恋に落ち、父なし子のお君を産んでからは世間の風当たりに耐えきれず幼いお君を残して<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口に身を投げたのであった。</p> <p>&nbsp;</p> <p>若さまが出会ったその時、お君は母の墓でもある火口に花を供えに来ていたのであり、お君は漁師の祖父のもとで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%D8%CC%FD">椿油</a>の収穫で身を立てながらも、世間の冷たい視線に絶えず晒され続けて生きてきたのだった。お君は生まれながらに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口の呪いを背負ってきたのである。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「若さま侍捕物帳」は時代劇とはいえチャンバラ主体ではなく探偵もののシリーズらしい(見たのがこの一作なので他作品のことについては言えない)。探偵ものというのは主人公が訪れた瞬間から事件が動き出す。「黒い椿」では強欲な漁師網元・甚兵衛(阿部九洲男)の殺人事件を巡って無実の罪を着せられたお君の祖父・作造(水野浩)と彼を匿うお君、真犯人を捜す若さまの推理劇が平行して展開する。若さまの宿の女主人お園(青山京子)、番頭金助(田中春男)、金助を追って大島に密航してきた謎の修験者(河野秋武)、甚兵衛に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%D8%CC%FD">椿油</a>工場を取り上げられた油屋与吉(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%E4%C5%EC%B5%C8%CC%EF">坂東吉弥</a>)、油取引だけが目的ではない江戸の油仲買人新三(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%B7%C1%B7%AE">山形勲</a>)、乞食婆のお熊(金剛麗子)といった容疑者が蠢き、あるものは殺される。</p> <p>&nbsp;</p> <p>探偵ものなので真犯人を明かすことはここではできないが、クライマックスはやはり<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口に設定される。</p> <p>村人達の山狩りで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>に追い詰められたお君と作造は、そこで待ち構えていた「真犯人」に、すべての証人に消えて貰うため火口に飛び降りるよう脅迫される。いわばお君は自らの呪いの成就を強いられるのだ。</p> <p>&nbsp;</p> <p>そこに都合良く現れる若さま。事件の真相はすべて判明したと真犯人を追い詰める。探偵との知恵比べに破れ観念した真犯人は、己の不運を笑い飛ばしながら、足を滑らせて火口へと落ちてゆき、 一切の叙情的無駄を排除した作品はここで唐突に終幕となる。</p> <p>&nbsp;</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B8%B6%BB%B3">三原山</a>の火口ルール」は、そのルールを自らの出生の呪いとして引き受けた、哀れなお君よりも、真の悪人である真犯人を相応しい身代わりとして飲み込むことで観客に最高級の満足を与える。母が江戸の侍と恋に落ちたがゆえに不幸を背負ったお君は、別の江戸の侍・若さまの力によって呪いを解かれ、アンコとしての平穏な将来が暗示される。これが娯楽の正統でなくてなんであろうか。</p> <p>&nbsp;</p> <p align="center">*</p> <p>&nbsp;</p> <p>まだ少女の域を出ないお君は、自力で火口落ちの呪いを断ち切ることはできず、若さまの力を得ることによって初めて解放された。だが自らの意志で呪いを絶つこともできる。それには自らが他者をーー意図的であれ偶然であれーー落としてしまうというタブー破りが必要だ。誰かを落とすことによって呪いを解くこと。「めまい」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%D5%A5%EC%A5%C3%A5%C9%A1%A6%A5%D2%A5%C3%A5%C1%A5%B3%A5%C3%A5%AF">アルフレッド・ヒッチコック</a>監督・1958年アメリカ)における<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B8%A5%A7%A1%BC%A5%E0%A5%BA%A1%A6%A5%B9%A5%C1%A5%E5%A5%EF%A1%BC%A5%C8">ジェームズ・スチュワート</a>以上に、その意志の強さを見たものはない。教会のらせん階段と同じくスパイラルに上昇してゆく観客の期待に応え、高所恐怖症の中年探偵は呪いの権化である<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AD%A5%E0%A1%A6%A5%CE%A5%F4%A5%A1%A5%AF">キム・ノヴァク</a>を伴って駆けあがってゆく。天辺にたどり着いたその先には・・・</p> <p>&nbsp;</p> <p>「若さま侍捕物帳 黒い椿」には<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%C3%A5%C1%A5%B3%A5%C3%A5%AF">ヒッチコック</a>のサスペンスの強靱さはない。だがそれでも、「めまい」の翻案なのである。</p> <p>&nbsp;</p> <p>(「若さま侍捕物帳 黒い椿」はソフト化されていません)</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00ISOHMPG/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="ゴジラ(1984年度作品) [60周年記念版] [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51Y8EVy5ceL._SL160_.jpg" alt="ゴジラ(1984年度作品) [60周年記念版] [DVD]"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00ISOHMPG/scorpion701-22/">ゴジラ(1984年度作品) [60周年記念版] [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B8%A5%A7%A5%CD%A5%AA%A5%F3%A1%A6%A5%E6%A5%CB%A5%D0%A1%BC%A5%B5%A5%EB">ジェネオン・ユニバーサル</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2012/09/26</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 1人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 2回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B008MIU08E/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (15件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <h5>時代劇の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/11/235914">(秘)極楽紅弁天</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/05/010825">新選組始末記</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/24/230228">必殺!III 裏か表か</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/30/015452">白木万理</a></li> </ul> sny22015 菅原文太とイスラム過激派 hatenablog://entry/8454420450088636508 2015-03-19T23:27:43+09:00 2015-03-20T01:32:53+09:00 池袋の新文芸坐で開催中の菅原文太追悼上映では、文太が1974年に吹き込んだアルバム「菅原文太 男の詩 旅立ち 放浪」が休憩時間に流れている。 菅原文太 男の詩 旅立ち 放浪 アーティスト: 菅原文太 出版社/メーカー: 徳間ジャパンコミュニケーションズ 発売日: 2015/01/28 メディア: CD この商品を含むブログを見る このアルバムに、文太のカバーによるエト邦枝のヒット曲「カスバの女」が収録されている。ここ数日は池袋で何度も菅原文太版「カスバの女」を聞くともなく聞いている。アルジェリア戦争(1954ー62)を背景に外人部隊の兵士と、酒場の女の短い恋を唄った1955年の懐メロである。 … <p>池袋の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%CA%B8%B7%DD%BA%C1">新文芸坐</a>で開催中の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>追悼上映では、文太が1974年に吹き込んだアルバム「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a> 男の詩 旅立ち 放浪」が休憩時間に流れている。</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QWQEHBO/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="菅原文太 男の詩 旅立ち 放浪" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51RESDpXzYL._SL160_.jpg" alt="菅原文太 男の詩 旅立ち 放浪" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00QWQEHBO/scorpion701-22/">菅原文太 男の詩 旅立ち 放浪</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">アーティスト:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%C1%B4%D6%A5%B8%A5%E3%A5%D1%A5%F3%A5%B3%A5%DF%A5%E5%A5%CB%A5%B1%A1%BC%A5%B7%A5%E7%A5%F3%A5%BA">徳間ジャパンコミュニケーションズ</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2015/01/28</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> CD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00QWQEHBO/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p> </p> <p>このアルバムに、文太のカバーによるエト邦枝のヒット曲「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%B9%A5%D0%A4%CE%BD%F7">カスバの女</a>」が収録されている。ここ数日は池袋で何度も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%FB%B8%B6%CA%B8%C2%C0">菅原文太</a>版「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%B9%A5%D0%A4%CE%BD%F7">カスバの女</a>」を聞くともなく聞いている。<span style="line-height: 1.5;"><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B8%A5%A7%A5%EA%A5%A2">アルジェリア</a>戦争(1954ー62)を背景に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%B0%BF%CD%C9%F4%C2%E2">外人部隊</a>の兵士と、酒場の女の短い恋を唄った1955年の懐メロである。</span></p> <p><iframe src="https://youtube.googleapis.com/v/92uFUl9_StU&amp;source=uds" width="420" height="315" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe></p> <p> 酒場の女は望郷のフランス兵のために「花はマロニエ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%E3%A5%F3%A5%BC%A5%EA%A5%BC">シャンゼリゼ</a>」と歌ってやり、「明日は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B9">チュニス</a>かモロッコか」と彼の明日をも知れぬ行く先を思う。儚い恋の歌であると同時に、異国情緒をたっぷりと歌い上げた歌詞である。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B9">チュニス</a>と聞いてそれが地球のどこにあるか思いつく日本人は、当時は殆どいなかったのではないだろうか。</p> <p> </p> <p>事情は今でもそう変わるまい。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B9">チュニス</a>がどこにあろうと、我々の生活に大きな影響があるとは思えないし、明日も今日と同じく<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%CA%B8%B7%DD%BA%C1">新文芸坐</a>は文太の歌を流すだろう。1955年と2015年をひとつ大きく隔てるのは、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B9">チュニス</a>での騒乱に日本人の一般庶民も無関係ではいられなくなったことだ。昨日<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B9">チュニス</a>で発生した乱射事件に巻き込まれた日本人は、地中海ツアーの観光客だったそうだ。</p> <p><iframe class="embed-card embed-webcard" style="display: block; width: 100%; height: 155px; max-width: 500px; margin: 10px 0px;" title="チュニジア襲撃事件で多数の死者 | ロイター | 東洋経済オンライン" src="//hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Ftoyokeizai.net%2Farticles%2F-%2F63692" frameborder="0" scrolling="no"><a href="http://toyokeizai.net/articles/-/63692" data-mce-href="http://toyokeizai.net/articles/-/63692">チュニジア襲撃事件で多数の死者 | ロイター | 東洋経済オンライン</a></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="http://toyokeizai.net/articles/-/63692">toyokeizai.net</a></cite></p> <p>背景にはいうまでもなく地中海沿岸の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%A5%A2%A5%D5%A5%EA%A5%AB">北アフリカ</a>における<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A5%E0">イスラム</a>過激派の台頭がある。犯行声明は出されていないものの、実行犯は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%AB%A5%A4%A5%C0">アルカイダ</a>系過激派組織「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B8%A5%A2">チュニジア</a>のアンサール・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%E3%A5%EA%A1%BC%A5%A2">シャリーア</a>」との繋がりがあるとの報道が流れている。</p> <p><iframe class="embed-card embed-webcard" style="display: block; width: 100%; height: 155px; max-width: 500px; margin: 10px 0px;" title="チュニジア事件 イスラム過激派のテロと断定 NHKニュース" src="//hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Fwww3.nhk.or.jp%2Fnews%2Fhtml%2F20150319%2Fk10010021491000.html" frameborder="0" scrolling="no"><a href="http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150319/k10010021491000.html" data-mce-href="http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150319/k10010021491000.html">チュニジア事件 イスラム過激派のテロと断定 NHKニュース</a></iframe><cite class="hatena-citation"><a href="http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150319/k10010021491000.html">www3.nhk.or.jp</a></cite></p> <p>一方、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/BBC">BBC</a>は政府筋の話としてIS(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A5%E0">イスラム</a>国)系の過激派の関与を指摘している( <a href="http://www.bbc.com/news/world-africa-31953963">BBC News - How big is Tunisian militant threat?</a> )。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/NHK">NHK</a>が「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%AB%A5%A4%A5%C0">アルカイダ</a>系組織」としている<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B8%A5%A2">チュニジア</a>のアンサール・アル・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%E3%A5%EA%A1%BC%A5%A2">シャリーア</a>は先週、指導者の一人が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EA%A5%D3%A5%A2">リビア</a>でのIS拡大活動中に殺害された。今回の襲撃はその報復だと分析している。だとすると、アンサール・アル・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%E3%A5%EA%A1%BC%A5%A2">シャリーア</a>は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%AB%A5%A4%A5%C0">アルカイダ</a>ではなくISのシンパだということになる。この違いは重要だ。根を同じくするとはいえ、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%AB%A5%A4%A5%C0">アルカイダ</a>とISは明確な敵対関係にあるからだ。詳報を待つべきだろう。</p> <p> </p> <p>いずれにせよ、2011年の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%E9%A5%D6%A4%CE%BD%D5">アラブの春</a>に先鞭をつけ、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%B1%BC%E7%B2%BD">民主化</a>が進んだはずの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B8%A5%A2">チュニジア</a>でさえ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A5%E0">イスラム</a>過激派が浸透していることに衝撃を受けた人は多いかも知れない。だが先の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/BBC">BBC</a>ニュースによると、3000人を超える<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C1%A5%E5%A5%CB%A5%B8%A5%A2">チュニジア</a><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%B1%CA%BC">民兵</a>がIS(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A1%BC%A5%E0">イスラーム</a>国)のジハード戦士として<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%E9%A5%AF">イラク</a>、シリアに流れ込んでおり外国人兵としては最大規模だそうだ。</p> <p><a class="http-image" href="http://news.bbcimg.co.uk/media/images/80549000/gif/_80549572_syria_foreign_fighters_chart_27_01_15_624.gif" target="_blank"><img class="http-image" src="http://news.bbcimg.co.uk/media/images/80549000/gif/_80549572_syria_foreign_fighters_chart_27_01_15_624.gif" alt="http://news.bbcimg.co.uk/media/images/80549000/gif/_80549572_syria_foreign_fighters_chart_27_01_15_624.gif" /></a></p> <p> </p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%B9%A5%D0%A4%CE%BD%F7">カスバの女</a>」は植民地<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%EB%A5%B8%A5%A7%A5%EA%A5%A2">アルジェリア</a>の独立を押さえ込む<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%A1%BC%E7%B9%F1">宗主国</a>フランスの傭兵の歌だった。それから60年を経て、かつての植民地はジハーディストという名の傭兵を送り出している。対立構図はかつての<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%A1%BC%E7%B9%F1">宗主国</a>ー植民地のように明瞭ではなく、混沌としている。</p> <p>そこには「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%B9%A5%D0%A4%CE%BD%F7">カスバの女</a>」の望郷の歌はもはや無邪気でしかない。</p> <h5>カテゴリ「時事」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/19/021027">はい、菊池です</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/26/141404">税金の無駄遣いじゃの</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/19/140852">小野田寛郎という現象</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/25/220804">「左翼にあらずんば映画人にあらず」発言の背景</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/21/231828">良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?</a></li> </ul> sny22015 日活の黄金期を彩った歌声 hatenablog://entry/8454420450080252110 2015-01-14T23:07:34+09:00 2015-01-15T08:32:02+09:00 ゆく年くる年2015「貼り付け機能でプレゼントキャンペーン」 あとで買おうと思っている商品の備忘録代わりにAmazonウィッシュリストを使っているのだが、何年もウィッシュリストに残りっぱなしのものも少なくない。 その一つがこれ。2012年に日活の創立100周年を記念して作られた、映画主題歌のCD5枚組ボックスセットだ。 日活100年101映画~娯楽映画の黄金時代~ アーティスト: オムニバス,楠木繁夫,藤山一郎,ディック・ミネ,杉狂児,江川宇禮雄,島耕二,服部富子,志村喬,菅原都々子,小笠原美都子 出版社/メーカー: テイチクエンタテインメント 発売日: 2012/10/24 メディア: CD… <p><a class="keyword" href="http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/2014-2015campaign">ゆく年くる年2015</a>「貼り付け機能でプレゼントキャンペーン」</p> <p>&nbsp;</p> <p>あとで買おうと思っている商品の備忘録代わりに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Amazon">Amazon</a><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A6%A5%A3%A5%C3%A5%B7%A5%E5%A5%EA%A5%B9%A5%C8">ウィッシュリスト</a>を使っているのだが、何年も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A6%A5%A3%A5%C3%A5%B7%A5%E5%A5%EA%A5%B9%A5%C8">ウィッシュリスト</a>に残りっぱなしのものも少なくない。</p> <p>&nbsp;</p> <p>その一つがこれ。2012年に日活の創立100周年を記念して作られた、映画主題歌のCD5枚組ボックスセットだ。&nbsp;</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B008YINP16/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="日活100年101映画~娯楽映画の黄金時代~" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/41TB0tBAJOL._SL160_.jpg" alt="日活100年101映画~娯楽映画の黄金時代~"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B008YINP16/scorpion701-22/">日活100年101映画~娯楽映画の黄金時代~</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">アーティスト:</span> オムニバス,楠木繁夫,<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%A3%BB%B3%B0%EC%CF%BA">藤山一郎</a>,<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C7%A5%A3%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%DF%A5%CD">ディック・ミネ</a>,<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%F9%B6%B8%BB%F9">杉狂児</a>,江川宇禮雄,島耕二,服部富子,<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%D6%C2%BC%B6%AC">志村喬</a>,菅原都々子,小笠原美都子</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%A4%A5%C1%A5%AF%A5%A8%A5%F3%A5%BF%A5%C6%A5%A4%A5%F3%A5%E1%A5%F3%A5%C8">テイチクエンタテインメント</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2012/10/24</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> CD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 2回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B008YINP16/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (44件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <p>&nbsp;</p> <p>戦前の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C7%A5%A3%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%DF%A5%CD">ディック・ミネ</a>から倒産直前の名作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%AC%B7%EE%A4%CE%C7%A8%A4%EC%A4%BF%BA%BD">八月の濡れた砂</a>」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%A3%C5%C4%C9%D2%C8%AC">藤田敏八</a>監督・1971年)まで、約40年分の映画音楽から101作品171曲をセレクトした貴重な音源集だ。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>時代の音源は含まれていないが、まあそれはいいだろう。</p> <p>&nbsp;</p> <p>幅広い時代をカバーしていて、若かりし<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%D6%C2%BC%B6%AC">志村喬</a>の歌声も、近年再評価が高い「月曜日のユカ」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%CA%BF%B9%AF">中平康</a>監督・1964年日活)のテーマ曲(主演の元祖小悪魔・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%C3%B2%EC%A4%DE%A4%EA%A4%B3">加賀まりこ</a>の鼻唄バージョンで聞きたい人は「<a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B0014465UU/scorpion701-22">日活映画音楽集~監督シリーズ~中平康</a>」をどうぞ)も入っているが、中心的なラインナップは戦後、日活の映画製作が再開した昭和20年代末から30年代を通しての日活黄金期を支えたスターの歌声だろう。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B0%B0">小林旭</a>「ギターを持った渡り鳥」、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%D0%B8%B6%CD%B5%BC%A1%CF%BA">石原裕次郎</a>「錆びたナイフ」、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%E4%CB%DC%B6%E5">坂本九</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%C8%B1%CA%BE%AE%C9%B4%B9%E7">吉永小百合</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C9%CD%C5%C4%B8%F7%C9%D7">浜田光夫</a>による「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%E5%A4%F2%B8%FE%A4%A4%A4%C6%CA%E2%A4%B3%A4%A6">上を向いて歩こう</a>」・・・まさにザ・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BC%CF%C2%B2%CE%CD%D8">昭和歌謡</a>。全曲のラインナップは<a href="http://www.teichiku.co.jp/catalog/nikkatsu100th/catalog/">こちら</a>。</p> <p>&nbsp;</p> <p>これらの、今の耳で聞けばある意味ではのどかな主題歌が、日活の武器だった。特に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B0%B0">小林旭</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%D0%B8%B6%CD%B5%BC%A1%CF%BA">石原裕次郎</a>は大抵の作品の冒頭のスタッフロールで自慢のノドを披露している。モダンな青春映画・アクション映画が人気作品だったことも主題歌のとの相乗効果を高めたのだろう。時代劇ではこうはいくまい。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>に「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%D6%C1%F6%C8%D6%B3%B0%C3%CF">網走番外地</a>」を歌わせるようになるにはまだ時代を下らねばならなかった。対抗馬になり得たのは「下町の太陽」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%DC%BE%DE%C0%E9%B7%C3%BB%D2">倍賞千恵子</a>)の松竹ぐらいか。いずれにせよ、当時の映画ファンはアキラや<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CD%B5%BC%A1%CF%BA">裕次郎</a>の歌を耳にした瞬間から作品世界に没入することができたのである。</p> <p>&nbsp;</p> <p>主題歌の映画史という切り口があってもいい。その意味では廃盤になる前に手に入れておきたいCDである。</p> <p>&nbsp;&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> <p>&nbsp;</p> sny22015 ゴルゴ13 hatenablog://entry/8454420450078374577 2014-12-30T01:12:33+09:00 2014-12-30T13:42:35+09:00 片付けをしていたら、昔録画した「ゴルゴ13」(佐藤純彌監督・1973年東映)のDVDが出てきた。引っ越しの時に捨てたものだとばかり思っていた。 原作者のさいとう・たかをは、主人公デューク・トウゴウを高倉健をイメージしながら作ったと聞いているが、高倉健主演によるこの長寿マンガの最初の映画化作品は、彼のフィルモグラフィーとしては珍品というべきもので、テレビ放映されること自体珍しく(B級映画に強いテレビ東京さまさまである)、友人に録画DVDを貸して見せたことがある。 いずれにしてもこのタイミングでDVDが出てくるということも天国の健さんの配剤だろう。せっかくなので追悼を込めて観ることにした。 ジャン… <p>片付けをしていたら、昔録画した「ゴルゴ13」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%BD%E3%D7%BD">佐藤純彌</a>監督・1973年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)のDVDが出てきた。引っ越しの時に捨てたものだとばかり思っていた。</p> <p>原作者の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%B5%A4%A4%A4%C8%A4%A6%A1%A6%A4%BF%A4%AB%A4%F2">さいとう・たかを</a>は、主人公デューク・トウゴウを<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>をイメージしながら作ったと聞いているが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>主演によるこの長寿マンガの最初の映画化作品は、彼の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A3%A5%EB%A5%E2%A5%B0%A5%E9%A5%D5%A5%A3%A1%BC">フィルモグラフィー</a>としては珍品というべきもので、テレビ放映されること自体珍しく(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/B%B5%E9%B1%C7%B2%E8">B級映画</a>に強い<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%EC%A5%D3%C5%EC%B5%FE">テレビ東京</a>さまさまである)、友人に録画DVDを貸して見せたことがある。</p> <p> </p> <p>いずれにしてもこのタイミングでDVDが出てくるということも天国の健さんの配剤だろう。せっかくなので追悼を込めて観ることにした。</p> <p> </p> <p>ジャンルとして確立しているわけではないが、古い日本映画のなかには「観光映画」と呼ぶべきタイプの作品がある。外貨持ち出し制限などの理由で海外旅行のハードルが高かった時代に、外国政府や航空会社とのタイアップで海外ロケを敢行して観客に異国情緒を楽しんで貰うタイプの企画作品を個人的にそう呼んでいる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%D0%B8%B6%CD%B5%BC%A1%CF%BA">石原裕次郎</a>主演の「アラブの嵐」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%CA%BF%B9%AF">中平康</a>監督・1961年日活)や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B9%C8%CB%B5%D7%D7%BD">森繁久彌</a>の人気シリーズの一本「社長外遊記」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%CE%D3%BD%A1%B7%C3">松林宗恵</a>監督・1963年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>)などがそうだ。</p> <p> </p> <p>「ゴルゴ13」はハードなストーリーながらその流れを汲む作品で、イラン政府が製作に協力し、ほぼ全編をイランでロケし、ゴルゴ13は標的を追って首都<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%D8%A5%E9%A5%F3">テヘラン</a>、古都<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%D5%A5%A1%A5%CF%A5%F3">イスファハン</a>、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DA%A5%EB%A5%BB%A5%DD%A5%EA%A5%B9">ペルセポリス</a>の遺跡、そして砂漠を移動する。キャストは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>以外全員イラン人(ただしセリフはすべて日本語に吹替えというのがマンガっぽくて良い)。目下のイランの国際的な立ち位置を考えると信じられないような文化開放ぶりだが、時代は79年の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A5%E0%B8%B6%CD%FD%BC%E7%B5%C1">イスラム原理主義</a>革命の前、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%C6%CA%C6%C7%C9">親米派</a>の王朝政権のおかげだ。スタッフロールに映るアーザーディー・タワーは当時シャーヤード(シャー[王]の栄光)・タワーと呼ばれていた。</p> <p>予告編に観光映画ぶりがよく現れていると思う。</p> <p><iframe src="https://youtube.googleapis.com/v/RqhNDqwFC2M&amp;source=uds" width="420" height="315" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe><br /><br /></p> <p>ストーリーは、いつもの「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%EB%A5%B413">ゴルゴ13</a>」だと思えばいい。某国情報部は貿易商を隠れ蓑にした国際麻薬・売春シンジケートの大ボス、マックス・ボア(ガダギチアン)がイランに潜伏していることを掴んだが、潜伏先は外国、しかも犯罪人引渡条約未締結国なので大っぴらに身柄を抑えることができない。ボア暗殺のため<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%D8%A5%E9%A5%F3">テヘラン</a>に送り込んだ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%A9%BA%EE%B0%F7">工作員</a>は次々と返り討ちに遭い、情報部長<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%E9%A5%CA%A5%AC%A5%F3">フラナガン</a>はやむなく<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B4%A5%EB%A5%B413">ゴルゴ13</a>に仕事を依頼する。が、実は誰もマックス・ボアの顔を知らない。人前では常に身代わりを立てているからだ。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%D8%A5%E9%A5%F3">テヘラン</a>に潜入したゴルゴは情報屋のエフバリに調査を依頼するが、エフバリは「マックス・ボアは小鳥を可愛がる」という<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C0%A5%A4%A5%A4%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%E1%A5%C3%A5%BB%A1%BC%A5%B8">ダイイング・メッセージ</a>を残して殺される。殺害現場に居合わせたゴルゴは警察から追われる身になるが、情報部からゴルゴを追って来たキャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>(プリ・バナイ)の助けで難を逃れる。小鳥を肩に乗せたボアの身代わりを撃ち、ボアの手下、盲目の殺し屋<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EF%A5%EB%A5%BF%A1%BC">ワルター</a>(ヤドロ・シーランダミ)に敢えて捕らえられたゴルゴはボアの居所が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%D5%A5%A1%A5%CF%A5%F3">イスファハン</a>であることを掴むと、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EF%A5%EB%A5%BF%A1%BC">ワルター</a>を倒しキャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%D5%A5%A1%A5%CF%A5%F3">イスファハン</a>に向かう。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C6%A5%D8%A5%E9%A5%F3">テヘラン</a>警察のアマン警部(モセネ・ソーラビ)も、取り逃がした正体不明の東洋人が市内で頻発する女性誘拐事件に関与している疑いを深め、後を追う。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%D5%A5%A1%A5%CF%A5%F3">イスファハン</a>でボアの屋敷を突き止めたゴルゴは、ボアが日課にしている庭でのモーニング・ティーを塔の上から狙う。だがテーブルには全く同じ背格好の男が6人。本物のボアは誰だ・・・ゴルゴのM16はテーブルの鳥かごを撃つ。伏せる6人の男の間を、鳥かごから出たオウムが渡り歩く。オウムが乗った肩の男・・・その男がボアだ。だがボアをスコープに捕らえた瞬間、ボアの一味の銃弾がゴルゴに襲いかかる。助っ人に駆けつけたキャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>は逆に捕らえられてしまう。</p> <p> </p> <p>ボアはゴルゴをおびき出すため、さらった女達(その中にはキャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>も、アマン警部の妻もいる)を<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DA%A5%EB%A5%BB%A5%DD%A5%EA%A5%B9">ペルセポリス</a>に連れ出し、ゴルゴに投降しなければ一人ずつ女を殺すと呼びかける。ボアの居場所を探すゴルゴ。ボアの手下ダグラスはキャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>を撃つ。ゴルゴに出てきてはいけないと呼びかけ、キャ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B5%A5%EA%A5%F3">サリン</a>は倒れる。犯罪の全貌を掴んだアマン警部が妻を救い出すため一味に殴り込むが、健闘むなしく命を落とす。ボアを殺せというゴルゴへの伝言を残して。</p> <p> </p> <p>ボアの後を追って砂漠へと車を走らせるゴルゴ。だが視界の先に、ボアとダグラスの乗った二機のヘリが待ち構える・・・</p> <p> </p> <p>この時期<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>は任侠路線の終了とともに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%E4%A4%AF%A4%B6%B1%C7%B2%E8">やくざ映画</a>から卒業し、任侠スターからの脱皮を図っていた時期である。時折しも<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>のドル箱は「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CE%B5%C1%A4%CA%A4%AD%C0%EF%A4%A4">仁義なき戦い</a>」の大ヒットで火がついた実録路線であった(「ゴルゴ13」の前に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%BD%E3%D7%BD">佐藤純彌</a>が撮ったのが「<a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/09/230712">実録・私設銀座警察</a>」である)が、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>が登板することはなかった。</p> <p> </p> <p>「幸せの黄色いハンカチ」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C5%C4%CD%CE%BC%A1">山田洋次</a>監督・1977年松竹)をきっかけに、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>は人情味あふれる人柄を木訥に表現するシャイな男、というイメージを作り上げて成功してゆくが、もともと<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7%C5%EC%B5%FE%BB%A3%B1%C6%BD%EA">東映東京撮影所</a>のギャング映画で地歩を築いた人であって、欲望やアクションをぶっきらぼうに表現するところに原点があると思う。その魅力を引き出していたのが60年代では「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CF%B5%A4%C8%C6%DA%A4%C8%BF%CD%B4%D6">狼と豚と人間</a>」「ジャコ萬と鉄」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%BC%BA%EE%B6%D5%C6%F3">深作欣二</a>、70年代では「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%B4%B4%C0%FE%C2%E7%C7%FA%C7%CB">新幹線大爆破</a>」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%BD%E3%D7%BD">佐藤純彌</a>ではなかろうか。そういう意味で、「ゴルゴ13」も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>の代表的な一本に数えたい。</p> <p> </p> <h5>キーワード「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>」の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/11/21/023512">遊び</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/24/233657">CM入れすぎ「午後ロード」は本編をどれくらいカットするか</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/12/213831">土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その2)</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001AO15YK/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="ゴルゴ13 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51E1hxnsRtL._SL160_.jpg" alt="ゴルゴ13 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001AO15YK/scorpion701-22/">ゴルゴ13 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> TOEI COMPANY,LTD.(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/TOE">TOE</a>)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2008/10/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 1人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 9回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B001AO15YK/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (11件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p> </p> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 現代娼婦考 制服の下のうずき hatenablog://entry/8454420450078134082 2014-12-29T02:48:52+09:00 2014-12-29T02:48:52+09:00 四方田犬彦の古い本に、若かった自分を「こんな見方もあるのか」と感心させた次のような一節がある。 自動車のフロントグラスはそれ自体が映画のスクリーンに類似している。そこではあらゆる風景が長四角の枠組に切り取られ、隔たりを設けたうえで、おそろしい速度で過ぎ去ってゆくのだ (曾根中生の「続 ・レズビアンの世界―愛撫―」では、いきなり洗車場に突込んだ自動車の内部にカメラの視座がおかれる。窓の外に押しよせるモップと水とおびただしいシャボンの泡がスクリーンの全面に一瞬拡がり、その間に惨劇が生じる)。 四方田犬彦「映画はもうすぐ百歳になる」(1986年筑摩書房・絶版) 映画がかくも自動車という題材にこだわ… <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CD%CA%FD%C5%C4%B8%A4%C9%A7">四方田犬彦</a>の古い本に、若かった自分を「こんな見方もあるのか」と感心させた次のような一節がある。</p> <blockquote> <p>自動車のフロントグラスはそれ自体が映画のスクリーンに類似している。そこではあらゆる風景が長四角の枠組に切り取られ、隔たりを設けたうえで、おそろしい速度で過ぎ去ってゆくのだ (<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BD%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曾根中生</a>の「続 ・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EC%A5%BA%A5%D3%A5%A2%A5%F3">レズビアン</a>の世界―愛撫―」では、いきなり洗車場に突込んだ自動車の内部にカメラの視座がおかれる。窓の外に押しよせるモップと水とおびただしいシャボンの泡がスクリーンの全面に一瞬拡がり、その間に惨劇が生じる)。</p> </blockquote> <p align="right"><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CD%CA%FD%C5%C4%B8%A4%C9%A7">四方田犬彦</a>「映画はもうすぐ百歳になる」(1986年筑摩書房・絶版)</p> <p> </p> <p>映画がかくも自動車という題材にこだわり、カーアクションや<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A1%BC%A5%C9%A5%E0%A1%BC%A5%D3%A1%BC">ロードムービー</a>といった独自のジャンルまで生み出しているのは、自動車がすぐれて現代的な道具であるという以上に、自動車に乗るという行為が映画を観る行為の比喩であるという隠れた動機があると四方田は述べる。</p> <p> </p> <p>その当否はともかく、ここで引用されている<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a>の作品は「続・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EC%A5%BA%A5%D3%A5%A2%A5%F3">レズビアン</a>の世界ー愛撫ー」ではなく、おそらく「現代娼婦考 制服の下のうずき」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a>監督・1974年日活)のことだろう。どちらも最近、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%CD%A5%DE%A5%F4%A5%A7%A1%BC%A5%E9%BD%C2%C3%AB">シネマヴェーラ渋谷</a>の曽根監督の追悼企画で上映する機会に恵まれた作品だ。(画像は「現代娼婦考 制服の下のうずき」のポスターをモチーフにした<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%CD%A5%DE%A5%F4%A5%A7%A1%BC%A5%E9%BD%C2%C3%AB">シネマヴェーラ渋谷</a>のチラシ)</p> <p align="center"><img class="hatena-fotolife" title="f:id:sny22015:20141228152051j:plain" src="http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sny22015/20141228/20141228152051.jpg" alt="f:id:sny22015:20141228152051j:plain" /></p> <p> </p> <p>たしかに「現代娼婦考 制服の下のうずき」のクライマックスは、洗車機のモップと泡と水に覆われた青い日産<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/GT-R">GT-R</a>という密室で、宿縁の従姉妹同士が殺人に及ぶ場面である。洗車機の轟音であらゆる声がかき消されているのが恐怖を呼ぶ。上の例えを用いれば、我々は車の中という映画館で起きる惨劇を映画として観る、という自己言及的な体験をすることになる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EA%A5%E5%A5%DF%A5%A8%A1%BC%A5%EB%B7%BB%C4%EF">リュミエール兄弟</a>が世界最初の映画「列車の到着」をパリで上映したとき、観客は迫り来る列車に恐怖して逃げ出したという。映画は恐怖の二つ名なのだ。</p> <p> </p> <p>だが「現代娼婦考 制服の下のうずき」という一本の隠れた傑作に焦点を絞ると、このクライマックスだけをピックアップしてもその魅力はわからないと言うべきだろう。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>としては平均的な尺だが70分という極めて厳しい時間制約の中で、惨劇へと至る二人の女の十数年に及ぶ確執を解きほぐしてゆく手際のよさを抜きにして、この作品は成立し得ないと思われるからだ。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>夏川真理(潤ますみ)は6歳の時、孤児院から斉木家に引き取られた。斉木家には死んだ母の姉久子、祖父の惣一郎とその妾ユキ、同い年で何不自由なく育てられた従姉妹の洋子(安田のぞみ)とその兄憲洋がいた。</p> <p>二人は幼いときから命じる者と命じられる者の絶対的関係が宿命づけられた。真理の母はやくざな男を作って家を飛び出し、男に捨てられて病で死んだ。田舎の旧家にとって真理は娼婦の子として蔑まれるしかない。「何かやったら、孤児院に送り返すから」。そう言えば真理は従わざるを得ないからだ。</p> <p> </p> <p>二人は大学生になり、東京のアパートで同居している。洋子には婚約者がいるが、結婚するまで体の関係を許さないと言いながら、男友達と後腐れのないセックスを楽しんでいる。洋子の仲間に無理にドライブに付き合わされ、山道で置き去りにされる真理。</p> <p>「一晩中待ってたなんて信じられない。私達だって3時間も待ったんだからね。言いなさいよ、ほんとは私達と一緒にいるのが嫌だったんでしょ。高校の時家出したんだから戻ってこなければ良かったのよ。それを当然の権利みたいに、大学まで行かしてもらってるのは誰のおかげよ」</p> <p> </p> <p>真理とて思わぬことがないわけではない。真理は、外面は良いが内情は爛れた斉木の家の罪を一人で被ってきた。真理の幼い記憶が蘇る。惣一郎の妾の座にいながら憲洋にも股を開くユキ。憲洋が隠し持っていた拳銃で遊んでいるうちに誤射してしまった洋子に、憲洋殺しの罪をかぶせらた真理。</p> <p> </p> <p>洋子の母が危篤になり田舎に帰らなければならなくなったが、真理には帰るなと命じて洋子は一人で帰ってしまう。真理はその間、退屈しのぎに洋子の男と寝る。金を貰って見知らぬ男と寝る。</p> <p>間もなく洋子の母は死に、洋子は東京に戻ってくるなり荷物をまとめて一人暮らしをはじめると言い出す。真理は驚いて洋子に尋ねる。</p> <p>「あたしに相談もなしに?」<br />「私は残りの学生生活を自由に過ごしたいの。真理の命令は受けないわ」<br />「あたしには命令するのに?」<br />「私がいつ命令したのよ」<br />「いつだってよ。憲洋さんの事故の時だってあたしのせいにされたわ。あなたにそう言えと言われて」<br />「何言ってるのよ。十何年も昔のこと」<br />「あたしには昔のことじゃないわ」</p> <p>洋子は無意味だと話を打ち切り、引っ越しの荷造りを済ませるとお別れのドライブに真理を誘う。運転席の洋子が言う。</p> <p>「真理、タバコ」</p> <p> </p> <p>「母さん、真理のこと心配してたわ。でも私はあなたに何も言わない。あなたは自由よ。あなたのしたいようにすればいいんだわ」<br />「ええ、そうするわ」</p> <p>二人を乗せた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/GT-R">GT-R</a>が洗車場に入ってゆく。</p> <p> </p> <p>殺した洋子になり替わった真理は、斉木家の遺産を手に入れながらなお東京で見知らぬ男を漁り続ける。娼婦でい続けることが洋子と斉木家への復讐であるかのように。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>真理と洋子の決定的な亀裂は「あたしがいつ命令したのよ」と言ったその口で「真理、タバコ」と命じる洋子の無神経さと、それに無言で応える真理の屈辱によって頂点に達する。この場面がなければ洗車機の惨劇は迫力を失う。逆に言うと、その短いシークエンスだけで充分に二人の埋めがたい溝が伝わるのである。</p> <p> </p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a>監督の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/07/232337">新橋ロマン劇場が最後の番組に選んだ作品と、その歴史</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/16/012502">蟹江敬三</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/11/235914">(秘)極楽紅弁天</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4892571083/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51-xD0M3bAL._SL160_.jpg" alt="曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4892571083/scorpion701-22/">曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> 文遊社</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/08/26</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 単行本</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4892571083/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (2件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 あゝ決戦航空隊 hatenablog://entry/8454420450076968277 2014-12-15T01:45:09+09:00 2014-12-15T01:45:09+09:00 12月14日の衆議院選挙の投票日を前に、維新の党の橋下徹共同代表が早くも白旗をあげたとも取れる演説をしたらしい。ブロガーのやまもといちろうは「大将は間違っても部下の背中を撃つような話をするべきじゃないと思う」とぼやいている。 橋下徹さんの「維新敗北宣言」&自民党への迎合的発言に驚く - やまもといちろうBLOG(ブログ) 維新の党に期待することは何もないので、やまもと氏がどう思うかについては特に興味はない。ただ面白い、というと語弊があるがアンテナにかかったのは次の一節だ(下線は引用者による)。 確かに今回の選挙では維新自体は現有議席に遠く及ばない結果になりそうであることは分かっているんですが、… <p>12月14日の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%B0%B5%C4%B1%A1%C1%AA%B5%F3">衆議院選挙</a>の投票日を前に、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%DD%BF%B7">維新</a>の党の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%B6%B2%BC%C5%B0">橋下徹</a>共同代表が早くも白旗をあげたとも取れる演説をしたらしい。ブロガーのやまもといちろうは「大将は間違っても部下の背中を撃つような話をするべきじゃないと思う」とぼやいている。</p> <p align="center"><iframe class="embed-card embed-webcard" style="width: 100%; height: 155px; max-width: 500px; margin: 10px 0px;" title="橋下徹さんの「維新敗北宣言」&自民党への迎合的発言に驚く - やまもといちろうBLOG(ブログ)" src="http://hatenablog.com/embed?url=http%3A%2F%2Fkirik.tea-nifty.com%2Fdiary%2F2014%2F12%2Fpost-7012.html" frameborder="0" scrolling="no"><a 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<p>やまもと氏の言う「最後まで戦い抜いて、全力でやって負けて、そこでようやく次の展望が拓ける」ことを、この国がかつて経験したことのない極限状況下で必死に訴え続けた人物がいたことを思い出した。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%C6%FC%CB%DC%C4%EB%B9%F1%B3%A4%B7%B3">大日本帝国海軍</a>中将、大西滝治郎。</p> <p>海軍航空隊のトップであり、特別攻撃(特攻)の立案者である。フィリピンと台湾で数多の特攻パイロットを見送った後海軍軍令部に仕官、終戦後まもなく、腹を十字にかっさばいて果てた。</p> <p> </p> <p>その大西中将の、特攻の開始から<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%AB%BB%E0">自死</a>に至るまでの苦悩を描いた作品が「あゝ決戦航空隊」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%B2%BC%B9%CC%BA%EE">山下耕作</a>監督・1974年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)である。断っておくと、これから述べる大西滝次郞は「あゝ決戦航空隊」を通して描かれる大西像であり、いわゆる「史実」と異なる可能性は否定しない。</p> <p> </p> <p align="center">* </p> <p> </p> <p>物語は1944(昭和19)年、フィリピンの第一航空艦<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E2%BB%CA%CE%E1">隊司令</a>への赴任を前に、大西(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%E1%C5%C4%B9%C0%C6%F3">鶴田浩二</a>)はかねてより構想していた航空機による体当たり攻撃の可否判断を自分に一任させて欲しい、と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%A4%B7%B3%C2%E7%BF%C3">海軍大臣</a><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CA%C6%C6%E2%B8%F7%C0%AF">米内光政</a>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%D3%C9%F4%CE%C9">池部良</a>)に申し出るところから始まる。</p> <p>ミッドウェイの大敗以降敗走を続ける日本海軍に、残された戦場と戦術の選択肢は少なくなっていた。レイテ島に上陸した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%C3%A5%AB%A1%BC%A5%B5%A1%BC">マッカーサー</a>の部隊を沖合からの艦砲射撃で粉砕する「<ruby>捷<rp>(</rp><rt>しょう</rt><rp>)</rp></ruby>一号作戦」支援のため、米<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%F5%CA%EC">空母</a>の甲板を250キロ爆弾を積んだ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%B6%B7%E2%B5%A1">攻撃機</a>の体当たりで破壊し、敵の航空攻撃再開までの時間を稼ぐ。熟練パイロットの殆どを損耗し、練度の低い若年パイロットしか残されていなかった当時の航空兵力にできるのはそこまでであった。大西の立てた戦術は、そのような合理的計算に基づくものであったし、若い戦士に死に甲斐ある場所を与えることでもあった。大西自身はこの作戦はフィリピンでの一戦限りと心に決め、諸君の戦果は追って自らが報告にゆくとパイロット達に訓示する。</p> <p> </p> <p>やがて大西が自ら手を取って見送った体当たり攻撃部隊「<ruby>神風<rp>(</rp><rt>しんぷう</rt><rp>)</rp></ruby>隊」の戦果がマニラの大西の許に届く。電文をじっと見つめた大西は部下に命じる。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%CB%DC%B1%C4">大本営</a>に報告。昭和19年10月25日神風<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%C3%CA%CC%B9%B6%B7%E2%C2%E2">特別攻撃隊</a>敷島隊は午前10時45分スルアン島北東30海里の地点にて、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%F5%CA%EC">空母</a>4を旗艦とする敵機動部隊に対し奇襲に成功。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%F5%CA%EC">空母</a>1、二機命中、撃沈確実。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%F5%CA%EC">空母</a>1、一機命中、大火災。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%E4%CD%CE%B4%CF">巡洋艦</a>1、一機命中、撃沈。以上。いいな、一機命中、二機命中だぞ。わかるか。一機、二機だぞ」</p> <p> </p> <p>神風隊の命を賭けた攻撃は報われた。しかし連合艦隊は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EC%A5%A4%A5%C6%B2%AD%B3%A4%C0%EF">レイテ沖海戦</a>で敗れ捷一号作戦は失敗、立案者の大西自身「統率の外道」と呼んだ特攻が戦果を挙げたという事実だけが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%CB%DC%B1%C4">大本営</a>の中で一人歩きをはじめる。やがて特攻はフィリピン防衛の非常措置から軍の正式な「作戦」として採用されるに至る。1945(昭和20)年1月、大西に台湾への転進を命じる連合艦<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E2%BB%CA%CE%E1">隊司令</a>が届く。大西は呟く。「まだ死ねんのか…」</p> <p> </p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「特攻隊をその手で送り出しながら、今フィリピンを去ろうとしている大西長官、あなたは卑怯者だ」</p> <p>将校の非難を浴びながら台湾へと飛んだ大西は、「死ぬことが目的ではないが、各自最も効果的に敵を殺せ。最も効果的な死を選べ」と鼓舞し、特攻隊を送り出す。しかし米軍の対抗策により特攻の成<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%F9%CE%A8">功率</a>は落ちて行き、速成パイロットが徒らに命を散らすばかりになる。その責任、非難は大西に集まり、大西は職を解かれ、海軍軍令部次長として内地に帰還する。大西が握手し、飛びだたせた特攻隊員、その数614人。</p> <p> </p> <p>もはや敵の本土上陸がいつになるかが軍令部内で議論される敗色濃厚な戦局下、大西は人命損耗率の高い戦闘は忌避する米軍の戦い方を逆手に取り、特攻による執拗な反撃で敵の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CE%B5%A4">士気</a>をくじく戦術を提唱する。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「本職は、いかなる事態に立ち入ろうとも、今一度勝負を賭ける覚悟である。この一戦は絶対負けてはならん。それが先に逝った者達に対するただ一つのはなむけである。我々には徹底抗戦あるのみであることを肝に銘じて忘れるな」</p> <p> </p> <p>6月、100万を超える<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%BD%CF%A2">ソ連</a>兵が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%FE%BD%A3%B9%F1">満州国</a>境に集結しつつあるとの情報が入り、動揺した陸軍が和平の方向を模索し始める。その根回しをしているのは、米内<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%A4%B7%B3%C2%E7%BF%C3">海軍大臣</a>の一派であると、大西は児玉機関の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F9%B6%CC%CD%C0%BB%CE%C9%D7">児玉誉士夫</a>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B0%B0">小林旭</a>)から聞かされる。大西は宮中の最高戦争指導会議の場に無断で乗り込み、米内に戦争継続を必死で訴える。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「日本は勝ちます。必ずや勝ってみせます。あと二千万、二千万人の特攻が出れば必ず勝てるのです。みんなが一人一人、知恵を絞れば必ずや良策が生まれます。私も考えます。今少し、時間を下さい」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「言いたいことがあったら、大臣であるこの私に言えばいい。それが宮中に入る恰好か」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「失礼いたしました。しかし大臣、無量何万という<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%D1%CE%EE">英霊</a>に報いるために、せめて勝利の中での和睦を」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%D1%CE%EE">英霊</a>に報いるために、特攻を出す。その霊に報いるために、また特攻を使う。果てしのない滅亡の途ではないか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「それでもやらなければならんのです。何人死ぬかということではありません。私が申し上げているのは精神です。ここまで血を流してきた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%FC%CB%DC%CC%B1%C2%B2">日本民族</a>の精神は、最後まで守り通さなければならんのです」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;"> </p> <p>8月、日本は軍強硬派を鎮めるため<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DD%A5%C4%A5%C0%A5%E0%C0%EB%B8%C0">ポツダム宣言</a>を黙殺、米軍はその機を逃さず広島と長崎に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%B6%BB%D2%C7%FA%C3%C6">原子爆弾</a>を落とす。大西は軍令部の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%BE%BE%B5%DC">高松宮</a>を通して<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>に戦争継続の上奏をはかるが、必勝の策がないことを理由に拒否される。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「次長、もはや万事休すです。今次長がおやりになるべきことは一刻も早く海軍の内部を収拾することではありませんか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「そうですか。あなたもそう思いますか。だけど、どうやったら収拾できるんですか。国民も、死んだ者も、みんなが納得できる負け方というのは。<br />この戦争はね、国民が好きで始めたんじゃないんです。国家の戦争なんですよ。国と国との戦いということは、国家の元首の戦いということなんですよ。日本は、そこまで死力を尽くして戦ってきたんですか。<br />負けるということはですよ、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4%CA%C5%B2%BC">天皇陛下</a>御自ら戦場にお立ちになって、首相も、閣僚も、我々幕僚も、全員米軍に体当たりして斃れてこそ、はじめて負けたと言えるんじゃないんですか。和平か否かは、残った国民が決めることです。<br />私はそうなることを信じて特攻隊を飛ばしたんです。特攻の若い諸君も、それを信じたからこそ、喜んで散ってくれたんです。何人の者が、特攻で死んだと思いますか。2600人ですよ。2600人もいるんですよ。こいつらに、こいつらに、誰が負けたと報告に行けますか」</p> <p><span style="line-height: 1.5;"> </span></p> <p>8月14日、皇居地下で行われた最後の御前会議で、政府は連合軍に無条件降伏、そのため<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>が自ら国民に呼びかけることを決定する。御前会議の後、米内の部屋に大西が招かれる。</p> <p>「陛下より、いただいたお菓子だよ。一つずつ食べよう」</p> <p>米内はそう言って、菊の形の白い菓子を大西に渡す。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;"> 「他の誰よりも、この米内が一番よくわかっている。軍人としてなら、君の主張は一理も、二理もある。だがね、いつかは誰かが『この戦争はやめよう』と言いださなければならなかったんだ。もし米軍のほかに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%BD%CF%A2">ソ連</a>軍が本土に上陸したら、日本はドイツのように分割占領されることになるだろう。そうなったら君の言う民族の魂も二つに分裂して、争うようになるかも知れん。<br />確かに、降伏するということは、明治以来の我が国体の本義に背くことになる。陛下の御聖断は誤った道かも知れん。しかし今、陛下お一人の過ちを問うことよりも、六千万の国民を救うことが先決であることは、君も同感だろう。<br />本日、御聖断をその天の声として受け容れてくれんか。しかし、どうしても君が抗戦を主張するなら、私は君を斬るしかない」</p> <p>大西の声は震える。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「わかりました。抗戦は断念します」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「さあ、いただこう」</p> <p>黙して菓子をほおばる米内と大西。しかし大西の全身は震え、ほおばった菓子でとめどなくあふれる嗚咽の声を押し殺している。</p> <p>戦争は終わった。</p> <p>8月16日、大西はフィリピンで散った特攻隊員に約束したとおり、戦争の帰結を報告し、また尚抗戦を主張する厚木航空隊を諫めるため、死者の魂の元へと向かう。 </p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>大西中将の「二千万人特攻論」は精神論が横行していた軍部の中でさえ、狂気の沙汰ともいえるものであったが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DE%B8%B6%CF%C2%C9%D7">笠原和夫</a>がこの作品のシナリオを書くにあたり<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F9%B6%CC%CD%C0%BB%CE%C9%D7">児玉誉士夫</a>に取材したところ、「大西さんの(二千万人特攻論の)直意は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4%CA%C5%B2%BC">天皇陛下</a>自ら最前線に立って玉砕していただきたいということだったと思う・・・この戦争に責任を持つ全ての成人男子のすべてが死ななければ、民族の蘇生などはできない、というのが大西さんの結論だった。二千万人特攻論はそのための名目だった」と述べている。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DE%B8%B6%CF%C2%C9%D7">笠原和夫</a>はこの思想をほぼそのままシナリオに反映している。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>を護るべき軍人が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>の死を望むとは何たることか。だがそれが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>の名の下に数多の特攻兵の命を散らした大西の考え得る無上の鎮魂であったのだろう。大西は軍人としてあまりに純粋すぎた。米内と違って政治家ではないのだ。それゆえ、8月14日の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DD%A5%C4%A5%C0%A5%E0%C0%EB%B8%C0">ポツダム宣言</a>の受諾という事態は如何なる事情があれ受け容れられなかった。それは日本が勝てなかったからではない。<ruby>ま<rt>●</rt>だ<rt>●</rt>負<rt>●</rt>け<rt>●</rt>足<rt>●</rt>り<rt>●</rt>な<rt>●</rt>い<rt>●</rt></ruby>のが受け容れられなかったのだ。その心情を、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%B7%B9%C4">天皇</a>に下賜された菓子を頬張るという仕草で全身から表現する<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%E1%C5%C4%B9%C0%C6%F3">鶴田浩二</a>の鬼気迫る演技が胸を打つ。</p> <p> </p> <p>全力でやって負けて、初めて次の展望が開けると言うやまもといちろう氏もここまで極端なケースは考えていないだろうが、負けるということへの覚悟は、軽々に口にすべきではないという点で同感である。</p> <h5>カテゴリー「戦争」の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/29/233940">戦争の霧</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/15/205702">独立機関銃隊未だ射撃中</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00N9N2G02/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/5163AlNWdKL._SL160_.jpg" alt="破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00N9N2G02/scorpion701-22/">破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DE%B8%B6%CF%C2%C9%D7">笠原和夫</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%B8%C5%DF%BC%CB">幻冬舎</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/09/12</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Kindle">Kindle</a>版</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00N9N2G02/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JIGG80I/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="あゝ決戦航空隊 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51O4UK5OwWL._SL160_.jpg" alt="あゝ決戦航空隊 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JIGG80I/scorpion701-22/">あゝ決戦航空隊 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> TOEI COMPANY,LTD.(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/TOE">TOE</a>)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/07/11</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00JIGG80I/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (1件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 Google Earthよりリアル地球儀 hatenablog://entry/8454420450076797076 2014-12-12T03:06:11+09:00 2014-12-13T08:29:10+09:00 今週のお題「今年買ってよかったもの」〈2014年をふりかえる 2〉 世界で日々起こっている出来事について、各自で気になるテーマを持ち寄って少人数でざっくばらんに話し合う勉強会を職場で主催することになった。 勉強会の目的の一つが地理感覚を養うことだったので、最初は部屋に設置したPCでGoogle Earthを皆で見ていたのだが、そのうちやっぱりリアル地球儀があったほうがいいという話になり、2675円でこの地球儀を買ってみた。 地球儀 21-GK 出版社/メーカー: コモライフ メディア: オフィス用品 この商品を含むブログを見る 地球儀をクルクル回してモザンビークはどこにあるとか、北極から見ると… <p><a class="keyword" href="http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/odai">今週のお題</a>「今年買ってよかったもの」〈2014年をふりかえる 2〉</p> <p>&nbsp;</p> <p>世界で日々起こっている出来事について、各自で気になるテーマを持ち寄って少人数でざっくばらんに話し合う勉強会を職場で主催することになった。&nbsp;勉強会の目的の一つが地理感覚を養うことだったので、最初は部屋に設置したPCで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Google%20Earth">Google Earth</a>を皆で見ていたのだが、そのうちやっぱりリアル地球儀があったほうがいいという話になり、2675円でこの地球儀を買ってみた。</p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0014BBSUA/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="地球儀 21-GK" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/41hSDFQmvuL._SL160_.jpg" alt="地球儀 21-GK"></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0014BBSUA/scorpion701-22/">地球儀 21-GK</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> コモライフ</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> オフィス用品</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B0014BBSUA/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot">&nbsp;</div> </div> </div> <p>&nbsp;</p> <p>地球儀をクルクル回して<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E2%A5%B6%A5%F3%A5%D3%A1%BC%A5%AF">モザンビーク</a>はどこにあるとか、北極から見るとカナダとロシアがいかに近いかとか、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A4%A5%B9%A5%E9%A5%E0">イスラム</a>国」の勢力圏はどこかといったことを話し合ったのだが、そういう気づきを掘り起こすには普通の地球儀で十分だ思った。</p> <p>&nbsp;</p> <p>この地球儀は小中学生の学習用を想定しているが、オフィスでの利用にも充分使えると思う。驚いたのは印刷の美しさだ。自分が小学生だった数十年前の地球儀の印刷はもっと雑だったように思う。この地球儀は小さな文字でもかなり鮮明に見える。よく見ると海底の深度や海流もわかるようになっているのに気がつく。</p> <p>&nbsp;</p> <p>ただそれでも、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D0%A5%EB%A5%AB%A5%F3%C8%BE%C5%E7">バルカン半島</a>のモザイク状に入り組んだ国々は21センチサイズの地球儀では表示しきれず、拡大図を別紙添付という形になっている。26センチサイズにすればよかったというのが後悔。</p> <p>&nbsp;</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Google%20Earth">Google Earth</a>には<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Google%20Earth">Google Earth</a>の良さがある。地名検索すれば一発でジャンプできるし、レイヤーを重ねてオリジナル地球儀を作ることも、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B9%A5%C8%A5%EA%A1%BC%A5%C8%A5%D3%A5%E5%A1%BC">ストリートビュー</a>まで一挙にズームインすることもできる。</p> <p>&nbsp;</p> <p>だが世界のどこで何が起きようとしているかをストーリーとして直感的に把握するのには、モノとしての地球を一つ持っておくことは決して無駄ではないだろう。</p> <p>たとえば、中米の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CB%A5%AB%A5%E9%A5%B0%A5%A2">ニカラグア</a>に、パナマに次ぐ第二の運河を建設しようという壮大な計画がある。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>は香港の企業グループが拠出し、建設と数十年に及ぶ運営もするとのことだが、数兆円に及ぶと見られる建設<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>をファイナンスする力はいかに巨大でも一企業にはないはずだ。おそらくこの計画の背後には中国政府がついている。とすれば、既にパナマがあるのに中国はなぜわざわざ運河を建設しようとするのかという疑問がわいてくる。</p> <p>中国の狙いは何だろう。今中国は周辺アジア諸国との軋轢を覚悟の上で太平洋進出を目指しているが、おそらくは太平洋を越えたその先を見据え、大西洋の向こう岸、資源の豊富なアフリカ大陸西海岸とのパイプを強化しようとしているのではないか。</p> <p>&nbsp;</p> <p>そういった推理も、中国大陸から大平洋、中米、大西洋、アフリカへと地球儀をなぞっていくと浮かんでくる。</p> <p>もちろんこのストーリーに確信があるわけではない。たぶん外れるかもしれない。大事なのは正しい予測ができるかどうかではなく、そうやってストーリーを考えるクセを地球儀で身に着けることだと思っている。</p> sny22015 遊び hatenablog://entry/12921228815729973236 2014-11-21T02:35:12+09:00 2014-11-21T22:38:03+09:00 少女には名前がない。少年には名前がない。 雑貨屋の店先の赤電話で電話帳をめくっていた少女(関根恵子)に、少年(大門正明)が背後から声をかける。 「誰にかけるんだい?俺が探してやるよ」 少女は貧しい女工からキャバレーのホステスに鞍替えして見違えるほど羽振りが良くなった、もと同僚の勤める店の名を告げる。 「ホステスならまだ出勤してないよ。夜になったら案内してやるから、それまで俺と付き合わないか。この銭、表が出たらその辺でお茶でも飲もうや。な、いいだろ?」 少年は十円玉をフリップする。こうして、「くちづけ」(1957)から14年を経て、恋の始まりは再び偶然の手に委ねられる。それが「遊び」(増村保造監… <p>少女には名前がない。<br />少年には名前がない。</p> <p> </p> <p>雑貨屋の店先の赤電話で電話帳をめくっていた少女(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B4%D8%BA%AC%B7%C3%BB%D2">関根恵子</a>)に、少年(大門正明)が背後から声をかける。</p> <p>「誰にかけるんだい?俺が探してやるよ」</p> <p>少女は貧しい<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%F7%B9%A9">女工</a>からキャバレーのホステスに鞍替えして見違えるほど羽振りが良くなった、もと同僚の勤める店の名を告げる。</p> <p>「ホステスならまだ出勤してないよ。夜になったら案内してやるから、それまで俺と付き合わないか。この銭、表が出たらその辺でお茶でも飲もうや。な、いいだろ?」</p> <p>少年は十円玉をフリップする。こうして、「<a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/23/181136">くちづけ</a>」(1957)から14年を経て、恋の始まりは再び偶然の手に委ねられる。それが「遊び」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督・1971年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>)の幕開けである。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>「あんた、いくつ?」<br />「いくつに見える?」<br />「にじゅう・・・いち」<br />「バカ言え、そんな ジジイじゃねえよ」<br />「じゃあ、十八?」<br />「いい線いってるぜ」<br />「あたしより、二つ上ね」<br />「お前、パーツ工場に勤めてるんだろ。今日は早引けしたのか?」<br />「どうしてわかるの?みっともない恰好してるから?」<br />「勘だよ。この辺の女の子はみんな工場務めてるもんな」</p> <p>少女の家庭は荒んでいた。モグリのトラック運転手だった父親(内田朝雄)が事故を起こして仕事を失い、酒浸りの父に代わって賠償金を母親(杉山とく子)の内職だけで工面していた。おまけに姉(小峯美栄子)はカリエスで寝たきり、その薬代もばかにならない。父はまもなくポックリ死んだ。少女は中学を出ると、住み込みのパーツ工場に働き口を求めた。やがて母は工場にまで金をせびりに来るようになった。お金がないというと、給料を前借りしろと、図々しいことまで言うようになった。</p> <p> </p> <p>「あんた、学生さん?」<br />「兄貴の店を手伝ってるんだよ。くだらねえ仕事さ」</p> <p>少年は下っ端のチンピラだった。「兄貴」=兄貴分のヤクザ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%AA%B9%BE%B7%C9%BB%B0">蟹江敬三</a>)の下でスケコマシの手伝いをしていた。少年は見ていた。兄貴たちが連れ込み宿で女子大生を輪姦するのを。ゆすりの道具にするため裸の写真を撮るのを。女を売り飛ばす先を相談するのを。兄貴に「お前もやれ」と言われた。だが怯えて勃たなかった。「根性のねえ野郎だ」、兄貴にそう蔑まれた。</p> <p> </p> <p>「キャバレーが開くまで時間がある。映画でも見に行かないか。俺<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%E4%A4%AF%A4%B6%B1%C7%B2%E8">やくざ映画</a>が好きなんだ」</p> <p>少年は少女を映画館に連れ出し、ポップコーンとコーラの瓶を差し出す。少年は少女の内股に手を伸ばすが、少女は目を閉じ、抵抗しようとしない。少女は思い返していた。工場の休みの日、寮の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%F7%B9%A9">女工</a>たちが着飾って遊びに行くのを。給料の大半を家族に仕送りしていた自分には羽根を伸ばすお金もなかったことを。少女は今こうして男の人と映画館に居ることが夢で、目を開けたら少年がいなくなってしまうのではないかと思っていた。少年は、自分を恥じて少女と映画館を後にする。</p> <p> </p> <p>「兄弟、お兄さんだけ?」<br />「そうさ」<br />「お父さんは?」<br />「とっくに死んじまったよ」<br />「お母さんは元気?」<br />「ああ、元気すぎて困ってるんだ」</p> <p>少年の母(根岸明美)はおでんの屋台を引いていたが、根っからの酒好きが災いしてロクな商売ができなかった。父親はとうに愛想を尽かして蒸発していた。やがて母親は、家に男を引っ張り込むようになった。入れ替わり立ち替わり違う男が入っている間、少年は部屋を追い出された。</p> <p> </p> <p>キャバレー勤めなんかやめとけ、それより今日は一日遊ぼうと少年は少女を説き伏せ、バーへ、次にゴーゴークラブへと繰り出す。少女が席を外している間に兄貴と連絡をつけた少年は、少女をいつもの連れ込み宿に連れて行って待っていろと命じられ、小遣いを渡される。</p> <p> </p> <p>「腹が減ったな。ここに入って何か食おうか」<br />「これ、旅館ね? こういうの、温泉マークとか、連れ込みって言うんでしょ」<br />「そうさ、でも食うだけだよ」<br />兄貴の命じるまま連れ込み宿に入り、出前のラーメンを待っている間に少年は思う。この少女にこれからどんなおぞましい運命が襲いかかるのかを。</p> <p>「出よう!こんなところ、まるっきりイカサマだよ」</p> <p>少女の手を取り、連れ込み宿の業つく婆を張り飛ばして、少年はタクシーに飛び乗る。行き先を尋ねる運転手に、海が見えるでかくてデラックスなホテルを、と答える。</p> <p>「大丈夫?お金あるの?」<br />「心配するな。お前の方こそいいのか?パーツ工場の寮、門限あるんだろ?」<br />「工場なんか、どうでもいいわ。あんたに、ついていくわ」</p> <p> </p> <p>生まれて初めて入る豪華ホテル。熱くて、透明な湯の風呂。豪勢な食事。</p> <p>風呂上がりの浴衣姿で二人並び、鏡に向かい合う少女と少年。</p> <p>「あたし、ずっと前から決まってたような気がするの」<br />「何が」<br />「二人がこうなることよ」<br />「バカ言え、今日会ったばかりじゃねえか」<br />「でもそうなの、あんたに会うために、今日まで生きてきたんだわ」</p> <p>少年ははじめて打ち明ける。自分がチンピラであること、兄貴を裏切って逃げ出して、明日からどうなるかも判らないこと。少女は、そんなことは初めからわかっていたと答える。</p> <p>「構わないわ。あたしだって、ヤケになって逃げ出してきたんだもん。お母ちゃんと、カリエスのお姉ちゃんから。みんな忘れたいの」<br />「ヤケで俺についてきたのかよ」<br />「はじめはね。でも今は好き。あたし、独りぼっちだったの。自分の好きな人を見つけたかったの」<br />「俺だって独りぼっちだ!女なんて嫌いだけど、お前は別だ。兄貴なんかに渡せるか!」</p> <p>ともに独りぼっちの少女と少年はその夜、互いに初めて男と女になった。</p> <p> </p> <p>翌朝、抜けるような青空の葦の原。二人には何もない。金も使い果たしてしまった。工場も、兄貴も、母親も、病気の姉もみな捨ててここに来た。これから行くあてもない。</p> <p>少女と少年は、川に浮かぶ小さな舟を見つけた。だが舟は底に穴があいているらしく、半分ほど水に浸かっている。少女は舟に乗ろうとして転んでしまい、服を濡らしてしまう。</p> <p>いっそのこと、脱いでしまおう。少女と少年は服を舟に放り投げ、裸で鞆につかまって向こう岸へと泳ぎだす。木でできた舟が沈むことはないだろうが、実は二人ともかなづちである。向こう岸に泳ぎ着けるかどうか判らない。流れが急になれば、二人とも海に流されてしまうだろう。だが構わない。「一人きり」から「二人きり」になった少女と少年に怖れるものはない。二人は前へと泳ぎだす。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>「遊び」は、主人公の少女と少年に名前がない点も含めて、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%EE%BA%E4%BE%BC%C7%A1">野坂昭如</a>の短編「心中弁天島」を映像化した作品である<a href="#f-9c02692b" name="fn-9c02692b" title="ただし原作での会話は関西弁で書かれており、いっぽう題名の地名「弁天島」と最後に二人が流されて行く先は遠州灘であることから舞台は浜松とも思われ、結局どことも知れない地方都市の話とも読めるのに対し、映画では標準語で展開し、舞台は東京の下町であろうと推測される点で両者の印象は大きく異なる。映画のラストシーンは霞ヶ浦で撮影された。">*1</a>。少女と少年の過去と現在を交互に描写してゆく構成も原作を踏襲している。</p> <p> </p> <p>「心中弁天島」という題名からこの作品は心中譚であることはわかるが、そこに至る心理的過程は原作には必ずしも丁寧に描かれていない。ただ絶望的な境遇の少女と少年が出会い、恋に落ち、そしておそらく死出の旅であろう湖水への泳ぎの状況的過程を美文で簡潔に語るのみである。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>の映画が大きく改変しているのはこの点で、「あんた」「お前」と呼びかけ合いながら、少女も少年も境遇や心裡を過剰なほど吐露し、愛情を確かめ合い、「独りぼっち」から「二人ぼっち」になった二人は大きな希望のもとに旅だってゆく。原作では雨の夜中に舟を出すのだが、映画では少女と少年は晴れ渡る青空の下を泳いでゆく。このラストシーンが絶賛に値する美しさであることは言うまでもない。</p> <p> </p> <p>そしてそのラストシーンへと焦点を合わせたがために、通常の映画ならば物語を構成する上で重要と思われる部分までが捨てられ、観客にやや居心地の悪い感覚を与えるのもまた事実だと思う。タイトルから「心中」の二文字が消えたため、結局二人は死ぬのか、生きるのかは曖昧になる。少年はやくざの追手から逃げ切れるのか。少女の母と病気の姉はどうなるのか。二人に幸福は訪れるのか。それらはすべて観客の想像に任せられる。そしてまた、それで良いのかも知れないと思う。</p> <p> </p> <p>1971年に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>は倒産し、専属契約していた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>での最後の作品は、デビュー作と同じ少女と少年の初々しい<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%F8%CA%AA%B8%EC">恋物語</a>となった。既にテレビに押されて映画界全体が斜陽であったが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>はその中でも負け組であった。観客の多くは、「遊び」の少年が熱狂していた任侠映画の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>に流れた<a href="#f-4718c0c3" name="fn-4718c0c3" title="原作では「映画て何見るのん」「東映や、ええやろ」という会話が交わされる。東映イコール任侠映画なのである。">*2</a>。少年に「あ、出てきた、あの男カッコいいだろ」と言わしめているのは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>の役者ではなく<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>か<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%E1%C5%C4%B9%C0%C6%F3">鶴田浩二</a>、あるいは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%BB%B3%C9%D9%BB%B0%CF%BA">若山富三郎</a>であろう。</p> <p>任侠映画だけが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>を潰したわけではない。だが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>(日活もだが)に引導を渡す役目を負ったのは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%C1%D2%B7%F2">高倉健</a>であった。</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督作品の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/10/21/023440">盲獣</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/28/201416">妻は告白する</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/18/001841">動脈列島</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/23/181136">くちづけ(1957)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/14/004548">青空娘</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/08/011248">女の一生(1962)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/06/28/230009">美貌に罪あり</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00NGG0AOG/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="遊び [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/519aBuchZWL._SL160_.jpg" alt="遊び [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00NGG0AOG/scorpion701-22/">遊び [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/KADOKAWA">KADOKAWA</a> / <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%D1%C0%EE%BD%F1%C5%B9">角川書店</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/11/28</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00NGG0AOG/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> <p> </p><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-9c02692b" name="f-9c02692b" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">ただし原作での会話は関西弁で書かれており、いっぽう題名の地名「弁天島」と最後に二人が流されて行く先は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%F3%BD%A3%C6%E7">遠州灘</a>であることから舞台は浜松とも思われ、結局どことも知れない地方都市の話とも読めるのに対し、映画では標準語で展開し、舞台は東京の下町であろうと推測される点で両者の印象は大きく異なる。映画のラストシーンは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%E2%A5%F6%B1%BA">霞ヶ浦</a>で撮影された。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-4718c0c3" name="f-4718c0c3" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">原作では「映画て何見るのん」「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>や、ええやろ」という会話が交わされる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>イコール任侠映画なのである。</span></p> </div> sny22015 ジーンズブルース 明日なき無頼派 hatenablog://entry/12921228815732035021 2014-11-04T17:57:10+09:00 2014-11-04T20:22:34+09:00 猟銃を構えた梶芽衣子の額のど真ん中に、小さな穴があく。 その穴から一筋の血がすーっと流れる。 彼女が目を見ひらいたまま崩れ落ち、バストショットのフレームの下に消えていくまでがスローモーションで捕らえる。 梶芽衣子が警察の狙撃隊に撃たれ絶命するこのラストシーンのだけのために、「ジーンズブルース 明日なき無頼派」(中島貞夫監督・1974年東映)は作られていると言っていい。 * 誰もいない深夜の十字路、二台のクルマが接触事故を起こす。一台に乗っていたのはチンピラの次郎(渡瀬恒彦)。ヤクザの本郷(内田良平)の命令で高利貸し殺しを手伝ったが、自分も証拠隠滅のため葬られると知って、高利貸しの金500万円を… <p>猟銃を構えた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%E1%B2%EA%B0%E1%BB%D2">梶芽衣子</a>の額のど真ん中に、小さな穴があく。</p> <p>その穴から一筋の血がすーっと流れる。</p> <p>彼女が目を見ひらいたまま崩れ落ち、バストショットのフレームの下に消えていくまでがスローモーションで捕らえる。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%E1%B2%EA%B0%E1%BB%D2">梶芽衣子</a>が警察の狙撃隊に撃たれ絶命するこのラストシーンのだけのために、「ジーンズブルース 明日なき<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%B5%CD%EA%C7%C9">無頼派</a>」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C5%E7%C4%E7%C9%D7">中島貞夫</a>監督・1974年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)は作られていると言っていい。</p> <p> </p> <p style="text-align: center;">*</p> <p> </p> <p>誰もいない深夜の十字路、二台のクルマが接触事故を起こす。一台に乗っていたのはチンピラの次郎(渡瀬恒彦)。ヤクザの本郷(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%E2%C5%C4%CE%C9%CA%BF">内田良平</a>)の命令で高利貸し殺しを手伝ったが、自分も証拠隠滅のため葬られると知って、高利貸しの金500万円を奪って逃げている真っ最中だった。</p> <p>もう一台のクルマに乗っていたのは<ruby><rb>聖子</rb><rp>(</rp><rt>ひじりこ</rt><rp>)</rp></ruby>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%E1%B2%EA%B0%E1%BB%D2">梶芽衣子</a>)。乱交バーの雇われママ、爛れた商売の毎日に嫌気がさし、預かった車のキーでどこへともなく飛ばしていた。 </p> <p>事故で漏れたガソリンが引火して二人の車を燃やしてしまったことから、二人は通りがかった車を奪って逃避行を共にすることになる。 </p> <div style="text-indent: -1em; margin-left: 1em;"> <p>「久し振りにスッとしたわ、燃えているクルマ見て。さっきどこ行くつもりだったの?」</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%B0%B8%E5%C8%BE%C5%E7">丹後半島</a>さ。行こうぜ一緒に。なんか、あんたとだったら気が合いそうな気がするんだよ」</p> </div> <p> 翌朝、ガレージで買ったポンコツ車で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CC%BE%B9%E2%C2%AE">東名高速</a>を西へ進む二人を、本郷とその手下早川(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%BC%C5%C4%C6%FC%BD%D0%C3%CB">室田日出男</a>)、石松(川谷拓三、極度の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%C9%B2%BB">吃音</a>でほとんどまともに喋れないという設定が良い)、それに本郷の女マリー(加納えり子)が追う。</p> <p> </p> <p>京都のモーテルに宿を取った次郎と聖子だったが、次郎に迫られたのを聖子が拒んだためにケンカになり、次郎は「女なら外になんぼでもおるんじゃ!」とカネをもったまま飛び出すが、ふとしたはずみみで大金の札束を歩道橋の上からばら撒いてしまう。ドライバーたちが落ちてきた万札を拾おうと路上は大騒ぎに。警察も出てくる騒ぎになり、ほとんどのカネを失った次郎は聖子の運転で再び逃げ出すが、運悪く本郷らに見つかり、振り切ろうとするうちに車をぶつけて次郎は右手の親指切断の重傷を負う。</p> <p> </p> <p>なおも追ってくる本郷たちから逃れた先は貨物列車のコンテナ。次郎と聖子はコンテナの外から施錠され、どことも知れない先へと運ばれる。絶望の中、次郎は、500万円は故郷の妹に渡すはずだったと語る。次郎の妹・百合子(堀越陽子)は病気の友達の手術代を工面するために勤め先の農協の金庫から横領し、次郎に助けを求めていた。次郎は妹のために危険を冒して本郷から金を奪ったのだ。</p> <div style="text-indent: -1em; margin-left: 1em;"> <p>「出たら別れよう。ワイとおったらあかんねや。ワイとおったら殺されてまうんや。ワイはホンマにアホや。ス<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AB%A5%BF%A5%F3">カタン</a>や。生まれてからいっぺんもツイたことなんかあらへん。こんなアホと一緒で・・・」</p> <p>「アンタと居るわ。そう決めたのよ。お金なんか何とかなるわ。追っかけてくる奴だって、その気になれば・・・」</p> </div> <p>聖子はこの、運から見放された男を護ろうと決意する。</p> <p> </p> <p>ようやくコンテナが開けられる。コンテナから飛び出した次郎と聖子はハンターから猟銃を奪い、ガソリンスタンドを襲い、賭博場を襲撃してカネを奪い、追ってくるパトカーに発砲しながら丹後を目指す。一方、次郎の行き先が故郷の丹後だと勘づいた本郷は、先回りして百合子の身柄を抑える。</p> <p> </p> <p>丹後に舞い戻った次郎は、百合子に裏山の山小屋でカネを渡す約束をする。だが翌朝、約束の場所に現れたのは百合子だけではなかった。本郷たちも一緒だった。早川は次郎を嘲笑う。お前は大甘だ、百合子はオトコに貢ぐカネ欲しさに嘘っぱちの手紙を次郎に寄越したのだと。</p> <p> </p> <p>裏切り者は生かしちゃおけねえ。本郷たちは次郎をメッタ差しにする。見張りに立っていた聖子が猟銃を手に駆けつけたとき、もう次郎は虫の息だった。聖子は石松を撃ち、本郷たちを追い払う。山小屋に逃げ込んだ聖子は、次郎の最後の頼みを叶えてやる。銃弾が次郎の心臓を打ち抜く。</p> <p> </p> <p>通報で駆けつけた警察が山小屋を包囲する。聖子は百合子を解放し、次郎が命がけで作ったカネに火を放ち、たった一人警官隊に立ち向かう。</p> <p> </p> <hr /> <p> </p> <p>「ジーンズブルース 明日なき<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%B5%CD%EA%C7%C9">無頼派</a>」は、企画経緯を調べたわけではないが「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%B6%A4%BF%A4%C1%A4%CB%CC%C0%C6%FC%A4%CF%A4%CA%A4%A4">俺たちに明日はない</a>」(<em>Bonnie and Clyde</em>, <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A1%BC%A5%B5%A1%BC%A1%A6%A5%DA%A5%F3">アーサー・ペン</a>監督・1967年アメリカ)の翻案であり、それは次郎が京都で自分用に仕立てる格子模様のスリーピースとハンチングが、30年代アメリカのギャング・ファッションを田舎者がやるとこうなる、といった風情でまるでサマになっておらず吹き出すようなシーンに垣間見ることが出来る。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B6%B2%B9%B2">大恐慌</a>期のアメリカで強盗殺人を繰り返した末に、最後は警察の手で車ごとハチの巣にされて短い生涯を散らしたボニー・パーカーとクライド・バーロウの、破天荒ながら火花のように輝く物語は「暗黒街の弾痕」(<em>You Only Live Once</em>, <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%EA%A5%C3%A5%C4%A1%A6%A5%E9%A5%F3%A5%B0">フリッツ・ラング</a>監督・1937年アメリカ)以来たびたび映画・ドラマ化されているが、クライマックスはやはりその壮絶な死に様だ。下の動画は2013年にアメリカのA&amp;E TVが製作したミニシリーズからのもので、ボニーにはイギリスの女優ホリデイ・グレインジャー、クライドを<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A8%A5%DF%A1%BC%A5%EB%A1%A6%A5%CF%A1%BC%A5%B7%A5%E5">エミール・ハーシュ</a>が演じている。</p> <p> </p> <p><iframe src="http://player.aetndigital.com/pservice/player/../embed-player/?siteId=aetv&amp;tPid=82309699978" width="655px" height="358px" frameborder="0" scrolling="no" allowfullscreen=""></iframe></p> <p>1934年5月23日、実在のボニーとクライドも<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EB%A5%A4%A5%B8%A5%A2%A5%CA">ルイジアナ</a>州の田舎道でこのようにあっけなく殺され、ハチの巣にされたフォードV8の記録映像は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/YouTube">YouTube</a>で見ることができる。</p> <p> </p> <p>オートマチック・ライフルで武装し茂みの中で待ち伏せ、最初の一発で死んだ相手に追い打ちの憎悪をぶつけるかのように何十発もの銃弾を浴びせるのは、太平洋の向こうに暮らす我々の感覚からすると、却って警察のやり方らしさを感じられない。このシーンゆえにボニーとクライドの悲劇はアメリカの人々の共感を得ているのは事実だろうが、日本を舞台に翻案するには別の死なせ方のほうが相応しい。</p> <p> </p> <p>そこで、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C5%E7%C4%E7%C9%D7">中島貞夫</a>は警官隊に包囲された<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%E1%B2%EA%B0%E1%BB%D2">梶芽衣子</a>が、たった一発の銃弾で倒れる場面をサラリと描くことで、日本版ボニーとクライドの旅路のあっけない終わりを表現しようとしたのだろう。そしてその戦術は見事に当たっていると思う。</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%E1%B2%EA%B0%E1%BB%D2">梶芽衣子</a>出演作品の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/30/010856">野良猫ロック 暴走集団'71</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/23/005212">女囚さそり けもの部屋</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/05/003807">女囚さそり 第41雑居房</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00457W7OQ/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="ジーンズ・ブルース 明日なき無頼派【DVD】" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51gn189cIVL._SL160_.jpg" alt="ジーンズ・ブルース 明日なき無頼派【DVD】" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00457W7OQ/scorpion701-22/">ジーンズ・ブルース 明日なき無頼派【DVD】</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> TOEI COMPANY,LTD.(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/TOE">TOE</a>)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2011/02/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 2回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00457W7OQ/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (3件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00G7QQ1CC/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="Bonnie &amp; Clyde [Blu-ray] [Import]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51SB%2Bjp8fmL._SL160_.jpg" alt="Bonnie &amp; Clyde [Blu-ray] [Import]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00G7QQ1CC/scorpion701-22/">Bonnie &amp; Clyde [Blu-ray] [Import]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Blu-ray">Blu-ray</a></li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00G7QQ1CC/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 戦争の霧 hatenablog://entry/8454420450071159668 2014-10-29T23:39:40+09:00 2014-10-29T23:39:40+09:00 トピック「ミニマリスト」について 全然違うことを考えていた。 「ミニマリスト」のトピックは今月前半にも公開しましたが、その後もさまざまな記事が書かれ、最近では「最低限の物で暮らす」という定義の「最低限」が人によって異なり、明確な定義はあるの? と話題になっているようです。皆さんが考える「ミニマリスト」とはどういったものでしょう? ミニマリストというと、美術のフランク・ステラとか音楽のスティーブ・ライヒのことだと思っていたが、最近は「最低限の物で暮らす人」という意味で使われるのか。断捨離とかシンプルライフの謂だろうか。 まあついでだからこの方面の話を続ける。 ミニマルミュージックの作曲家にフィリ… <p><a href="http://blog.hatena.ne.jp/-/topic/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F">トピック「ミニマリスト」</a>について</p> <p>全然違うことを考えていた。</p> <blockquote> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DF%A5%CB%A5%DE%A5%EA%A5%B9%A5%C8">ミニマリスト</a>」のトピックは今月前半にも公開しましたが、その後もさまざまな記事が書かれ、最近では「最低限の物で暮らす」という定義の「最低限」が人によって異なり、明確な定義はあるの? と話題になっているようです。皆さんが考える「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DF%A5%CB%A5%DE%A5%EA%A5%B9%A5%C8">ミニマリスト</a>」とはどういったものでしょう?</p> </blockquote> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DF%A5%CB%A5%DE%A5%EA%A5%B9%A5%C8">ミニマリスト</a>というと、美術の<a href="https://www.google.co.jp/search?q=frank+stella&amp;espv=2&amp;qscrl=1&amp;biw=1285&amp;bih=726&amp;source=lnms&amp;tbm=isch&amp;sa=X&amp;ei=2M9QVIiNOaOwmAXXs4LIBQ&amp;ved=0CAYQ_AUoAQ">フランク・ステラ</a>とか音楽の<a href="http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%92">スティーブ・ライヒ</a>のことだと思っていたが、最近は「最低限の物で暮らす人」という意味で使われるのか。断捨離とかシンプルライフの謂だろうか。</p> <p> </p> <p>まあついでだからこの方面の話を続ける。</p> <p>ミニマルミュージックの作曲家に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A3%A5%EA%A5%C3%A5%D7%A1%A6%A5%B0%A5%E9%A5%B9">フィリップ・グラス</a>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Philip%20Glass">Philip Glass</a>)という人がいる。グラスは映画音楽のスコアも多く書いているのだが、あいにく観ているものは一本しかない。「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A9%A5%C3%A5%B0%A1%A6%A5%AA%A5%D6%A1%A6%A5%A6%A5%A9%A1%BC">フォッグ・オブ・ウォー</a> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%AF%A5%CA%A5%DE%A5%E9">マクナマラ</a>元米国防長官の告白」(エロール・モリス監督・2003年アメリカ)がそれだ。</p> <p> </p> <p>この映画、現在は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/YouTube">YouTube</a>で全編視聴可能だ。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%FC%CB%DC%B8%EC%BB%FA%CB%EB">日本語字幕</a>がないのがつらいが、冒頭の数分間を見てみると良い。タイトル曲"100,000 People"のシンプルで美しい調べを背景に、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%A5%D9%A5%C8%A5%CA%A5%E0">北ベトナム</a>を警戒しながら<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%EE%A5%B7%A5%CA%B3%A4">南シナ海</a>を哨戒するアメリカ海軍軍艦の水兵の淡々とした作業風景が映し出される<a href="#f-3cbce212" name="fn-3cbce212" title="この風景はトンキン湾事件を経て本格的な交戦へと連なってゆく伏線として用いられている">*1</a>。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%D0%A1%BC%A5%C8%A1%A6%A5%DE%A5%AF%A5%CA%A5%DE%A5%E9">ロバート・マクナマラ</a>(1916−2009)は空軍を経て<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A9%A1%BC%A5%C9%A1%A6%A5%E2%A1%BC%A5%BF%A1%BC">フォード・モーター</a>の社長を務めた後<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B1%A5%CD%A5%C7%A5%A3">ケネディ</a>に国防長官として抜擢され、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B1%A5%CD%A5%C7%A5%A3">ケネディ</a>、ジョンソン両大統領期の国防長官(1961-68)として<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AD%A5%E5%A1%BC%A5%D0">キューバ</a>危機とアメリカの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D9%A5%C8%A5%CA%A5%E0%C0%EF%C1%E8">ベトナム戦争</a>への介入に深く関与した。アメリカの戦争の中心にいた人物である。</p> <p>アメリカが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A2%A5%D5%A5%AC%A5%CB%A5%B9%A5%BF%A5%F3">アフガニスタン</a>で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%BF%A5%EA%A5%D0%A5%F3">タリバン</a>と戦っていた頃、85歳の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%AF%A5%CA%A5%DE%A5%E9">マクナマラ</a>の証言と当時の資料映像とで構成し戦争の60年代を再考したドキュメンタリーが「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D5%A5%A9%A5%C3%A5%B0%A1%A6%A5%AA%A5%D6%A1%A6%A5%A6%A5%A9%A1%BC">フォッグ・オブ・ウォー</a>」である。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%AF%A5%CA%A5%DE%A5%E9">マクナマラ</a>は言う。"Cold war?  It was a hot war."</p> <p> </p> <p>戦争の映像とミニマル調の音楽は一見ミスマッチに思えるかも知れない。が、グラスの曲は不思議なほど映像に合っている。その旋律は間もなく訪れる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D9%A5%C8%A5%CA%A5%E0">ベトナム</a>の泥沼の予感させる不安をかすかにはらんでいる。</p> <p><iframe src="https://youtube.googleapis.com/v/nwXF6UdkeI4&amp;source=uds" width="420" height="315" frameborder="0" allowfullscreen=""></iframe><br /><a href="http://www.youtube.com/watch?v=nwXF6UdkeI4">The Fog of War - Eleven Lessons from the Life of ...</a></p> <p> </p> <p>この映画を見た後、サウンドトラックを<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/iTunes%20Store">iTunes Store</a>から購入した。"100,000 People"を時々思い出したように聞いている。</p> <div class="itunes-embed freezed itunes-kind-Album"><a href="https://itunes.apple.com/us/album/philip-glass-fog-war-soundtrack/id41949394?uo=4&amp;at=10l8JW&amp;ct=hatenablog" target="_blank" rel="nofollow"><img class="itunes-embed-image" title="Philip Glass: The Fog of War (Soundtrack from the Motion Picture)" src="http://cdn.image.st-hatena.com/image/scale/79f0bffd15dba9bad976a36f2b953dd2329a62d1/enlarge=0;height=200;version=1;width=200/http%3A%2F%2Fa3.mzstatic.com%2Fus%2Fr30%2FMusic%2Fy2005%2Fm01%2Fd25%2Fh09%2Fs05.kwqahiey.100x100-75.jpg" alt="Philip Glass: The Fog of War (Soundtrack from the Motion Picture)" /></a> <div class="itunes-embed-info"> <p class="itunes-embed-title"><a href="https://itunes.apple.com/us/album/philip-glass-fog-war-soundtrack/id41949394?uo=4&amp;at=10l8JW&amp;ct=hatenablog" target="_blank" rel="nofollow">Philip Glass: The Fog of War (Soundtrack from the Motion Picture)</a></p> <ul> <li class="itunes-embed-artist">John Kusiak &amp; Michael Riesman</li> <li class="itunes-embed-genre">Soundtrack</li> <li class="itunes-embed-price">USD 11.99</li> <li class="itunes-embed-badge"><a href="https://itunes.apple.com/us/album/philip-glass-fog-war-soundtrack/id41949394?uo=4&amp;at=10l8JW&amp;ct=hatenablog" target="_blank" rel="nofollow"><img src="/images/theme/itunes/itunes-badge-itunes@2x.png" alt="" width="44px" height="15px" /></a></li> </ul> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-3cbce212" name="f-3cbce212" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">この風景は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C8%A5%F3%A5%AD%A5%F3%CF%D1%BB%F6%B7%EF">トンキン湾事件</a>を経て本格的な交戦へと連なってゆく伏線として用いられている</span></p> </div> sny22015 寅さん漬け hatenablog://entry/8454420450070771546 2014-10-27T23:07:45+09:00 2014-10-27T23:33:12+09:00 とっくに放送は終わっているんだが、録画しっぱなしで半年以上見ていなかったBSジャパン「土曜は寅さん!」を数日かけて12本まとめて見た。第24作「男はつらいよ 寅次郞春の夢」(山田洋次監督・1979年松竹)から第36作「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」(同・1985年松竹)まで。 マンネリなのは判っていることなのでいいのだが、寅次郞(渥美清)は永遠不変のフーテンでも、寅次郞の周りは変わっていく。 さくら(倍賞千恵子)と博(前田吟)は、江戸川の近くに小さなマイホームを建てた。一人息子の満はキャストが吉岡秀隆になり、中学生になった。思春期はもう目の前だ。 博のマイホームのリビングには、パソコンが鎮… <p>とっくに放送は終わっているんだが、録画しっぱなしで半年以上見ていなかった<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/BS%A5%B8%A5%E3%A5%D1%A5%F3">BSジャパン</a>「土曜は寅さん!」を数日かけて12本まとめて見た。第24作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 寅次郞春の夢」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C5%C4%CD%CE%BC%A1">山田洋次</a>監督・1979年松竹)から第36作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 柴又より愛をこめて」(同・1985年松竹)まで。</p> <p> </p> <p>マンネリなのは判っていることなのでいいのだが、寅次郞(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%AF%C8%FE%C0%B6">渥美清</a>)は永遠不変のフーテンでも、寅次郞の周りは変わっていく。</p> <p> </p> <p>さくら(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%DC%BE%DE%C0%E9%B7%C3%BB%D2">倍賞千恵子</a>)と博(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%B0%C5%C4%B6%E3">前田吟</a>)は、江戸川の近くに小さなマイホームを建てた。一人息子の満はキャストが<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%C8%B2%AC%BD%A8%CE%B4">吉岡秀隆</a>になり、中学生になった。思春期はもう目の前だ。</p> <p> </p> <p>博のマイホームのリビングには、パソコンが鎮座することになった。死んだ博の父(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%D6%C2%BC%B6%AC">志村喬</a>)の自宅を処分して、余ったお金で満に買ったものだ。満はキーボードにポチポチ何か打ち込んでいたが、間もなく<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%B9%A5%D0%A5%F3%A5%C9">ブラスバンド</a>部でフルートに熱中するようになる。そのままパソコン少年になっていれば、IT起業家になっていたかも知れないが・・・</p> <p> </p> <p>タコ社長(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%C0%BA%CB%B5%D7%CD%BA">太宰久雄</a>)の朝日印刷も時代の波でオフセット印刷機を導入し、いつの間にか社長に秘書・ゆかり(マキノ佐代子)がついた。秘書と言っても給料袋を配ったり、電算のオペレータをやったりと事務職を全部やっている感じだ。ところでこのマキノ佐代子さんという女優、不勉強で名前をクレジットされていてもどの役だか判らなかった。</p> <p>名前からピンとくると思うが、彼女は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%AD%A5%CE%B2%ED%B9%B0">マキノ雅弘</a>と三番目の妻、登喜子の長女。母は鳳弓子という名の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>の新人女優であったが、結婚と共に引退した。この時雅弘44歳、弓子22歳。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%DE%A5%AD%A5%CE%B2%ED%B9%B0">マキノ雅弘</a>の自伝「映画渡世・地の巻」によると、懇意にしていた京都の占い師が言い当てた結婚だという。</p> <p> </p> <p>タコ社長の娘・あけみはそれまでスクリーンにでることはなかったが、いつの間にか大人になって美保純をキャストに迎え、めでたく嫁入りしたはいいものの、夫婦ゲンカを度々やらかしてはとらやに出戻ってきて「寅さんに会いたいな」とつぶやく。</p> <p> </p> <p>その寅次郞は相変わらず風の吹くまま気の向くままで、駅のベンチやお寺の庭で寝転がっては、お馴染みの夢を見る。夢のシーンでは松竹唯一の怪獣映画「宇宙大怪獣ギララ」 (二本松嘉瑞監督・1967年松竹)のギララを撃退したり、日本人初の宇宙飛行士に選ばれたりと大活躍。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%B4%A4%AB%A4%E9%C0%C3%A4%E1%A4%C6">夢から醒めて</a>も一度恋に落ちるとポーッとなってしまう寅次郞、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C5%CF%C5%E7">佐渡島</a>で知り合った演歌歌手・はるみ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%D4%A4%CF%A4%EB%A4%DF">都はるみ</a>)に惚れてしまい、電気屋で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A6%A5%A9%A1%BC%A5%AF%A5%DE%A5%F3">ウォークマン</a>を手に取り、はるみの歌をエンドレスでかけながらフラフラと柴又を徘徊。寅次郞の恋ごころを表現するガジェットも80年代ぽくなった。</p> <p> </p> <p>そういえば、その第31作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 旅と女と寅次郞」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C5%C4%CD%CE%BC%A1">山田洋次</a>監督・1983年松竹)で寅次郞とはるみを<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C5%CF">佐渡</a>に乗せてゆく漁船の漁師に「<a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/23/223200">発禁本「美人乱舞」より 責める! </a>」の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C3%AB%BD%E9%C3%CB">山谷初男</a>が扮していて少し嬉しくなる。脇役と言えば、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%BC%DB%EA%C0%B5%CC%A6">下條正巳</a>の前に「とらや」のおいちゃん役を演じていた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%C2%BC%C3%A3%CD%BA">松村達雄</a>は寺の住職、大学教授、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%EA%BB%FE%C0%A9">定時制</a>高校の教師と役名を変えて度々登場。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%EA%BB%FE%C0%A9">定時制</a>高校や島の小学校といった「教室」の作る人の繋がりは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C5%C4%CD%CE%BC%A1">山田洋次</a>の気に入りのテーマのようだ。「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 寅次郞かもめ歌」(同・1980年松竹)では学ぶことの楽しさを知った寅次郞も<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%EA%BB%FE%C0%A9">定時制</a>高校に入ろうと願書を出すが、教師の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BE%C2%BC%C3%A3%CD%BA">松村達雄</a>は願書を、申し訳なさそうにさくらに返す。寅次郞は中学を卒業していないから、入学資格がないのだ。</p> <p> </p> <p>何も変わっていないように見える寅次郞も、もう人生をやり直せない年にきていることには気がついている。第28作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 寅次郞<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%E6%C9%F7%C1%A5">紙風船</a>」(同・1980年松竹)では自信満々で受けたセールスマンの就職試験にさえ落ちてしまう。だから第34作「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a> 夜霧にむせぶ寅次郞」(同・1984年松竹)ではまだ若くフラついている風子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%B8%B6%CD%FD%B7%C3">中原理恵</a>)に「カタギになれ」と叱咤する。自分のように侘しい身になる前に、地に足をつけて暮らせと。</p> <p> </p> <p>もっとも、定職に就くことがそれだけで幸せとは限らないことは今や常識だが、80年代にもその萌芽は現れている。女房に逃げられたサラリーマンも、激務に疲れて家出したサラリーマンもこの時期の「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a>」には登場する。男のつらさも色々なのだ。</p> <p> </p> <h5>カテゴリー「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CB%A4%CF%A4%C4%A4%E9%A4%A4%A4%E8">男はつらいよ</a>」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/04/015312">土曜は寅さん!(8): 男はつらいよ 寅次郎純情詩集</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/12/020921">土曜は寅さん!(7): 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/12/213831">土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その2)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/12/202102">土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その1)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/11/003000">土曜は寅さん!(5): 男はつらいよ 奮闘篇</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/28/021302">土曜は寅さん!(4)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/16/004120">土曜は寅さん!(3)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/10/31/233758">フーテンの寅さんは反社会的勢力か</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/10/28/222345">土曜は寅さん!(2)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/10/23/220307">土曜は寅さん!(1)</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006O4MUVS/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="あの頃映画 「宇宙大怪獣ギララ」 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51GabEayPYL._SL160_.jpg" alt="あの頃映画 「宇宙大怪獣ギララ」 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006O4MUVS/scorpion701-22/">あの頃映画 「宇宙大怪獣ギララ」 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2012/03/28</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 3回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B006O4MUVS/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (1件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 盲獣 hatenablog://entry/12921228815729605311 2014-10-21T02:34:40+09:00 2014-10-21T02:34:40+09:00 「あなたは、何者なの!?」 「ぼくは、彫刻のまねごとをしている男です」 「彫刻!?」 「ぼくはめくらです。それも生まれ突き目の神経がダメで、何も見えないめくらなんです。めくらって、あわれなものだ。この世の中には目を楽しませるものがいっぱいある。太陽の光、雲の色、美しい景色、素晴らしい絵、芝居、映画、テレビ。ところがぼくには何も見えない。…触覚。ぼくはこの唯一の楽しみに取りすがって、手に触れるものは何でもかんでも撫でてみた。その中で、生きものの手触りが一番楽しかった。暖かくて、柔らかくて。イヌやネコを飼って抱いたこともあるし、牧場に行って羊や馬と遊んだこともある。だけど、どんな生きものも人間には… <div style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;"> <p>「あなたは、何者なの!?」</p> <p>「ぼくは、彫刻のまねごとをしている男です」</p> <p>「彫刻!?」</p> <p>「ぼくはめくらです。それも生まれ突き目の神経がダメで、何も見えないめくらなんです。めくらって、あわれなものだ。この世の中には目を楽しませるものがいっぱいある。太陽の光、雲の色、美しい景色、素晴らしい絵、芝居、映画、テレビ。ところがぼくには何も見えない。<br />…<br />触覚。ぼくはこの唯一の楽しみに取りすがって、手に触れるものは何でもかんでも撫でてみた。その中で、生きものの手触りが一番楽しかった。暖かくて、柔らかくて。イヌやネコを飼って抱いたこともあるし、牧場に行って羊や馬と遊んだこともある。だけど、どんな生きものも人間には及ばない。それも、女の体の手触りにはとてもかなわない。<br />…<br />その頃、死んだ親父の畑が高速道路に引っ掛かって、何千万円という値段で売れた。だけど、そんな大金はめくらのぼくには使い途がないんだ。色々と考えた末に、この倉庫を買って彫刻を始めたんだ。過去に触った女の体から、気に入った部分を選び出してみんな彫刻にした。いつでも撫でて触って楽しめるように。<br />これがぼくのアトリエです!どう思いますか?」</p> <p>「あなたは気違いだわ!」</p> <p>「ぼくはもうこのアトリエに飽きてきた。女の体ってこんなもんじゃない。世の中にはもっと美しい女がいる。素晴らしい肌がある。どうしても会いたい、触りたいと思い始めたとき、電車の中であなたの噂を聞いた。学生たちが、あなたの写真と彫刻を盛んにほめていたんだ。ぼくは、個展に行って自分の手で彫刻を調べてみた。あなたが頼むマッサージ屋に入って、本当の体にも触ってみた。結果は評判通りでした。今までのどの女よりも魅力のある体だった。形も肌も、ぼくの好みにぴったり合っていたんですよ!」</p> <p>「近寄らないで!」</p> <p>「安心して下さい、乱暴はしません!」</p> <p>「あたしをどうするつもり?」</p> </div> <p align="center">*</p> <p>「盲獣」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督・1969年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>)は1931年に発表された<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%BE%B8%CD%C0%EE%CD%F0%CA%E2">江戸川乱歩</a>の同名小説を原作としているが、これは原作の前半部分だけを拝借し、翻案を加えたほぼオリジナル作品と言っていい。</p> <p>乱歩の原作におけるタイトルロール「盲獣」は没落した明治の富豪にして<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%B4%CC%D5">全盲</a>の殺人鬼である。盲獣はレビューの踊り子水木蘭子を手始めに、カフェのマダム、未亡人、海女の四人を次々と自宅に監禁し、その体に飽きたら殺してバラバラに解体し、その首や手足を町中に遺棄して騒ぎが起きるのを愉しむという、狂った性癖と残虐性の持ち主として描かれる。その残虐行為はページを追ってエスカレートしてゆき、昭和初期のエログロ文化の窮みとも言うべき作品である。</p> <p> </p> <p>盲獣とは何か。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>の映画化作品は、時代設定を現代に置き換え、登場人物をファッションモデルの島アキ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%D0%CB%E2%BB%D2">緑魔子</a>)、彼女を監禁する自称彫刻家の蘇父道夫(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%A5%B1%DB%B1%D1%C6%F3">船越英二</a>)とその母(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%E9%C0%D0%B5%AC%BB%D2">千石規子</a>)のわずか三人に絞り、ヴィジュアルでは原作のグロテスクさを再現しながらも心理ドラマとしてのストーリーを追求する。</p> <p> </p> <blockquote> <div style="text-indent: 1em;"> <p>壁のその部分には 、お椀をふせたような突起物がウジャウジャと群がっているのだが 、その一つをヒョイと押えると 、こんにゃくみたいにブルンと震えて 、押えた箇所が窪んだではないか 。しかも 、それは生あたたかくて 、まるで生きた人間の肌にふれたような手ざわりなのだ 。</p> <p>蘭子は 、ギョッとして手を引っこめ 、よくあらためてみると 、そのお椀ほどのイボイボの部分は 、薄赤いゴムでできているらしく 、温度は裏側からなにか仕掛けがしてある様子だ 。</p> <p>まあ 、これ人間の乳房とそっくりの手ざわりだわ 。気味がわるい 。</p> <p>…</p> <p>もし蘭子がもっと冷静であったなら 、まだまだ不思議な事柄を発見したはずである 。というのは 、その群がり集まった乳房が 、決して同じ型で作ったものではなく 、それぞれ個性を持っていたことだ 。百人の女を並べて 、そのおのおのの特徴ある乳房を 、一つ一つ 、丹念に模造したというような 、一種不思議な 、ゾッとするような感じが身に迫ってくるのだ 。</p> <p>だが 、蘭子はそこどころではなかった 。ひとたび乳房に気がつくと 、部屋じゅうのあらゆるでこぼこが 、皆それぞれの意味を持っていることがわかってきた。</p> <p>ある部分には 、断末魔のもがきをもがく 、大きな千の手首が 、美しい花のように群がりひらいていた 。ある部分には 、さまざまの形に曲りくねった 、そして 、その一つ一つが 、えもいえぬ媚態を示した 、数知れぬ腕の群れが 、巨大な草叢のように集まっていた 。また 、ある部分には 、足首ばかりが 、膝小僧ばかりが 、このほか 、肉体のあらゆる部分々々が 、どんな名匠も企て及ばぬ巧みな構図で 、それぞれの個性と嬌態を 、発散していた 。<br />…</p> <p>ふと気がつくと 、蘭子が今踏んでいる床は 、よく見ればこれはまた 、実物の十倍ほどもある 、巨大な女の太腿であった 。いやらしいほどふっくらとした肉付 、深い陰影 、それに 、驚いたことには 、産毛の一本一本 、毛穴の一つ一つまで 、気味わるいほど大きくこしらえてあるではないか 。</p> <p>眼で追って行くと 、それだけは余り巨大なために 、たくさん並べるわけにはいかず 、一人の全身が 、やっと上半身までしかない 。小山のようにふくれ上がった 、丸まっちいお尻と 、その向こうには 、肩から脊筋へかけての 、偉大なスロ ープがつづいていた 。材料は 、印度美人の肌のように 、ツルツルと滑っこい<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%E7%C3%C9">紫檀</a>の継ぎ合わせでできている 。それだけの費用でも 、実に莫大なものだろう 。<br />…</p> <p>だが 、怖いもの見たさに 、部屋じゅうをグルグル見まわしていると 、またしても恐ろしいものを発見した 。薄暗い電灯のために (その光線とても 、主人公には全く不要なのだが )よく見通しが利かず 、向こうの行き止まりの壁は 、つい注意もしないでいたが 、男の声が 、どうやらそのほうから響いてくるらしいので 、眼をこらして眺めると 、そこには 、今までのものとはちがった 、人体の部分が押し並んでいたのだ 。</p> <p>先ず眼につくのは 、ピカピカと油ぎった 、きめの細かい鼠色の木材でできた 、おのおの長さ一間ほどもある 、巨大な人間の鼻の群れであった 。</p> <p>三 、四十箇の 、人間一人分ほどもある恐ろしい鼻が 、種々さまざまの形で 、押し並び 、重なり合って 、黒く見えるほら穴のような鼻の穴が 、小鼻をいからせて 、こちらを睨みつけていた 。</p> <p>鼻の群れの隣に 、畳一畳ほどもあるのから 、実物大のものにいたるまで 、大小さまざまの唇が 、あるものは口を閉じ 、あるものは半開にして 、石垣のような歯並みを見せ 、あるものは 、大口をあいて 、鍾乳洞のような喉の奥までも見せびらかしていた 。</p> <p>もっと恐ろしいのは 、眼の一群である 。これには<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%DD%B2%E7">象牙</a>ようの白い材料を用い 、なんの色彩もなく 、大理石像の眼のように 、あるいはそこひの眼のように 、まっ白にうつろに見ひらいたまま 、あらぬ空間を睨みつけている 。それが 、やっぱり 、大小さまざまの形で 、押し並び重なり合っているさまは 、ちょうど望遠鏡で眺めた月世界の表面のようで 、実にいやらしい感じである 。</p> </div> <p align="right">(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%BE%B8%CD%C0%EE%CD%F0%CA%E2">江戸川乱歩</a>「盲獣」)</p> </blockquote> <p> </p> <p>映画「盲獣」は、壁面を女体のパーツで埋め尽くし、中央に巨大な女のトルソーを横たえた、この狂ったアトリエを原作にほぼ忠実に再現する。アキはマッサージ師に化けた道夫に<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AF%A5%ED%A5%ED%A5%DB%A5%EB%A5%E0">クロロホルム</a>を嗅がされ、この部屋に閉じ込められる。</p> <p> </p> <p>原作と異なり芸術家肌の道夫は、めくらにしかできない触覚芸術の最高作品を作りたい、そのモデルになって欲しいとアキに懇願する。もちろん気味悪い中年男の頼みを聞くいわれはアキにはないが、アトリエに閉じ込められている以上従うしかない。</p> <p> </p> <p>アキは仮病を装いアトリエからの脱出を試みるが、間もなく道夫の母に見つかってしまい、スキあらば逃げ出そうという魂胆を道夫に見抜かれ二人の関係は険悪になってしまう。ここまでは、主導権は道夫の側にあった。</p> <p> </p> <p>だが道夫にマ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B6%A5%B3%A5%F3">ザコン</a>の気質を発見したアキは、「あなたは本当の女を知らないんだわ。だからこんな大きなゴムの女を作って、抱かれていたいのよ」と挑発し、道夫を誘惑する。嫉妬する母親を尻目に、アキは道夫と食卓を囲み、ワインのグラスを開ける。童貞の中年男を手玉に取り、ウソで固めた恋のフレーズで道夫を虜にする。</p> <p> </p> <p>道夫はアキに恋してしまったことで、母との間に亀裂が生じる。息子を取られた嫉妬から、母はこっそりアキを逃がそうとするが、道夫に感づかれてしまう。狼狽する道夫、逆上する母、挑発するアキ。三人の思惑が激しくぶつかり合い、ついに母とアキは取っ組み合いの乱闘になる。道夫の手でアキから引き離された母は、そのはずみで頭を強打し死んでしまう。</p> <p> </p> <p>母を殺してしまった悲嘆にくれる道夫の側をアキは抜き足で通り抜けようとする。が、視力を持たない代わりに気配を察知する能力に長けた道夫に見つからないはずがない。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「やっぱりそうか、好きだ、愛してるなんてみんなウソなんだ!ひどい女だ、めくらだと思ってまた騙したな!お前は母さんの代わりに、一生ここに居るんだ!オレを母さんに甘えている赤ん坊だと言ったな!彫刻が生きた女の代わりだと笑ったな!ようし、お前を抱いて、一人前の男になってやる!」</p> <p>こうして、歯車は道夫にとってもアキにとっても狂い始める。</p> <p align="center">*</p> <p> 道夫とアキが暗いアトリエで幾度も情交を重ねるうちに、それぞれの内面に変化が現れる。道夫は彫刻への情熱を失う。しょせん彫刻は生きた女体の代用に過ぎないと悟る。アキは逃げるどころか道夫の触覚を愛おしく感じるようになり、愛が深まるにつれ、アキは次第に視力が弱まってゆく。</p> <p> </p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「あたしこの頃、目が見えないの。いつも暗闇の中で、手ざわりと肌ざわりだけを愉しんでいるでしょう。目なんて使わないから、だんだん弱くなってきたんだわ」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「オレと同じめくらになったわけか。どうだ、不自由か、悲しいか」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「反対だわ。めくらがかわいそうなんて、とんでもない間違いね。めあきのほうが、ずっと哀れだわ。だって、触覚の楽しさを知らないんですもの。触覚って素晴らしいわ。甘くて、深くて、確かで。」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「オレは気ちがいじゃないだろう」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「気ちがいどころか、凄い人ね。まるで人間と思えないくらい、触覚が鋭いんですもの。うらやましいわ」</p> <p><span style="line-height: 1.5;">アキは「昆虫の敏感なヒゲのように」触覚を研ぎ澄ませ、目のないクラゲやヒトデのような下等動物への退化を夢想する。</span></p> <p> </p> <p>しかしその甘い快楽こそが罠だった。肌の快楽、それは人間の欲望で唯一、自然なブレーキがきかない欲望である。通常の触覚の快楽で飽き足らなくなった道夫とアキは、さらに激しい快楽、強い刺激を求めて互いの体を傷つけ合う。噛む。殴る。鞭打つ。刺す。傷だらけになりながらなお快楽を求めてやまない二人は、すでに生の終わりが近いことを感じ始めている。</p> <p> </p> <p>ここでもう一度乱歩を引こう。</p> <blockquote> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「さあ 、もっともっとひどく 、傷をつけて !いっそ 、そこの肉をえぐり取って ! 」</p> <p style="text-indent: 1em;">身もだえする蘭子を前にして 、彼はとうとう恐ろしい計画を立てた 。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「そんなに傷がつけてほしいのかね 。そんなに痛い目がしたいのかね 。よし 、よし 、それじゃ 、わしにいい考えがある 。お待ち 、今にね 、お前が泣き出すほど 、嬉しい目に合わせてやるからね 」</p> <p style="text-indent: 1em;">彼は刃物を蘭子の腕に当てて 、グングン力を込めて行った 。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「アッ 、アッ 」</p> <p style="text-indent: 1em;">蘭子は悲鳴とも 、快感のうめき声ともつかぬ叫びを立てて 、烈しく身もだえした 。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「もっとよ 、もっとよ 」</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「よしよし 、さあ 、こうか 」</p> <p style="text-indent: 1em;">彼女は遂に泣き出した 。痛いのか快いのか見境もつかなくなって 、わめき叫んだ 。</p> <p style="text-indent: 1em;">盲目の夫は 、刃物に最後の力を加えた 。メリメリと骨が鳴った 。そして 、アッと思う間に 、蘭子の腕は 、彼女の肩から切り離されてしまった 。</p> <p style="text-indent: 1em;">滝つ瀬と吹き出す血潮 、まるで網にかかった魚のようにピチピチとはね廻る蘭子の五体 。</p> <p style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;">「どうだね 。これで本望かね 」</p> <p style="text-indent: 1em;">盲獣は闇の中で 、薄気味わるい微笑を浮かべていた 。蘭子は答えなかった 。答えようにも 、彼女はすでに 、意識を失ってしまっていたからだ 。</p> <p align="right">(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%BE%B8%CD%C0%EE%CD%F0%CA%E2">江戸川乱歩</a>「盲獣」)</p> </blockquote> <p>乱歩の世界では、既に男は女の体に飽き飽きしていた。だから蘭子の要求にかこつけて彼女を「処分」してしまい、次の獲物に乗り換えようとしていた。</p> <p>増村の映画でも、クライマックスはほぼこの描写をなぞる。だがそこに至る覚悟のほどは大きく異なる。道夫とアキは、並んで横たわり息も絶え絶えながら必死に言葉を絞り出す。</p> <p> </p> <div style="margin-left: 1em; text-indent: -1em;"> <p>「こんなことになって、後悔しているか」</p> <p>「どうして? 普通の人間にはわからない楽しみを、思う存分味わったんですもの。いつ死んだっていいわ・・・ねえ、いいことを思いついたわ。どうせ死ぬなら、最後に、うんと楽しませてよ!泣き出すほど喜ばせてよ!」</p> <p>「どうするんだ」</p> <p>「あたしの腕を切り取ってよ。足も切って。この体をバラバラにしてほしいわ。きっと、ものすごく痛いけど、とても楽しいと思うの。その楽しさの中で、ひと思いに死にたいわ」</p> <p>「このまま苦しんでいるより、マシだというわけか」</p> </div> <p> </p> <p>そして道夫はフラフラの体で出刃をアキの右肩にあて、ハンマーを振り下ろす。アキの叫び声と共に、放置されて久しい道夫の作りかけの彫刻の右腕が落ちる。</p> <p>左の肩に包丁を当ててハンマーを下ろす。彫刻の左腕が崩れる。</p> <p>そして彫刻の右足、左足が次々と落ちてゆく。このショットが、直截的には映し得ないアキの四肢切断と、道夫・アキの触覚<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E6%A1%BC%A5%C8%A5%D4%A5%A2">ユートピア</a>の崩壊の両方をおぞましくアレゴリカルに表現する。</p> <p> </p> <p>アキが息絶えるのを見届けて、道夫もまた出刃を胸に当て、心中を遂げる。</p> <p> </p> <p>盲獣とは何か。それはこの映画においては一義的にヒロイン・アキの心であり、視覚を差し出し、四肢を失い、ヒトであることをやめてでも快楽を得させることをためらわない欲望である。それはめくらのハンデを逆手に独自の芸術を完成させようとする点で常識外れながらも人間らしさを持つ道夫をも、悦楽の底へと引きずり下ろす行動となって現れる。</p> <p> </p> <p>そうした人間の意識下の獣性を、アキの豹変を通して描いたのがこの作品だろう。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>の映画の中で最も奇怪な作品だが、ただの際物映画からは遙かな高みに達している。</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%D0%CB%E2%BB%D2">緑魔子</a>出演作品の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/09/233006">吹けば飛ぶよな男だが</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00F3YU1J8/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="盲獣 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/511KVecTqWL._SL160_.jpg" alt="盲獣 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00F3YU1J8/scorpion701-22/">盲獣 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%BE%B8%CD%C0%EE%CD%F0%CA%E2">江戸川乱歩</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C1%CF%B8%B5%BC%D2">東京創元社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2012/01/01</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/Kindle">Kindle</a>版</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B007T4KPDW/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 hatenablog://entry/8454420450068283325 2014-10-12T03:13:56+09:00 2014-10-12T22:57:25+09:00 ドミニカ行きの飛行機の機内で「自分は今エボラ出血熱に感染している」と冗談を言ったアメリカ人男性が、着陸先で当局に連行されるという事件が起きた。*1 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;a href="http://www.cnn.co.jp/usa/35055033.html" data-mce-href="http://www.cnn.co.jp/usa/35055033.html"&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp… <p>ドミニカ行きの飛行機の機内で「自分は今<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%A8%A5%DC%A5%E9%BD%D0%B7%EC%C7%AE">エボラ出血熱</a>に感染している」と冗談を言ったアメリカ人男性が、着陸先で当局に連行されるという事件が起きた。<a href="#f-c9cb869a" name="fn-c9cb869a" title="CNN.co.jp : 「エボラ熱感染した」機内で冗談発言、当局に連行される">*1</a></p> <p align="center"><iframe style="width: 100%; height: 155px; max-width: 500px; margin: 10px 0px;" title="「エボラ熱感染した」機内で冗談発言、当局に連行される" src="http://hatenablog.com/embed?url=http%3A%2F%2Fwww.cnn.co.jp%2Fusa%2F35055033.html" frameborder="0" scrolling="no">&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;a href="http://www.cnn.co.jp/usa/35055033.html" data-mce-href="http://www.cnn.co.jp/usa/35055033.html"&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;「エボラ熱感染した」機内で冗談発言、当局に連行される&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/a&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;</iframe></p> <p>エボラの感染・死亡者が出てパニック状態のアメリカではさすがにこれは冗談では済まなかったようだ。そうでなくても密室の機内でこんなことを言うのはおふざけがひどすぎるというべきだろう。</p> <p> </p> <p>ところがこういう不穏当発言が主人公のピンチを救う場面はサスペンス映画では案外よく見かける。その一つが「首」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B9%C3%AB%BB%CA%CF%BA">森谷司郎</a>監督・1968年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>)だろう。</p> <p align="center">*</p> <p>昭和19年2月、弁護士の正木(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B7%CB%BC%F9">小林桂樹</a>)は混雑する<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%EF%C8%D8%C0%FE">常磐線</a>で水戸から上野へと急いでいた。 手荷物は蓋付きバケツを包んだ風呂敷、バケツの中身は、死体から切り取った首だ。</p> <p> </p> <p>遡る1月の末、茨城の炭鉱で先山(鉱夫頭)の奥村が警察署で留置中に死んだ。奥村は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%D6%BB%A5">花札</a>賭博の嫌疑で取調べられていた。死亡診断書には「脳溢血(推定)」と書かれていた。炭鉱の申し出で死因に不審な点があると見た正木は検事局を<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CA%CB%A1%B2%F2%CB%B6">司法解剖</a>をせっつかせるが、逆に検察に根掘り葉掘り問いただされる。</p> <p> </p> <p>現地に出向く列車の中で、同行した鉱山長の滝田静江(南風洋子)から、「昨日<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CA%CB%A1%B2%F2%CB%B6">司法解剖</a>を行った」という検察の電報を見せられる。慌てて解剖したとしか思えない。現地に出向くと、解剖所見はやはり「脳溢血」であったことを聞かされる。</p> <p> </p> <p>このことで、正木は却って奥村は警察で殺されたとの疑いを深める。滝田の炭鉱は、闇物資の上納で競合会社と癒着した警察から度々嫌がらせを受けていた。警察はおそらく架空の罪をでっち上げ、奥村を拷問して殺したに違いないのだ。信頼していた検察も権力で証拠隠滅を図ろうとしている。木枯らしの吹くなか、正木は奥村の墓前で静かに怒りの炎を燃やす。</p> <p> </p> <p>「じゃあここへ、その首だけを持って来たらいいじゃありませんか」</p> <p>相談した東京帝大の解剖学の南教授からの意外な言葉に正木は耳を疑う。警察の許可なく墓を掘り起こし、遺体を損壊すれば刑法違反だ。正木が告発状をちらつかせて<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%CA%CB%A1%B2%F2%CB%B6">司法解剖</a>を迫った検察には、マークされて尾行がついているかも知れない。何より、そんな危険を冒して持って来た首の鑑定結果が、もし本当に脳溢血だったらどうする? だが奥村の遺体が腐り、再鑑定が出来なくなる前に一時間でも早く証拠を押さえるにはその方法しかない。</p> <p> </p> <p>翌朝、正木は諦めかけていたのを説き伏せた滝田静江と、南の解剖助手中原(大久保正信)とともに、茨城へと向かう。中原は行き先も、目的も知らされていない。</p> <p align="center">* </p> <p>吹きすさぶ雪、滝田鉱山の鉱夫たちが見張る中、中原の協力でやっとの事で首をバケツに入れに入れギリギリ上野行きの汽車に飛び乗った正木たちであったが、車中では官憲が闇物資の取り締まりをやっていた。バケツを開けさせられたらアウトだ。警官は次第に近づき、正木の風呂敷の前で立ち止まる。</p> <p>「これは誰のものだ?」<br />「私のものです」<br />「中に何が入っている?」<br />「闇物資じゃありませんよ」<br />「そんなことは聞いていない!開けてみろ!」</p> <p>窮地に陥る正木。そこに中原が機転を利かせる。</p> <p>「こりゃ買い出しの品じゃありません」<br />「何が入っているんだ!」<br />「<strong>人間の首だよ</strong>」<br />「バカにするのもいい加減にしろ!」<br />「汽車に乗るまではそうでもなかったが、この暖かさでムカムカするような臭いがするでしょうが!」</p> <p>周りの乗客が合いの手を出す。</p> <p>「こりゃ魚だよ。魚のはらわたの腐った臭いだよ」どっとウケる乗客たち。<br />「妙なもの持ち込みやがって。じゃあデッキに出ろ!ほかの者の迷惑も少しは考えろ!」<br />「ウチの畑の、肥やしにでもと思いまして」弁解しながら客室を出る正木たち。</p> <p align="center">*</p> <p>こうして無事東京に戻った正木は首を早速東大の法医学研究室に持ち込み、死因は頭部への激しい暴行であるという鑑定結果を手に入れる。</p> <p> </p> <p>その後の顛末は映画では触れていない。映画の素になった事実としては、正木弁護士は拷問の主犯である巡査部長と脳溢血の診断書を書いた警察医を告発、終戦をはさんで昭和30年に巡査部長に懲役3年の有罪判決が下されている(警察医は不起訴)<a href="#f-f3b4585b" name="fn-f3b4585b" title="首なし事件 - Wikipedia">*2</a>。映画は鑑定の後、ホルマリン漬けにされた首が保管先の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B7%C4%D8%E6%B5%C1%BD%CE">慶應義塾</a>大で空襲に遭い焼失する様を描くだけである。</p> <p>太平洋戦争が終わればこんな酷いことはなくなると正木は期待していたが、戦後も大して世の中は変わらなかった。そして正木自身も、戦時中と変わることなく法の下の正義のために戦い続けていることを示して映画は終わる。</p> <p> </p> <p>人間の首などという物騒な荷物を抱えて汽車に乗り込んだ正木のピンチを救ったのは、「これは人間の首だ」という事実の一言だった。警官は闇物資の取り締まりにしか注意が向いていなかった。そこに予想外の一撃を食らわせて、事実を冗談だと思わせることにまんまと成功したのだ。この作品の最も面白い場面である。</p> <p> </p> <p>それにしてもこの「首」という作品は、正木弁護士を演じる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B7%CB%BC%F9">小林桂樹</a>が、序盤のサラリーマン然とした容貌から、事件の核心に近づくに連れて鬼気迫る表情になってゆく変わりようが凄まじい。自分で自分を追い込んでいるようにも見える。死体が腐る前に再度鑑定して早く証拠を掴まないと、事件は永久に闇に葬られてしまう。自分の魂も腐ってしまう。何とかして死体を押さえなければ・・・そのジリジリとした焦りと気迫が眼鏡の奥から伝わってくる。 </p> <p> </p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%B7%CB%BC%F9">小林桂樹</a>出演作品の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/05/19/014247">喜劇 特出しヒモ天国 (その2)</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J9KA1G/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="首なし事件の記録―挑戦する弁護士 (1973年) (講談社現代新書)" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51LsRlzJ7cL._SL160_.jpg" alt="首なし事件の記録―挑戦する弁護士 (1973年) (講談社現代新書)" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J9KA1G/scorpion701-22/">首なし事件の記録―挑戦する弁護士 (1973年) (講談社現代新書)</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%B5%CC%DA%A4%D2%A4%ED%A4%B7">正木ひろし</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%D6%C3%CC%BC%D2">講談社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 1973</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 新書</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B000J9KA1G/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-c9cb869a" name="f-c9cb869a" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"><a href="http://www.cnn.co.jp/usa/35055033.html">CNN.co.jp : 「エボラ熱感染した」機内で冗談発言、当局に連行される</a></span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-f3b4585b" name="f-f3b4585b" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"><a href="http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%96%E3%81%AA%E3%81%97%E4%BA%8B%E4%BB%B6">首なし事件 - Wikipedia</a></span></p> </div> sny22015 からみ合い hatenablog://entry/12921228815720411423 2014-10-07T01:59:14+09:00 2014-10-07T01:59:14+09:00 向かいの席でタバコをふかしているこの男、吉田という名の嫌味たらしい男との偶然の再会のせいで、銀座のウィンドウショッピングは台無しになってしまった。 ——嫌な日になった。せっかくの散歩を台無しにして、思いもかけなかった不愉快な男と出会って。子供みたいだった二年半前、今では一世紀も昔のような気がする。気負ってはいたが、いつもお小遣いの足りないサラリーガール、コンクリートの穴蔵と、木の匣みたいなアパートの四畳半、あたしの生きがい、その誇らしい傷口・・・ やす子(岸惠子)は思い出す。彼女がかつて秘書として仕えていた東都精密工業社長河原(山村聰)のこと、まだ「宮川君」と名字で呼ばれていた頃からの社長との… <p>向かいの席でタバコをふかしているこの男、吉田という名の嫌味たらしい男との偶然の再会のせいで、銀座のウィンドウショッピングは台無しになってしまった。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2.0em; text-indent: -2.0em;"> <p>——嫌な日になった。せっかくの散歩を台無しにして、思いもかけなかった不愉快な男と出会って。子供みたいだった二年半前、今では一世紀も昔のような気がする。気負ってはいたが、いつもお小遣いの足りないサラリーガール、コン<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%AF%A5%EA%A1%BC%A5%C8">クリート</a>の穴蔵と、木の匣みたいなアパートの四畳半、あたしの生きがい、その誇らしい傷口・・・</p> </div> <p>やす子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B4%DF%D8%AA%BB%D2">岸惠子</a>)は思い出す。彼女がかつて秘書として仕えていた東都精密工業社長河原(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C2%BC%E6%E2">山村聰</a>)のこと、まだ「宮川君」と名字で呼ばれていた頃からの社長との関係を。</p> <p align="center">*</p> <p>河原は胃癌で自分の余命があと半年もない事を知った。</p> <p>大企業の傲岸不遜な社長として君臨し、二十歳も年の離れた妻・里枝(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%CF%CA%D5%C8%FE%BA%B4%BB%D2">渡辺美佐子</a>)と麻布の豪邸に暮らす河原は、しかし、総額三億円にのぼる自身の財産を相続させる実子がいなかった。河原は、あちらこちらで違う女に生ませた三人の隠し子を探しだし、気に入れば跡取りにすることを思いつく。誰も気に入った者がいなければ、里枝の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%A1%C4%EA%C1%EA%C2%B3%CA%AC">法定相続分</a>以外は社会<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F6%B6%C8">事業</a>に寄付するつもりでいる。</p> <p> </p> <p>顧問弁護士の吉田(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%B8%FD%C0%BA%C6%F3">宮口精二</a>)に割り当てられたのは真弓という娘を探すことだった。</p> <p>吉田の部下、古川(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E7%C2%E5%C3%A3%CC%F0">仲代達矢</a>)は福島で、マリという芸名で温泉客相手のヌードモデルをしているその娘(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%A7%C2%BC%BF%BF%CD%FD">芳村真理</a>)を見つける。欲望にぎらつくマリを見た古川は、彼女を河原の気に入る相続人に仕立てあげる計略を持ちかける。遺産が手に入れば<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D0%A5%C3%A5%AF%A5%DE%A1%BC%A5%B8%A5%F3">バックマージン</a>は5千万、吉田から独立するための<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>が古川の手許に転がり込む算段だ。</p> <p> </p> <p style="text-emphasis-tyle: dot;">河原の妻・里枝とその従兄弟で東都精密の秘書課長でもある藤井(千秋実)は、川越にいる七歳の娘・ゆき子を探すよう命じられるが、その子はすでに他界していた。藤井と里枝は、不倫でできた<ruby>自<rt>●</rt>分<rt>●</rt>た<rt>●</rt>ち<rt>●</rt>の<rt>●</rt></ruby>隠し子をゆき子に仕立て上げ、里枝を後見人に据える作戦を立てる。子供の戸籍を改竄するという、かなり危険な橋を渡って。</p> <p style="text-emphasis-tyle: dot;"> </p> <p>やす子は河原が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%FE%BD%A3">満州</a>で生ませた定夫(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%EE%C4%C5%CD%B4%B2%F0">川津祐介</a>)という20歳の青年を探すよう命じられた。だが定夫は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F4%BE%C2%B3%A4%B4%DF">鵠沼海岸</a>界隈で有名な不良大学生だった。定夫はやす子に目をつけ、執拗に取り入ろうとする。</p> <p> </p> <p>癌の切除手術後、自宅療養しながら執務する社長のため会社と河原邸を往復することになったやす子は、ある日台風で家に帰れなくなり河原邸に泊まることになる。</p> <p>そしてその夜、やす子は病んでなお精力盛んな河原に体を奪われてしまう。翌朝、十万円の現金が入った白い封筒がやす子に渡される。月給二万円のやす子は、その汚れた金を持っていたくないがために、この金でゲランの香水を買おうと決める。</p> <p><span style="line-height: 1.5;">そしてまもなく、やす子は河原の屋敷に一室をあてがわれ、毎夜河原の夜伽をさせられるようになる。そのたびに白い封筒をもらい、そのたびにやす子の罪の感覚は摩耗してゆく。</span></p> <p> </p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2.0em; text-indent: -2.0em;"> <p>——私はお金に慣れ、病人のわがままに慣れはじめた。慣れると楽になる。だから人は色んなものに慣れる。欲にも、辱めにも。</p> </div> <p> </p> <p>河原の死期が近づき、それぞれの思惑を抱いた3人の子が河原の元に集まる。<br />定夫は河原に真っ先に追い払われる。藤井の策略でチンピラに喧嘩を吹っかけられ、警察沙汰を起こしていたからだ。</p> <p><br />定夫と入れ替わりに屋敷の玄関に上り込んだのは警察だった。刑事はマリを殺人の容疑で連行する。マリの本名は真弓ではなく真理恵、マリを真弓と誤認した古川を騙し続けるために姉の真弓を殺し、成りすましていたのだ。浅はかな計略が失敗に終わった古川も河原邸を叩きだされる。三人の子のうち、ゆき子だけが残った。</p> <p> </p> <p>だが、遺産を寄付させて財団法人を設立し、その理事の椅子を手に入れる腹づもりの吉田は、里枝と藤井の企みを掴んでいた。里枝を切り崩す切り札となる戸籍謄本は吉田の手にあったが、真弓の一件の再調査のため福島に行かざるを得なくなる。吉田はあとをやす子に託す。</p> <p> </p> <p>その頃、やす子は妊娠が発覚する。子供のように悦び、遺産を託すと告げる河原に、やす子は泣きながら訴える。「いいんです遺産だなんて。私、それが嫌で言わなかったんです。ただ認めてさえいただければ。子供は私が働いて育てます」</p> <p>無論それで河原が引き下がるはずもない。遺産はお腹の子に分け与えると約束する。洗面で涙を洗ったやす子は、鏡に映る自分の顔を見つめる。</p> <p> </p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2.0em; text-indent: -2.0em;"> <p>——恐ろしかった瞬間が過ぎた。ふと思いつき、化粧を落として素顔になり、硬い青ざめた膚がむき出しになったとき、自分の中に今までなかったはたらきがある事を知った。自分の話す言葉そのものになり、自然に涙が流れ、感情がほとばしり、時が過ぎた。</p> </div> <p> </p> <p>遺産は法定相続人の里枝、そしてゆき子、そしてやす子のお腹に宿った子に三分の一ずつ託される遺言状が書かれ、河原は苦しんで死ぬ。</p> <p>だがまだ遺産を狙っている者がいる。そして切り札はやす子の手中にある。やるべきことは残されている・・・</p> <p> </p> <hr /> <p> </p> <p>「からみ合い」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%CE%D3%C0%B5%BC%F9">小林正樹</a>監督・1962年文芸プロダクション=にんじんくらぶ=松竹)の魅力は、冷たい美貌、「社長夫人になるために生まれてきた」ような鼻持ちならなさの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%CF%CA%D5%C8%FE%BA%B4%BB%D2">渡辺美佐子</a>、古川の計略に乗った瞬間にぞっとする目を見せる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%A7%C2%BC%BF%BF%CD%FD">芳村真理</a>、地味なOLからしたたかな悪女へと変貌を遂げる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B4%DF%B7%C3%BB%D2">岸恵子</a>の三人の悪女ぶりだろう。彼女たちの前ではベテラン<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%B8%FD%C0%BA%C6%F3">宮口精二</a>も千秋実も影が薄くなる。</p> <p> </p> <p>人が悪に変わるには、やす子の言うように「ふと思いつき」、ほんの一瞬の勇気を出せばいい。あとは惰性がすべてを押し流してくれる。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C9%F0%CB%FE%C5%B0">武満徹</a>の渋いジャズ調のテーマ曲が心地よい、スタイリッシュなミステリ作品だが国内向けのDVD化はされていない。アメリカで発売されているDVD(下記のボックスセットに収録)はあるがリージョン1なので再生環境に注意が必要だろう。それ以外はフィルムでの上映機会を探すしかなさそうだ。</p> <h5>カテゴリ「松竹」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/04/015312">土曜は寅さん!(8): 男はつらいよ 寅次郎純情詩集</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/02/12/020921">土曜は寅さん!(7): 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/01/09/233006">吹けば飛ぶよな男だが</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/24/230228">必殺!III 裏か表か</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/23/210943">愛の讃歌</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00B2BYXYA/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="Eclipse Series 38: Masaki Kobayashi Against the System [DVD] [Import]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51LTJqa3QtL._SL160_.jpg" alt="Eclipse Series 38: Masaki Kobayashi Against the System [DVD] [Import]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00B2BYXYA/scorpion701-22/">Eclipse Series 38: Masaki Kobayashi Against the System [DVD] [Import]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">アーティスト:</span> Masaki Kobayashi</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> Criterion</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2013/04/16</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00B2BYXYA/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 妻は告白する hatenablog://entry/12921228815727388815 2014-09-28T20:14:16+09:00 2014-10-06T16:38:12+09:00 ——以上で本件の審理を終わるが、最後に被告人は何か言うことがありますか。もし自由の身になったら、どうするかね。 ——今度こそ、幸福な結婚をしたいと思います。殺人罪の被告として、こんな辱めに遭うのも、今までの結婚が不幸だったからです。 * 彩子(若尾文子)は不幸な女だった。 ——被告人が滝川氏と結婚したのは。 ——五年前、私が大学の薬学部に在学中の時です。 ——結婚の動機は。 ——滝川が突然申し込んだんです、研究室で。私は十一の時戦災で孤児になり、叔父に育てられました。叔父のうちも楽ではなかったので、一日でも早く薬剤師として独立しようと思ってました。奨学資金が少なかったので、助教授だった滝川の … <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——以上で本件の審理を終わるが、最後に被告人は何か言うことがありますか。もし自由の身になったら、どうするかね。</p> <p>——今度こそ、幸福な結婚をしたいと思います。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%A6%BF%CD%BA%E1">殺人罪</a>の被告として、こんな辱めに遭うのも、今までの結婚が不幸だったからです。</p> </div> <p align="center">*</p> <p>彩子(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%C8%F8%CA%B8%BB%D2">若尾文子</a>)は不幸な女だった。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——被告人が滝川氏と結婚したのは。</p> <p>——五年前、私が大学の薬学部に在学中の時です。</p> <p>——結婚の動機は。</p> <p>——滝川が突然申し込んだんです、研究室で。私は十一の時戦災で孤児になり、叔父に育てられました。叔父のうちも楽ではなかったので、一日でも早く薬剤師として独立しようと思ってました。奨学<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F1%B6%E2">資金</a>が少なかったので、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%F5%B6%B5">助教</a>授だった滝川の 研究の下調べや雑用をして手当をもらい、どうにか生活をしていました。でも過労と栄養失調で、毎日がとても暗く、自殺さえ考えていた時に・・・</p> </div> <p>深夜の研究室で滝川(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%C2%F4%B1%C9%C2%C0%CF%BA">小沢栄太郎</a>)に犯された。</p> <p style="margin-left: 2em; text-indent: -2em; line-height: 1.2em;">ーー私、結婚を承知しましたわ。一日でも早く苦しい生活から逃れたかったからです。</p> <p>それでも彩子は滝川を愛そうと自分に言い聞かせた。学校も辞め、夫の趣味の登山にもつきあった。</p> <p>それでも滝川は彩子を愛してはいなかった。 安月給のくせに生活より登山を優先し、子供に金がかかる、と妊娠した彩子を堕胎させた。安くて便利な家政婦、それが滝川の妻であることの意味だった。離婚の申し出にも、滝川は応じなかった。愛がない、というだけでは裁判所も離婚を認める可能性は薄かった。</p> <p align="center">*</p> <p>「狂恋の夫殺し」。センセーショナルな事件に記者の殺到した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C3%CF%BA%DB">東京地裁</a>22号法廷で、葛<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%BE%B8%A1">西検</a>事(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%E2%BE%BE%B1%D1%CF%BA">高松英郎</a>)は起<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%CA%BE%F5">訴状</a>を読み上げた。</p> <p style="margin-left: 2em; text-indent: -2em; line-height: 1.2em;">——被告人は某滝川亮吉の妻であるが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%BC%CF%C236%C7%AF">昭和36年</a>7月15日、右滝川に幸田修を加えた3名で長野県<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%CC%CA%E6%B9%E2%B3%D9">北穂高岳</a><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%EC%C3%AB">滝谷</a>の第一尾根岩壁登攀中、まず先頭の滝川が滑り落ち続いて同人とザイルに結ばれていた被告人も引きずられて転落した。<br />あやうく幸田に支えられ、被告人と滝川とは一本のザイルによって岸壁の上部に宙づりとなった。被告人はかねてより幸田に好意を寄せ秘かに情を通じていたため、夫滝川との夫婦仲はとかく円満を欠いていた。<br />そこで被告人は、咄嗟の間に夫を殺害して夫が被告人を受取人としている生命保険金(金額五百万円)と右幸田を得たいと考え、やにわに携帯していたナイフで自分の下方のザイルを切断し、滝川を約500メートル下のB沢渓流の谷に転落、死亡せしめたものである。<br />罪名、殺人。罰条、刑法第199条。</p> <p>いっぽう被告側弁護士の杉山(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%AC%BE%E5%BD%DF">根上淳</a>)は、ザイル一本で宙吊りの人間二人を支えていたら、支えている幸田(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%EE%B8%FD%B9%C0">川口浩</a>)はいずれ失神して死ぬし、滝川夫妻も助からない、したがってこれは刑法37条の「緊急避難」にあたるやむを得ない措置であるとして無罪を主張した。</p> <p>裁判は彩子の滝川への殺意の存在、つまり彩子と幸田が愛し合っているのかを巡る争いになった。</p> <div style="margin-left: 2em; text-indent: -2em; line-height: 1.2em;"> <p>——証人は、幸田君と被告人滝川彩子の関係を知っていますか。</p> <p>——はい。幸田はたびたび奥さんと会っていたようです。</p> <p>——何の用で?</p> <p>——存じません。</p> <p>——幸田君は最近あなたに対してどんな風でした。</p> <p>——申し分のない婚約者です。いつも食事や映画に連れて行ってくれました。</p> <p>——幸田君が、滝川さんの奥さんに愛情を抱いていると思いますか。</p> <p>——思いません。同情はしてるでしょう。</p> </div> <p>証言台に立った幸田の婚約者理恵(馬淵晴子)は、しかし、製薬会社の連絡係として滝沢宅に出入りしていた幸田が、彩子に同情以上の想いを寄せていたことを、幸田自身も気づかない彼の本心を見抜いていた。彩子が幸田を愛していることも。</p> <p align="center">*</p> <p>最終弁論で彩子は「自由になったら幸福な結婚をしたい」と述べ 、裁判官の心象を悪くしてしまった。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——幸田さん、判決の日まであたしの側にいてくれる?あたしを愛してくれる?思いっきり。いっぱい。せめてその間だけ幸せになりたい。あとはどうなったっていいの。</p> <p>——わかりました奥さん。会社から休暇を取ります。</p> </div> <p>彩子と幸田は二人きりで湘南海岸での数日を過ごした。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——今夜きりね。二人でいられるの。</p> <p>——そんなことありませんよ。一生二人で暮らしましょう。奥さん、僕と結婚して下さい。</p> <p>——だってあなたには理恵さんというちゃんとしたお嬢さんがいるわ。</p> <p>——いいんですよ彼女は。僕がいなくても幸せになれる人だ。でも奥さんは違う。僕が必要なんだ。</p> <p>——同情してるの、あたしに。</p> <p>——いや、愛してます。</p> <p>——あたしは夫殺しの恐ろしい女よ。</p> <p>——それは検事の言っていることです。奥さんがそんなことをするわけがない。無実ですよ。</p> <p>——世間が何というと思う? やっぱりそうだ、亭主を殺して一緒になった恥知らずの男と女だって。</p> <p>——世間が何です。僕たちは信じ合ってる。平気ですよ、根も葉もない中傷は。</p> </div> <p>彩子に下された判決は「無罪」だった。</p> <p align="center">*</p> <p>幸田が理恵との婚約解消を上司に打ち明けたその日、幸田は彩子の「新居」に招かれた。保険金で借りた洒落たマンションで二人の再出発をワインで乾杯しようという無邪気に喜ぶ彩子に、幸田は戸惑いを隠せなかった。保険金で滝川の墓を建てるべきだと思っていたし、マンションに住まなくても幸福になれると考えていた。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——でも、ねえ、乾杯しましょうよ、ね? 注いで下さる?</p> <p>——なんのための乾杯ですか。保険金のためですか。</p> <p>——酷いわ。どうしてそんなにあたしをいじめるの。</p> <p>——奥さんがあんまり無神経だからですよ。</p> <p>——あなたは臆病ね。世間が怖いんだわ。世間の人に悪く言われるのが恐ろしいのよ。</p> <p>——そんなことありませんよ。</p> <p>——じゃあ、あたしを愛してないんだわ。愛してないからあたしをいじめるのよ。愛してたら喜んでくれるはずよ。やっと二人きりの地点に立ったんですもの。いいわ、あたし一人で乾杯するから。</p> <p>——奥さんはわからないんですか、僕の気持ちが。</p> <p>——あなたもあたしの気持ちがわからないじゃないの!</p> </div> <p>彩子のグラスを取り上げようと揉み合ううちに、割れたグラスが幸田の右手を傷つける。介抱する彩子。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p><span style="line-height: 24px; text-indent: -32px;">——</span>まあひどい血。痛いでしょ。<br />あの時もこの手から血が・・・あなたの苦しみが、まるで自分の苦しみのようにわかったの。あなたが悲鳴を上げる度に、あたしも悲鳴を上げたわ。<br />なのに滝川ったら、ますます体を強く振って、とても憎らしかった。自分勝手で、人の苦しみなんかどうだっていい、憎らしかったわ。<br />このエゴイスト、夫なんか、死ねばいい・・・<br />あの時、本当にわかったわ。あたしが誰を愛しているか。あたしが愛しているのは、あなたよ。幸田さん、あなたなのよ。</p> <p>——奥さん、あなたは滝川さんを殺したんですね。憎くて殺したんですね。やっぱり検事の言ったとおりだったんですね。<br />本当は有罪だったんですね。なぜ黙っていたんです!</p> <p>——だってあなたがあたしを白い目で見ると思ったから、あたしを見捨てると思ったからよ!</p> <p>——あなたは僕を騙した。僕だけじゃない、世間を騙し、裁判所も騙した。恐ろしい人だ。</p> <p>——でもザイルを切らなかったらあなたが死んじゃう、あなただけは助けたかったのよ!</p> <p>——助けてくれなければよかった。</p> <p>——本当? 本当にそう思うの?</p> <p>——奥さん、ここに居たくない。帰ります。</p> <p>——帰らないで!ねえ、帰らないで!待って、待ってよ!あたしを独りにしないで!</p> </div> <p align="center">*</p> <p>幸田は上司に大阪への転勤を申し出た。明日は転勤というある雨の日、会社にいる幸田を彩子が訪れる。ずぶ濡れのままうつむいて立っている彩子の足元に雨だれがしたたり落ちている。だがそんなことも意に介さず、彩子は必死に幸田の心を引き止める。</p> <div style="line-height: 1.2em; margin-left: 2em; text-indent: -2em;"> <p>——あなたが正しいことがわかったわ。保険金、ちゃんと全部残ってるわ。これからは、何もかもあなたのいう通りにするわ。<br />お願い、あたしを捨てないで。ねえ、こっち見て。<br />あたしって、そんな恐い女じゃないわ。弱い女よ。ただ、あなたを好きなだけ。あなたのために、なにもかも犠牲にしただけ。それだけよ。<br />結婚してくれなんて言わないわ。ただ、時々会って下さったら、半月に一度、ひと月に一度でいいの、二人きりで会って下さる?<br />イヤ? イヤなの? だったら一年に一度でいい、ねえお願い、二年に一度でも、三年に一度でも、お願い・・・</p> <p>——奥さん、あなたは僕の命を救ってくれた。責める気は少しもない。だけどただ、たとえ僕のためでも、人を殺すなんて・・・人を殺す人間に人を愛することはできるんだろうか。やっぱり奥さんとはお別れした方がいい。</p> <p>——待って!</p> <p> </p> </div> <hr /> <p> </p> <p>人は誰でも、法廷のような規範の中で生きている。だが人が自らを規範に縛りつけていることを知るのは、規範の外に出たときだけである。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>は、情念が人を規範の外に押し出す力になると考えた。そしてその力は女性が持っていると考えた。男は、幸田がそうであるように、愛に溺れているときは「世間が何です」というが、ちょっとしたことでたやすく規範の中に回収されてしまう。</p> <p> </p> <p>「妻は告白する」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督・1961年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>)では、彩子を通じて世間からどう思われようとも愛を貫き通す意志、そのために何もかもを犠牲にし、規範の中にいる人からは恥知らずとも、犯罪者とも、気違いとも呼ばれうる人間像が描かれる。だが恥知らずであることが何だというのか。情念を解放することにこそ、規範の中にいるものが憧れてやまない「美」が現れるのではないのか。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%C8%F8%CA%B8%BB%D2">若尾文子</a>はそうした人間観を描いてきたが、その極致がこの作品といえよう。自分のようなものがいくら言葉を尽くそうが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%C8%F8%CA%B8%BB%D2">若尾文子</a>の激しい美しさを語り尽くすことはできまい。</p> <p> </p> <p>だが情念を貫き通すことと、世俗的な幸福を追求することは時として二律背反であり、多くの場合悲劇を伴う。この記事では触れていない「妻は告白する」の結末もまた、その例に漏れない。</p> <p> </p> <p>初めて出会ったとき、彩子は家の大工仕事をやってもらった礼に、幸田に一杯のウイスキーを差し出す。幸田は「奥さんもいかがですか」とグラスを差し出す。その一瞬ーー滝川から一度もされたことのないことをされて、ハッと驚く彩子の仕草に、彼女の結婚生活がいかに不幸なのかが全て表出されている。</p> <p> </p> <p>そして無罪判決を勝ち取った彩子は、今度は瀟洒なマンションで幸田にワインを注ぐが、彩子の(世間的な尺度では)無神経さに苛立った幸田は拒否する。何かを飲むときに愛が始まり、飲むことを拒絶することで愛は終わる。そして愛を失った彩子の破滅もまた、かつて飲もうとして飲めなかったものを飲むことで訪れる。</p> <p> </p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%E3%C8%F8%CA%B8%BB%D2">若尾文子</a>出演作品の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/14/004548">青空娘</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/06/28/230009">美貌に罪あり</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/04/23/025206">幻の馬</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/12/213831">土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その2)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/12/202102">土曜は寅さん!(6): 男はつらいよ 純情篇(その1)</a></li> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JBMWL5K/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="妻は告白する [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51egM7Y-IAL._SL160_.jpg" alt="妻は告白する [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00JBMWL5K/scorpion701-22/">妻は告白する [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/KADOKAWA">KADOKAWA</a> / <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%D1%C0%EE%BD%F1%C5%B9">角川書店</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2014/06/27</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00JBMWL5K/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (2件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com">ブログトップに戻る</a></p> sny22015 発禁本「美人乱舞」より 責める! hatenablog://entry/12921228815730195263 2014-09-23T22:32:00+09:00 2014-09-23T23:54:18+09:00 高校時代の倫理社会の授業は退屈で、覚えていることはほとんどないが、教科書の挿絵のニーチェの肖像画はいまも思い出すことができる。狂気の淵に沈んだ晩年の、ベッドから窓の外を眺めるかつての大哲学者の静謐な横顔をスケッチしたものであった。 「発禁本「美人乱舞」より 責める!」(田中登監督・1977年日活)の冒頭のシーン、縛られ天井から吊され、失禁を床にたらすヒロイン・タエ(宮下順子)に浮かぶ空虚な表情は、まさにそのニーチェの肖像を思わせるものがある。 * 大正15年、女房に逃げられたばかりの伊藤晴雨(山谷初男)*1と、夫に捨てられたばかりのカフェーの女給タエは、出会ってすぐに意気投合し共に暮らし始める… <p>高校時代の倫理社会の授業は退屈で、覚えていることはほとんどないが、教科書の挿絵の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CB%A1%BC%A5%C1%A5%A7">ニーチェ</a>の肖像画はいまも思い出すことができる。狂気の淵に沈んだ晩年の、ベッドから窓の外を眺めるかつての大哲学者の静謐な横顔をスケッチしたものであった。</p> <p> </p> <p>「発禁本「美人乱舞」より 責める!」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%C5%D0">田中登</a>監督・1977年日活)の冒頭のシーン、縛られ天井から吊され、失禁を床にたらすヒロイン・タエ(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%B2%BC%BD%E7%BB%D2">宮下順子</a>)に浮かぶ空虚な表情は、まさにその<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CB%A1%BC%A5%C1%A5%A7">ニーチェ</a>の肖像を思わせるものがある。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>大正15年、女房に逃げられたばかりの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%CB%C6%A3%C0%B2%B1%AB">伊藤晴雨</a>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%C3%AB%BD%E9%C3%CB">山谷初男</a>)<a href="#f-fdf5e309" name="fn-fdf5e309" title="伊藤晴雨(1882-1961)は、戦前から戦後にかけて活躍した画家、演劇評論家。女性の緊縛画(責め絵)を得意とし、数多くの作品を残す。その生涯については http://smpedia.com/index.php? title=%E4%BC%8A%E8%97%A4%E6%99%B4%E9%9B%A8 など参照。この作品のヒロイン・タエは晴雨の3番目の妻とし子をモデルにしている">*1</a>と、夫に捨てられたばかりのカフェーの女給タエは、出会ってすぐに意気投合し共に暮らし始める。</p> <p>「責め映えのある顔してやがる・・・」その当時既に著名な責め絵師であった晴雨は、タエのマゾヒストの性向を見抜いていた。その日から晴雨によるタエの調教が始まる。</p> <p> </p> <p>タエは晴雨の前妻に嫉妬していた。</p> <p>「こんなこともやったのね、前のカミさんと・・・」<br />「まだまだ、やらせてもらうぜ」<br />「あんたの気が済むまで・・・」<br />「かわいいこと言ってくれるじゃねえか」</p> <p>珍しく雪の積もったある日。</p> <p>「雪ね。きっとこんな日だったのね、あんたの前のカミさん雪責めにしたの。あたしも縛ってよ、前のカミさんの時みたいに」<br />「本気なのかい。始めたら途中でやめねえぜ」</p> <p>雪責めーー雪の降り積もる中、襦袢一枚で歩き、氷の張った沼につからせ、木に縛りつける責めだ。唇を紫にして被虐に浸るタエ。</p> <p> </p> <p>だが晴雨とタエの生活は永くは続かなかった。ある夜、タエは発作を起こして晴雨の画や写真を手当たり次第びりびりに引き裂く。タエを診た医師は先天性の脳梅毒だと言った。治る見込みはないと。</p> <p>北陸の田舎からタエの母親が出てきて、変態行為のせいでタエが狂ったのだと晴雨を責めるが、治すあてもわからない。タエの母は、「憑きもの」を落とすためにもう一度彼女を責めてくれと懇願する。</p> <p>井戸に漬ける。縛って吊す。「何の因果か。オラのか、お前のか・・・」</p> <p>タエは一時正気を取り戻したように見えた。だがフラリと出かけて「豆腐を買いに行っていた」と言うタエの手の、買い物桶には生きた蛇が入っていた。</p> <p>晴雨はタエの脳梅毒が妊娠中の母子感染によるものだという真実を告げる。母は失意のうちに晴雨の家を後にする。</p> <p> </p> <p>晴雨は、今度は自らの意志でタエに被虐の悦びを思い出させるため、もう一度タエを縛り、ロウソクをたらす。だがもう、狂気の奥底に沈んだタエに苦悶の表情は浮かばない。焦点の合わない目でどこかを見ているだけであった。</p> <p>やがてタエは息を引き取る。アトリエ=責め場に横たえられた彼女の遺体に並んで寝そべった晴雨は、はじめて自身のサディズムの原体験ーー少年の日に見た、きれいな着物の女が縛られ、髷を切られ、殺される見世物の幻想ーーを語って聞かせる。</p> <p> </p> <p>遺体は焼かれ、晴雨はアトリエにひとりぼっちで佇んでいる。晴雨のモノローグがかぶる。</p> <p>「あとになって、千載の好機を逃したと思ったね。せっかく死んでしまったものをそのまま棺桶に入れてしまったことでね。できることなら死体を色々な方法で縛って、あらゆる角度から撮影して・・・」</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>SMの映画だが、タエの病気が発覚してからの後半の展開には、「責め」からその遊戯性が失われ、彼女を狂気の彼方から呼び戻す治癒のための、「祈り」の行為として描かれる。だが無論、そのようなことでタエの母の、そして晴雨自身の願いが叶うはずもなく、タエの魂は既に闇に沈んでしまい、目に生気が戻ることはない。</p> <p>晴雨はタエの遺体の側に横たわり、自らの人生を語りかけ、静かに涙を流す。ここに至って、晴雨とタエの間には間違いなく深い愛情が存在したことがわかる。肉体の責めを通じた心の交感が確かにあったのだ。</p> <p>それは、晴雨が、焼く前に遺体を縛っておけばよかったと思い出す場面からも示唆される。緊縛画家の晴雨に縛ることをふと忘れさせたもの、それはタエを失った悲しみ故に他ならないだろう。</p> <p> </p> <p>この作品は、タエがすでに狂気に陥ったところから語り起こされる。冒頭の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B5%DC%B2%BC%BD%E7%BB%D2">宮下順子</a>の虚ろな表情はショッキングであり、悲しくもあり、崇高でもある。</p> <h5><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%C5%D0">田中登</a>監督作品の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/09/07/232337">新橋ロマン劇場が最後の番組に選んだ作品と、その歴史</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/16/133222">昼下りの情事 変身</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/03/07/012523">実録阿部定</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000H5U1ES/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="発禁本「美人乱舞」より 責める! 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%CB%C6%A3%C0%B2%B1%AB">伊藤晴雨</a>(1882-1961)は、戦前から戦後にかけて活躍した画家、演劇評論家。女性の緊縛画(責め絵)を得意とし、数多くの作品を残す。その生涯については <a href="http://smpedia.com/index.php?title=%E4%BC%8A%E8%97%A4%E6%99%B4%E9%9B%A8">http://smpedia.com/index.php? title=%E4%BC%8A%E8%97%A4%E6%99%B4%E9%9B%A8</a> など参照。<br />この作品のヒロイン・タエは晴雨の3番目の妻とし子をモデルにしている</span></p> </div> sny22015 動脈列島 hatenablog://entry/12921228815729716193 2014-09-18T00:18:41+09:00 2014-09-29T23:35:36+09:00 ただの脅しでないことは明らかだった。 東京行きの新幹線ひかり号のトイレから、ニトログリセリンを染み込ませた土とタイマー、それに国鉄総裁への脅迫状が発見された。脅迫状には、市街地での新幹線の減速運転、防音壁の設置、線路周辺の住宅地買い上げといった新幹線騒音公害の解決を直ちに実行しなければ10日後に走行中の新幹線を転覆すると記されていた。 国鉄(現在のJR)の通報を受けた警察庁は、犯罪科学研究所所長の滝川(田宮二郎)に犯人割り出しと犯行阻止を命じる。犯罪心理学の専門家である滝川は、脅迫状から犯人像をプロファイリングし、二年前に新幹線が発する騒音・振動と沿線住民の疾病の関係を指摘する研究報告を執筆し… <p>ただの脅しでないことは明らかだった。</p> <p>東京行きの新幹線ひかり号のトイレから、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CB%A5%C8%A5%ED%A5%B0%A5%EA%A5%BB%A5%EA%A5%F3">ニトログリセリン</a>を染み込ませた土とタイマー、それに<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>総裁への脅迫状が発見された。脅迫状には、市街地での新幹線の減速運転、防音壁の設置、線路周辺の住宅地買い上げといった新幹線騒音公害の解決を直ちに実行しなければ10日後に走行中の新幹線を転覆すると記されていた。</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>(現在のJR)の通報を受けた警察庁は、犯罪科学研究所所長の滝川(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%B5%DC%C6%F3%CF%BA">田宮二郎</a>)に犯人割り出しと犯行阻止を命じる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%C8%BA%E1%BF%B4%CD%FD%B3%D8">犯罪心理学</a>の専門家である滝川は、脅迫状から犯人像をプロファイリングし、二年前に新幹線が発する騒音・振動と沿線住民の疾病の関係を指摘する研究報告を執筆した研修医の秋山(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%E1%C6%A3%C0%B5%BF%C3">近藤正臣</a>)を犯人と断定し、その行方を追う。</p> <p>だが秋山はどこに潜伏し、どのような手口で新幹線を転覆するのかはまったくわからない。滝川はあえて秋山を指名手配して沿線に厳戒態勢を引き、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>は犯罪者に屈服はしない、とあえて新幹線運行を強行する。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>1975年9月6日に公開された「動脈列島」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>監督・1975年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>)は、同年7月5日公開の「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%B4%B4%C0%FE%C2%E7%C7%FA%C7%CB">新幹線大爆破</a>」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%BD%E3%D7%BD">佐藤純彌</a>監督・1975年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)との競作だが、現在の評価では、残念ながら前者は知名度の点で後者に劣る。</p> <p>競作が生まれた背景には、この年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%CD%DB%BF%B7%B4%B4%C0%FE">山陽新幹線</a>が全面開通し、東京から本州を西に貫く大動脈が完成したという事情がある。だが国と<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>は、1959年の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B3%A4%C6%BB">東海道</a>着工以来完成を急ぐあまり、沿線住民への影響ををなおざりにしてきたという深刻な問題も抱えていた。そこに光をあてたのが「動脈列島」である。</p> <p>とはいえいずれもサスペンス映画であり、どちらが娯楽としてよく出来ているかと言えば「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%B4%B4%C0%FE%C2%E7%C7%FA%C7%CB">新幹線大爆破</a>」の方だと答えなければならない。一方に豊富で他方に足りないものははっきりしている。熱さだ。それをもっとも体現しているのが「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%B4%B4%C0%FE%C2%E7%C7%FA%C7%CB">新幹線大爆破</a>」で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%A7%C4%C5%B0%E6%B7%F2">宇津井健</a>演じる新幹線運行管制室長である。爆弾のために止まれなくなった新幹線の事故を未然に防ぎ、乗客の家族を悲しませないこと、そのために自らの職務に必死に知恵を絞り、全力を尽くすこと、それが彼の信念であり正義であった。そしてそれが犯人確保を優先する警察の論理と衝突し、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>上層部が警察の方針に折れた時、彼は潔く現場を去る。「動脈列島」の"敗因"を求めるとしたら、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%A7%C4%C5%B0%E6%B7%F2">宇津井健</a>をキャストに起用できなかったことに尽きる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%A7%C4%C5%B0%E6%B7%F2">宇津井健</a>的な熱い正義漢は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%FD%C2%BC%CA%DD%C2%A4">増村保造</a>自身が「黒の報告書」(1963年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%B1%C7">大映</a>)で見出しているにも拘わらず。</p> <p> </p> <p>「動脈列島」は、医師としてその犠牲者に寄り添った経験から、公害対策に本腰を入れない<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>への義憤という秋山の犯行動機に焦点を当てて描いている。物語の終盤、すでに全国指名手配された秋山は、大胆にも<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>総裁(山村總)の自宅に侵入し、総裁との直談判にさえ及ぶが、結局は物別れに終わる。この時点で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>の累積赤字は既に1兆円を超え、被害者補償への充分な手当は不可能だったのだ。<a href="#f-7f136df4" name="fn-7f136df4" title="国鉄の累積赤字問題はのちに中曽根内閣の行政改革の焦点とされ、87年の国鉄分割・民営化=JR各社の発足へと繋がってゆく。">*1</a>こうして秋山は、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>に対するたった一人の戦いに自らを追い込み、終始冷静な科学者刑事・滝川との頭脳戦のなかで包囲網を狭められてゆく。</p> <p> </p> <p>秋山の側に寄り添った見方ーーそれは、公害問題のような大きな敵に対して個人は何ができるのか、それを物語としてどのように魅力的に作るか、ということだがーーに注目すると「動脈列島」と比すべきは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%EA%C4%CD%BC%A3%C3%EE">手塚治虫</a>が『<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>』に描いた1エピソード「震動」<a href="#f-ed2c4ab5" name="fn-ed2c4ab5" title="週刊少年チャンピオン1976年9月6日号掲載、講談社『手塚治虫文庫全集 ブラック・ジャック(7)』所収。画像は同書による">*2</a>ではないかと思う。</p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>新幹線の沿線の長屋に住むオヤジ「八つぁん」が、新幹線に投げた小石が跳ね返り、運悪くカミさんの腹に当たって大ケガを負わせる。出血がひどく、動かせる状態ではない。たまたま近くの居酒屋に居合わせたブラック・ジャックが妻を応急手術することになる。「あいつは高い手術代をふんだくるヤミ医者だ」という八つぁんの仲間の忠告に、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>から賠償金をせしめればいいと宣言する。</p> <p><img class="hatena-fotolife" title="f:id:sny22015:20140917233229p:plain" src="http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sny22015/20140917/20140917233229.png" alt="f:id:sny22015:20140917233229p:plain" /></p> <p>しかし、いざ手術を始めると、新幹線の起こす震動のために動脈の縫合が出来ない。しかも新幹線は3分おきに通過する。これでは手術は続行不可能だ。</p> <p><img class="hatena-fotolife" title="f:id:sny22015:20140917232132p:plain" src="http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sny22015/20140917/20140917232132.png" alt="f:id:sny22015:20140917232132p:plain" /></p> <p>八つぁんは無我夢中で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>に電話し、電話に出た偉い人に「うちのかあちゃんを殺さないでくれ」とオイオイ泣きながら懇願する。すると奇跡が起きる。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>は手術が終わるまで新幹線を緊急停止させた。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>は血管縫合手術を無事終わらせ、八つぁんに妻をすぐ入院して輸血させるよう指示する。</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>もアジなことするじゃねえか」と安堵する八つぁんを、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>は「そんなことより<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>からゴッテリ見舞金をふんだくることを考えろ」と叱咤する。</p> <p><img class="hatena-fotolife" title="f:id:sny22015:20140917232651p:plain" src="http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/sny22015/20140917/20140917232651.png" alt="f:id:sny22015:20140917232651p:plain" /></p> <p> </p> <p align="center">*</p> <p> </p> <p>少年漫画のご都合主義的側面があるのは仕方ないが、「震動」は「動脈列島」と同じ視点を持ちながら、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>と八つぁんがたった一人の患者を救うために新幹線を停めてしまう、という、より娯楽性を高めた小品に出来上がっている。この作品には明らかに熱さがあり、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>にひと泡吹かせる爽快感があり、「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>」ではお馴染みの照れくさい<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%E5%A1%BC%A5%DE%A5%CB%A5%BA%A5%E0">ヒューマニズム</a>がある。「動脈列島」が目指すべきだった地点はここだったのではないかと思う。</p> <p> </p> <p>蛇足ながら「動脈列島」の冒頭、爆弾が隠されたトイレの水洗が流れないと車掌に文句を言う<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%BA%E5%CA%DB">大阪弁</a>の女役で、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%DC%CC%C0%B9%E1">芹明香</a>が出演している。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B6%DC%CC%C0%B9%E1">芹明香</a>にトイレを使わせるなら、どうして放尿シーンを撮らなかったのかという気もするが、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%CA%F5">東宝</a>の映画にそれは無理だろう。</p> <h5>カテゴリ「ミステリ・サスペンス」の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/12/06/070000">黒蜥蜴</a></li> </ul> </ul> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003E33RX2/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="動脈列島 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51SWoJpLCKL._SL160_.jpg" alt="動脈列島 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003E33RX2/scorpion701-22/">動脈列島 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" 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class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%EA%C4%CD%BC%A3%C3%EE">手塚治虫</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%D6%C3%CC%BC%D2">講談社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2010/08/12</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 文庫</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 1人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 1回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4063737640/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログを見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <p><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/">ブログトップに戻る</a></p><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-7f136df4" name="f-7f136df4" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>の累積赤字問題はのちに中曽根内閣の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%D4%C0%AF%B2%FE%B3%D7">行政改革</a>の焦点とされ、87年の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%F1%C5%B4">国鉄</a>分割・民営化=JR各社の発足へと繋がってゆく。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-ed2c4ab5" name="f-ed2c4ab5" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BD%B5%B4%A9%BE%AF%C7%AF%A5%C1%A5%E3%A5%F3%A5%D4%A5%AA%A5%F3">週刊少年チャンピオン</a>1976年9月6日号掲載、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%D6%C3%CC%BC%D2">講談社</a>『<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%EA%C4%CD%BC%A3%C3%EE">手塚治虫</a>文庫全集 <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D6%A5%E9%A5%C3%A5%AF%A1%A6%A5%B8%A5%E3%A5%C3%A5%AF">ブラック・ジャック</a>(7)』所収。画像は同書による</span></p> </div> sny22015 実録・私設銀座警察 hatenablog://entry/12921228815731589803 2014-09-09T23:07:12+09:00 2014-09-29T23:36:36+09:00 昭和23年11月某日、一人の殺し屋が死んだ。同じ日、マスコミに"銀座警察"と呼ばれた暴力団が公安の一斉検挙で壊滅した。 「実録・私設銀座警察」(佐藤純彌監督・1973年東映)は終戦直後の混沌の中にのし上がったならず者たちと、彼らに飼われたヒロポン中毒の殺人鬼、渡井(渡瀬恒彦)を描くことで、時代の徒花になった彼らの"光"と"影"を描いている。 昭和21年、戦地から引き揚げてきた二等兵・渡井は妻みつが米兵相手の私娼になり、子供を産んでいたのを見るや激昂、みつを石で殴り殺し、赤ん坊を2階から投げ捨てる。ルンペンとなってゴミを漁っていた渡会は、MPに追われて偶然逃げ込んだ先のバーを根城とする愚連隊に匿… <p>昭和23年11月某日、一人の殺し屋が死んだ。同じ日、マスコミに"銀座警察"と呼ばれた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%BD%CE%CF%C3%C4">暴力団</a>が公安の一斉検挙で壊滅した。</p> <p> </p> <p>「実録・私設銀座警察」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%B4%C6%A3%BD%E3%D7%BD">佐藤純彌</a>監督・1973年<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B1%C7">東映</a>)は終戦直後の混沌の中にのし上がったならず者たちと、彼らに飼われた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%ED%A5%DD%A5%F3">ヒロポン</a>中毒の殺人鬼、渡井(渡瀬恒彦)を描くことで、時代の徒花になった彼らの"光"と"影"を描いている。</p> <p> </p> <p>昭和21年、戦地から引き揚げてきた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%F3%C5%F9%CA%BC">二等兵</a>・渡井は妻みつが米兵相手の私娼になり、子供を産んでいたのを見るや激昂、みつを石で殴り殺し、赤ん坊を2階から投げ捨てる。ルンペンとなってゴミを漁っていた渡会は、MPに追われて偶然逃げ込んだ先のバーを根城とする愚連隊に匿われる。</p> <p>のちに"銀座警察"と呼ばれる愚連隊は池谷(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C2%C6%A3%BE%BA">安藤昇</a>)、樋口(梅宮辰夫)、岩下(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%BC%C5%C4%C6%FC%BD%D0%C3%CB">室田日出男</a>)の兵隊あがりと、戦前からの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%EE%C5%CC">博徒</a>宇佐美(葉山良二)が、自然発生的に結成した組織であった。当初は新橋界隈の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B0%C7%BB%D4">闇市</a>で幅を利かせる<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B0%B9%F1%BF%CD">三国人</a>に対抗する自警団であったが、やがて銀座を仕切る山根兄弟(郷鍈治、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%D4%C5%C4%B5%FE%B2%F0">待田京介</a>)を殺害し、そのショバを手中に収める。この時手駒として動いたのが、宇佐美の手で<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%ED%A5%DD%A5%F3">ヒロポン</a>漬けにされ、ためらいなく銃をぶっ放す殺人鬼と化した渡会だった。</p> <p> </p> <p>銀座を獲った池谷らはそれぞれに手下を抱え、組織は大きくなる。混乱の時代が間もなく終わることを予期していた池谷は汚職官僚と癒着して羽振りのいい華僑の福山(内田朝雄)を恫喝して得た金で会社を設立し、まっとうな<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%F6%B6%C8">事業</a>で身を立てようとする。</p> <p> </p> <p>時代は池谷に味方した。治安は回復し、ショバ代のシノギが減ってくる宇佐見と、それを尻目にひとり順調な池谷との軋轢が生じる。宇佐見は渡井ら手下に池谷を襲撃させるが返り討ちに会い、渡会も池谷の手下の手で地面に埋められる。宇佐美は池谷を葬るどころか、逆に命乞いをすることになる。</p> <p> </p> <p>しかし運命は池谷を裏切った。舎弟分の結婚式の最中に、殺したはずの渡会が死神のごとく現れ、弾丸が池谷の額をぶち抜く。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%ED%A5%DD%A5%F3">ヒロポン</a>で見境がつかなくなっていた渡会は宇佐美にさえ銃口を向けたところを取り押さえられる。</p> <p> </p> <p>勝利は一転して宇佐美の手に転がったが、しょせんは一介の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C7%EE%C5%CC">博徒</a>にすぎない宇佐美に組織を維持するだけのカネを手にする知恵はない。そんな折り、池谷と福山の接点を嗅ぎ付けた宇佐美は、福山と汚職官僚岡村をリンチにかけ金を吐き出させようとするが、岡村は警察に駆け込み、捕らえられた福山は、はずみで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%ED%A5%DD%A5%F3">ヒロポン</a>注射器を折られた渡会に殴り殺されてしまう。宇佐見のもとに、まもなく一斉摘発が入るとの情報が入る。</p> <p> </p> <p>もう組織の崩壊は止められないところまで来ていた。</p> <p>「どうせパクられたらうまい酒も女もねえんだ、パーッと行こうぜパーッと!」</p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%DA%C5%B7">楽天</a>的な<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%FC%CF%C2%B8%AB">日和見</a>主義者・樋口の提案で芸者を呼んで酒池肉林の大宴会が催される。座敷の片隅でただ一人渡会だけは、膝を抱えて震えている。乱痴気騒ぎが頂点に達したとき、渡会の禁断症状がはじまり便所に駆け込むが、硬くなった静脈に注射器の針はもう刺せない。渡会は大量吐血の中に倒れこみ、「みつ、助けてくれ」と妻の名を呼ぶ。</p> <p> </p> <hr /> <p><br />酸鼻をきわめる暴力描写で有名なこの作品、「てめえこの野郎!」的なセリフの連発、激しくぶれまくるカメラ、そしてこの種の映画では珍しいフリージャズとの相乗効果で酔いそうになる(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%E1%C5%C4%B9%C0%C6%F3">鶴田浩二</a>の着流しヤクザではありえない音楽だ)。葉山良二の頬の大きな切り傷も、悪ノリとさえ言えるほどの毒々しさを画面に添える。好き嫌いが分かれるだろうが、好きな人はこれを乱調美というだろう。</p> <p> </p> <p>そうしたなかで、人間的な内面をわずかに垣間見せるのが実は渡瀬恒彦演じる死神・渡会である。度会はまもなく<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%D2%A5%ED%A5%DD%A5%F3">ヒロポン</a>漬けの廃人にされるという役どころで、セリフはほとんど与えられず、弾を撃つかクスリを打つかする以外はしゃがみ込んでいるだけ。生きた屍という表現がこれほど合う役はそうそうない。それだけに、渡会が血反吐の中で妻に救済を求める叫びがやけに耳に残る。</p> <p>だが渡会は決して救われることはないだろう。 </p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00B7IT9HE/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="実録・私設銀座警察 [DVD]" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51JZi-xb%2BXL._SL160_.jpg" alt="実録・私設銀座警察 [DVD]" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00B7IT9HE/scorpion701-22/">実録・私設銀座警察 [DVD]</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> TOEI COMPANY,LTD.(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/TOE">TOE</a>)(D)</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2013/06/21</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> DVD</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/B00B7IT9HE/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (3件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <h5>カテゴリー「ヤクザ映画」の関連記事</h5> <ul> <ul> <li><a 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href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>傑作選」として日替わりで次の9作品が日替わりで上映された。</p> <p> 8月29日(金) "恋"の日:<br />  「さすらいの恋人 眩暈(めまい)」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BE%AE%BE%C2%BE%A1">小沼勝</a>監督・1978年)<br />  「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%F8%BF%CD%A4%BF%A4%C1%A4%CF%C7%A8%A4%EC%A4%BF">恋人たちは濡れた</a>」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%C0%C2%E5%C3%A4%CC%A6">神代辰巳</a>監督・1973年)<br />  「ラブ・ハンター 恋の狩人」(山口清一郎監督・1972年)</p> <p>8月30日(土) "暴"の日:<br />  「暴行儀式」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%AC%B4%DF%B5%C8%C2%C0%CF%BA">根岸吉太郎</a>監督・1980年)<br />  「人妻集団暴行致死事件」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%C5%D0">田中登</a>監督・1978年)<br />  「(秘)ハ<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%CD%A5%E0%A1%BC">ネムー</a>ン 暴行列車」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%B9%C3%AB%C9%F4%B0%C2%BD%D5">長谷部安春</a>監督・1977年)</p> <p>8月31日(日) "秘"の日:<br />  「(秘)女郎市場」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a>監督・1972年)<br />  「(秘)色情めす市場」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%C5%D0">田中登</a>監督・1974年)<br />  「(秘)女郎責め地獄」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%C4%C3%E6%C5%D0">田中登</a>監督・1973年)</p> <p> </p> <p>新橋ロマン劇場に足繁く通うようになったのは<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%F5%C1%F0%CC%BE%B2%E8%BA%C2">浅草名画座</a>と銀座シネパトスが相次いでなくなり行き場をなくしてからだから、ここ1年足らずに過ぎないので、閉館と聞いて驚きはしたが、あまり感慨はなかった。それにここにあげた9本のうち6本はすでに観たことのある作品だ。それでもこれらの名作がフィルムで観られる機会が失われるのは惜しいので、取るものも取りあえず三日間通い続けた。</p> <p> </p> <p>特に印象に残ったのは初日の3本だ。「さすらいの恋人 眩暈(めまい)」については<a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/31/234621">前回の記事に書いた</a>が、とても良い作品だと思った。</p> <p>ところが警察はそうは思わなかったらしい。この作品は警視庁が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>にクレームをつけ、これを受けて日活が公開中に上映打ち切りの憂き目に遭っている。</p> <blockquote> <p><strong>日活が上映打ち切り</strong></p> <p>四日から全国五十七館で上映中の日活”<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>”三本立てのうち二本に警視庁から「性表現上問題がある」と、ものいいが付いた。日活では一本を十日から一部(二分間)カットし、一本は十五日からほかの旧作品に差し換えて上映するという措置を取った。<br />一部をカットしたのは「順子わななく」で、打ち切ったのは「さすらいの恋人 眩暈(めまい)」。<br />警視庁や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>事務局、日活の話をまとめると、上映開始後の八日に警視庁から電話で問題点があると指摘があり、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>で再検討して日活に手直しを要望、それに日活が従ったという。</p> <p>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C6%FC%BF%B7%CA%B9">朝日新聞</a> 1978.3.17東京朝刊22頁)</p> </blockquote> <p>この一件は大した騒ぎにもならず新聞のベタ記事扱いだったが、当時の状況をリアルタイムで体験した映画評論家・監督の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%F5%B8%FD%BE%B0%CA%B8">樋口尚文</a>は「きょとんした。…いったいどこが『猥褻』なのか本当に察しがつかなかった」と回想している。<a href="#f-a22cb894" name="fn-a22cb894" title="樋口尚文『日活ロマンポルノと実録ヤクザ映画』p.60">*1</a></p> <p> </p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%F8%BF%CD%A4%BF%A4%C1%A4%CF%C7%A8%A4%EC%A4%BF">恋人たちは濡れた</a>」には、ヒロイン・<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C0%EE%CD%FC%B3%A8">中川梨絵</a>が砂浜で二人の男(大江徹、堀弘一)と馬跳びをする長いシーンがある。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C0%EE%CD%FC%B3%A8">中川梨絵</a>は馬を跳びながら一枚ずつ服を脱いでゆき、しまいに全裸になって馬跳びをするので、とうぜん肝心な部分はボカシが入るのだが、それが作品につけられた白いひっかき傷のように見える。</p> <p>「<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%F8%BF%CD%A4%BF%A4%C1%A4%CF%C7%A8%A4%EC%A4%BF">恋人たちは濡れた</a>」の2ヶ月後に封切られた<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%C0%C2%E5%C3%A4%CC%A6">神代辰巳</a>の次回作「女地獄 森は濡れた」は、やはり警察の介入で上映が打ち切られている。</p> <blockquote> <p><strong>日活<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a> 再び上映打ち切り、再編集</strong><br /><strong>警視庁申入れ直後 <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>急変、問われる姿勢</strong></p> <p>日活本社は三十日、今月二十三日から六月一日までの予定で全国で封切られていた日活<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>「女地獄 森は濡れた」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%C0%C2%E5%C3%A4%CC%A6">神代辰巳</a>監督)等三本を三十日限りで上映を中止し、回収したうえ再編集すると発表した。日活<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>映画が上映予定期間の途中で打ち切りとなったのは、昨年十二月の「色情姉妹」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%BE%BA%AC%C3%E6%C0%B8">曽根中生</a>監督)に次いで二度目。今回の措置も「色情姉妹」の場合と同じように、警視庁から<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>に対して「管理委員も見てほしい」との申し入れがあったのち、急いで打ち出されたものだけに、警視庁のポルノ取締り姿勢と映画界の自主規制機関であるはずの<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>の態度が、新たな論議を呼びそうだ。三十一日からは、封切館では次回作を繰り上げてあなうめ上映する。(以下略)</p> <p> (<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C6%FC%BF%B7%CA%B9">朝日新聞</a> 1973.5.31東京朝刊3頁)</p> </blockquote> <p> </p> <p>「ラブ・ハンター 恋の狩人」の、上映可能なフィルムが(かなり劣化していたとはいえ)現存していたことは知らなかったので、正直言って驚いた。この作品の摘発と、関係者の裁判については<a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2013/11/26/004818">以前少し触れたことがある</a>が、日活の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>路線開始直後ということもあって、当初は大きな問題となった。前の記事二本の主語が日活本社の発表を受けての報道であるのに対し、この記事は「警視庁」を主語に書き出されていることに注目して欲しい。</p> <blockquote> <p><strong><span style="line-height: 1.5;">日活映画を手入れ 警視庁"ポルノ解禁"と対決</span></strong></p> <p>警視庁保安一課はいま、東京・新宿オデオン座などで上映されている日活映画「恋の狩人(ラブ・ハンター)」、同「牝猫のにおい(OLポルノ日記)」、プリマ企画映画「女高生芸者」をワイセツ映画として、二十八日、千代田区有楽町の日活本社や<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%B4%C9%DB%BB%D4">調布市</a>染地二丁目日活撮影所、渋谷区代々木四丁目プリマ企画会社、この映画を上映している新宿オデオン座などを捜索、フィルムなどを押収した。(以下略)</p> <p>(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C4%AB%C6%FC%BF%B7%CA%B9">朝日新聞</a>1972.1.28東京夕刊9頁)</p> </blockquote> <p>この時押収された3本の作品と72年4月に摘発されたもう一本を巡る「日活<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>裁判」が開始される。被告は映画会社、プロデューサー、監督、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>審査員の計9名。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C3%CF%BA%DB">東京地裁</a>の判決は1978年6月。奇しくも「さすらいの恋人」の上映中止と時を同じくする。判決は「無罪」であった(2年後に高裁が<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B9%B5%C1%CA">控訴</a>棄却・無罪確定)。それは、これら作品を審査した<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>の基準が刑法175条(わいせつ物頒布等の罪)に照らして「審査の基準をできるだけ尊重すべきであるとの見地に立って判断すると、本件映画はまだ社会通念上許容しがたいような露骨で卑わい感を与え、性的差恥心を害するものとは認められない」との司法判断であった。</p> <p>しかし「恋の狩人」の監督山口は、この司法の論理を是としなかった。山口の論理は特定作品に対するわいせつ罪の適用可否ではなく、刑法175条が検閲を許容するものとして、175条自体を否定するものだったからだ。一言で言うと『<strong>わいせつで何が悪い</strong>』という国家への挑戦である。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BA%C7%B9%E2%BA%DB%C8%BD%BD%EA">最高裁判所</a>ならともかく、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%CF%CA%FD%BA%DB%C8%BD%BD%EA">地方裁判所</a>は法の存在を前提として争う場であり、法そのものの適否を争う場ではない。<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C5%EC%B5%FE%C3%CF%BA%DB">東京地裁</a>に山口の論理は最後まで届かなかった。</p> <p>山口の論理は、71年の倒産後、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CF%AB%C6%AF%C1%C8%B9%E7">労働組合</a>主導で再建の途にあった日活の弁護方針とも対立するものだった。</p> <blockquote> <p>当初、監督被告の藤井克彦、近藤幸彦、山口清 一郎の三人の弁護に送り込まれたのは、日活労組より推薦、派遣された弁護士だった。「ハレンチを口実とした表現弾圧」と闘おうとしたそれら弁護士は、法廷で激しく「ポルノ否定」を行った。ポルノ映画の監督たちを、その作品を否定して救済しようという本末転倒。それは、国家権力にお目こばしを懇願する姿勢と大差ないようにも感じられる。労組弁護士と監督被告の亀裂は顕在化した。<a href="#f-c42499f9" name="fn-c42499f9" title="鈴木義昭「日活ロマンポルノ異聞」p.168">*2</a></p> </blockquote> <p>日活の中枢にとって、<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>は低予算・早撮りで手堅く収益を上げる金儲け装置に過ぎず、ここで得た収益は「戦争と人間・完結編」(<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BB%B3%CB%DC%BB%A7%C9%D7">山本薩夫</a>監督・1973年)といった<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%BF%C0%EF">反戦</a>大作映画に注ぎ込まれた。上掲書のなかで<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%EB%CC%DA%B5%C1%BE%BC">鈴木義昭</a>は、79年に役員全てが労組幹部で占められた日活のことを「当時の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C6%FC%CB%DC%B6%A6%BB%BA%C5%DE">日本共産党</a>の「退廃文化」キャンペーンの中、日共系労組管理で社長をも送り込んだ映画会社が、さらになおポルノ映画を作り続けるという風景は、時代の病理のように僕らの目には映っていた」と記す。</p> <p>こうした状況下で山口は社内でも孤立し、77年に日活を去る。その後は<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/ATG">ATG</a>で1本を監督しただけで、2007年にその人生を終える。</p> <p> </p> <p><a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>裁判が6年にわたる審理を延々と続けている間にも、警察の<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%DE%A5%F3%A5%DD%A5%EB%A5%CE">ロマンポルノ</a>への介入は散発的に行われるが、その社会的注目度は時を追うに連れて下がってゆくのは、「恋の狩人」「森は濡れた」「さすらいの恋人」を巡る新聞記事から間接的に感じることができる。この間に警察ー<a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B1%C7%CE%D1">映倫</a>ー日活の馴れ合い関係ができたとも言え、ポルノ検閲の不可知化が進行したとも言える。</p> <p> </p> <p> 新橋ロマン劇場がそのフィナーレに当たって「"恋"の日」に選んだ3本は、いわゆる名作であるにとどまらず、このように警察の介入で上映中止になった作品と、それに隣接する作品を選んだ「いわくつき」の3本でもある。この番組編成が意図的なものなのか、偶然そうであっただけなのかは、関係者に聞いていないので知らない。</p> <p>だが、これらの作品の背景にこのような歴史がある事だけは、新橋ロマン劇場という映画館の存在とともに記憶すべきことだろう。</p> <p> </p> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4784509372/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="日活ロマンポルノ異聞―国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51Xv5hMxANL._SL160_.jpg" alt="日活ロマンポルノ異聞―国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4784509372/scorpion701-22/">日活ロマンポルノ異聞―国家を嫉妬させた映画監督・山口清一郎</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%EB%CC%DA%B5%C1%BE%BC">鈴木義昭</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BC%D2%B2%F1%C9%BE%CF%C0%BC%D2">社会評論社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2008/12</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 単行本</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 18回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4784509372/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (5件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <div class="freezed"> <div class="hatena-asin-detail"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582854761/scorpion701-22/"><img class="hatena-asin-detail-image" title="ロマンポルノと実録やくざ映画―禁じられた70年代日本映画 (平凡社新書)" src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/41UlNyzX0CL._SL160_.jpg" alt="ロマンポルノと実録やくざ映画―禁じられた70年代日本映画 (平凡社新書)" /></a> <div class="hatena-asin-detail-info"> <p class="hatena-asin-detail-title"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4582854761/scorpion701-22/">ロマンポルノと実録やくざ映画―禁じられた70年代日本映画 (平凡社新書)</a></p> <ul> <li><span class="hatena-asin-detail-label">作者:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%F5%B8%FD%BE%B0%CA%B8">樋口尚文</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">出版社/メーカー:</span> <a class="keyword" href="http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CA%BF%CB%DE%BC%D2">平凡社</a></li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">発売日:</span> 2009/07</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">メディア:</span> 新書</li> <li><span class="hatena-asin-detail-label">購入</span>: 3人 <span class="hatena-asin-detail-label">クリック</span>: 48回</li> <li><a href="http://d.hatena.ne.jp/asin/4582854761/scorpion701-22" target="_blank">この商品を含むブログ (19件) を見る</a></li> </ul> </div> <div class="hatena-asin-detail-foot"> </div> </div> </div> <h5>カテゴリー「日活」の関連記事</h5> <ul> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/08/31/234621">さすらいの恋人 眩暈(めまい)</a></li> <li><a href="http://tokyonagaremono.hatenablog.com/entry/2014/07/30/010856">野良猫ロック 暴走集団'71</a></li> <li><a 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