トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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内戦終結後のカンボジアでクソガキとサムライスピリッツをプレイした話

今週のお題「ゲーム大好き」

クーロン黒沢は「電脳アジアコピー天国」(秀和システム1993年・絶版)でアジア各国のゲーム事情を面白おかしく紹介している。90年代前半のアジアのゲーム市場はアーケード用・家庭用ともに日本製品のコピーでほぼ席巻されていたと言っていいだろう。同書からマレーシアのゲーム事情を抜粋してみよう(強調は著者による)。

東南アジアのゲーセンはどこもゲーム代が格安なので、ゲーマー旅行者にとっては嬉しい限りだ。そして、マレーシアは中でもウルトラ最強の存在である。 何と1プレイの料金が8円(20マレーシア¢)から!という恐いもの知らずな強力プライスだ

例え8円でも、別にそこらの駄菓子屋みたいに10 年も前のクソゲーを並べているわけじゃなく、ほとんどが日本のゲーセンでも通用する基盤を使っている。

ペナン島ジョージタウンにそびえ建つ64階の 巨大ビル、コムター内の巨大なショッピングセンターには、ちょっと雰囲気の暗いゲーセンの集結している地帯があって、毎日、 朝から夜中まで、常に目を血走らせた娯楽のない若者達が入り浸っている。

ここらのゲーセンには体感ゲームこそないが、その代わリエロマージャンなど が充実していたりして、日本でいうと郊外のちょっとさびれたゲーセンの雰囲気 に近い。安い代わりにメンテナンスは最悪だが、やはり1プレイ8円は凄すぎる。 当り前だけど100回やっても800円なのだから凄い

それからマレーシアではスト2に限らず、対戦できるゲームに乱入するのは常識となっているので、いきなり変な奴が乱入して来ても怒らないように。 それに「スト2」をよく観察していると、マレー人とかインド人など色の黒い少年達は、やっばリダルシムを好んでよく選ぶようである。

目を血走らせた娯楽のない若者とかダルシムを好んで選ぶとか(これがクーロン黒沢の文体なんだけど)、よけいなお世話だろと思わずにはいられないが、自身も93年から94、5年くらいまで、仕事で東南アジアに出張することが多くて、休日になるとシンガポールのゲーセンに出入りしていたので光景はなんとなく思い浮かぶ。

 

向こうのゲーセンは100円硬貨ではなくて店頭でトークンと呼ばれる専用のコインを買って投入するのが普通だった。シンガポールは物価が高いので、マレーシアのように激安という感覚はなかったが、それでもバーチャファイター2のような日本でも最新のゲームがプレイできるのはさすがに東南アジアの先進国だという感じがした。

 

さて、「サムライスピリッツ」というゲームがある。ストリートファイターIIで火がついた格闘ゲームブームに乗ったSNKが、「餓狼伝説2」に次いで93年に発売した作品で、18世紀頃の日本を舞台に日本のサムライと世界各地の剣士が真剣勝負するというチャンバラ格ゲー。輸出用の英語タイトルは「Samurai Shodown」(今気が付いたのだがShowdownではない)。

 

このゲームに魅せられたのはゲーム性が高いとか、柳生十兵衛服部半蔵天草四郎時貞(といっても「魔界転生」のだが)という実在の人物が時代背景を無視して登場すると言ったことよりも、音楽とSEが時代劇のようでもあり時代劇ではあり得ない、和洋折衷の不思議な音響イメージを奏でていたからだと思う。それは特に、キャラクター選択画面のBGM(動画では2曲目)に用いられる、尺八と太鼓を巧みに使いながら主旋律は西洋弦楽器が導いている曲に現れている。

youtu.be

SEの面では、斬ったときの「ブシュッ!」も「ありそうで実はない肉を斬る音」として70年代頃から使われてきた音を使う一方、大技を決めるために相手に急接近する時に歌舞伎の「ツケ」を使うのも新鮮だった。

 

ある時、カンボジアプノンペンに出張することがあった。90年代前半のカンボジアは、ポル・ポトの暴政とベトナムとの戦争、ポル・ポト政権崩壊後の内戦で完全に疲弊しており、フン・セン首相のもとで立ち直る一歩を踏み出したばかり。国連平和維持部隊がようやく撤収を始めた頃だった。東南アジアのよさは国が貧しくても食べ物は豊富なことだと思うが、逆に言えばそれ以外は大変だ。停電は毎日、エアコンは止まる、蒸し風呂のように暑い。シャワーは水しか出ない。水道水は絶対に飲むなと現地駐在員に注意された。夜中に銃声を聞いたこともある。片足を失った物乞いは珍しくなかった。

 

日曜日のことだった。いま思えば、そんな経済状態の国でゲーセンを見つけたのは不思議と言えば不思議だ。おそらく商魂たくましい華僑が経営していたのではないかと思うが、店内は日本で見慣れたゲームで溢れていた。ここでのトークンは香港のコインが使われていた。おそらく香港で使われた中古の筐体を持ち込んだのだろう。そうそう思い出した。たしかこの店は筐体の前に座るとなぜかおしぼりを出してくれた。

 

店は繁盛していた。一台だけ、「Samurai Shodown」の筐体を見つけた。サムライはもちろん、日本がどこにあるかこの子達は知っているんだろうかと今思えば傲岸不遜なことを考えつつ、対CPUモードで柳生十兵衛を選択した。十兵衛はボタン連打で必殺技が出せるし、KOを決めた後のオーバーなポーズが好きでよくチョイスしていた。

ところが1人目を片付ける前に早くも、隣に座った10歳くらいの上半身裸のガキンチョから「挑戦者あり」の表示が。向こうは何を選んでいたか、今となっては思い出せない。アースクエイクだったかも知れない。とにかく、サムライの国から来たサラリーマンは現地のガキに一勝も取れず店を退散した。ゲームは世界の共通語だよなと、悔しい自分を誤魔化すようなことを考えようとしながら。

 

その後そのゲーセンには足を運べなかった。

 

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