トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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土曜は寅さん!(2)

シリーズ第1作「男はつらいよ」は、寅次郎(渥美清)の20年ぶりの柴又への帰郷と叔父夫婦との再会にはじまり、異母妹・さくら(倍賞千恵子)の縁談、印刷工・諏訪博(前田吟)とさくらの結婚、結婚式での博と父(志村喬)の和解を経た後、幼なじみで柴又帝釈天の御前様の娘・冬子(光本幸子)との失恋が街の噂になりいたたまれず再び放浪の旅に出るまでを描く。こうして書いてみると盛り沢山の内容だ。

 

クライマックスは、互いに思いあいながら一歩を踏み出せない、さくらと博の恋の成就の場面。学歴コンプレックスが邪魔をしてさくらに思いを告げられない博に代わって、寅次郎はさくらの気持ちを確かめようとするが聞けない。けっきょく寅次郎に「あきらめな、脈はねえよ」とテキトーな言葉で諭された博は、その足でさくらの元に駆けつける。

 

僕の部屋から、さくらさんの部屋の窓が見えるんだ・・・朝、目を覚ましてみるとね、あなたがカーテンを開けてあくびをしたり、布団を片付けたり、日曜日になると楽しそうに歌を歌ったり、冬の夜、本を読みながら泣いてたり・・・あの工場に来てから三年間、毎朝あなたに会うのが楽しみで、考えてみればそれだけが楽しみで、この三年間・・・僕は出て行きますけれども、さくらさんは幸せになって下さい。さよなら。

 

博は正面からさくらをまっすぐに見つめ、一気に思いを告げる。僕は毎日あなたを見ていました、それだけが楽しみでした、と。

 

学歴もなく恵まれた仕事ではないとはいえ、隣家の女性を窓から観ることしか楽しみがなかった、という博の人生は少し寂しすぎる。そこには父との確執が影を落としていることは後に明らかになる。

 

さくらの幸せそうな暮らしを見ることだけが自分の希望だった博には、「あきらめな」という現実的で安易なアドバイスが受け入れられない。愛しているという代わりに、あなたをいつも見ていたと言い残し、その場を飛び出す博。追いかけるさくらが博を連れ戻してとらやに帰ってきたとき、二人の気持ちはすでに通じ合っている。

 

博はこのシーンの少し前、寅次郎から恋愛指南を受けている。見ては逸らし、逸らされてはまた見て絡ませる視線に恋心を載せるんだ、と。

しかし博とさくらの恋を成就させたのはまっすぐな視線と、あなたを見続けていたという素直な告白だった。なんという皮肉。

いっぽう寅次郎は、我流の流し目攻撃で冬子に気持ちを飛ばすが、許嫁の登場であえなく散ってしまう。嗚呼。

 

BSジャパン作品紹介ページでは脚本が「山田洋次・朝間義隆」になっているが、「山田洋次森崎東」の間違いだろう。