トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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喜劇 特出しヒモ天国 (その1)

一が顔で二が持ち物(イチモツ)、三、四がなくて五が親切ーー。

 

これがストリッパー(業界用語で「タレント」)のヒモ(業界用語で「マネージャー」)稼業で生きていくコツだと、主人公・昭平は(山城新伍)はヒモ仲間から教えられる。女に寄生するヒモには、ルックスもセックスも大事だが本質的にフェミニストでなければならいことをこの言葉は示唆しているが、昭平は肝心な時にその大切な意味を忘れてしまう。

 

ひょんなことからストリップ劇場「A級京都」の臨時支配人におさまった元セールスマン・昭平は看板タレントのジーン(池玲子)と懇ろになり、新米のヒモとしてジーンと旅回りの生活を始める。新しい仲間を作り、また懐かしい仲間と競艇場に繰り出すといった楽しい生活だったが、ある日、ジーンのブラジャーを何気なく足で拾って渡したたことがジーンの怒りに火をつけ、捨てられてしまう。ヒモの信条はまず女性への気配りにあることを、昭平は身をもって知ることになる。

 

次に昭平はローズ(芹明香)と生活を始める。ローズは「ウチはアルコールが入るとチューリップが開くんや!*1」と言ってはばからないアル中で、舞台にも酒を飲んであがりこみ放尿するほどの無茶苦茶ぶり。祭りの夜、飲んで川に飛び込むなど自殺願望があるようにさえ見える。アル中から更正させようと付き添っていた元警官のヒモ、大西(川谷拓三)にさえ見放され、独りになった者同士で昭平とくっつくことになったのだった。

 

さて、昭平たちヒモと踊り子仲間から「棟梁」と呼ばれ親しまれていた、善さん(藤原釜足) という老人がいた。棟梁はA級京都のスカウト兼振付師なのだが、自身もヒモ稼業を夢見ていた。昭平とローズが旅回りで白浜の劇場に入ったある日、子持ちの踊り子ハニー(中島葵)と結婚して夢を叶えていた棟梁と再会する。再会を喜ぶ昭平と棟梁。

しかしある夜、昭平とローズらが祭りに繰り出していた間に小屋が火事で焼け落ち、棟梁家族は焼死する。

 

引き取り手のない棟梁一家3人の骨壺を前に呆然とするローズら踊り子たち、昭平らヒモ仲間。ハニーとケンカ別れしたリズ(絵沢萠子)も仙台での興業をキャンセルして駆けつけ、「仲直りする前に、なんで死んでしもたんや!」と泣き崩れる。

 

男と女の間には

深くて暗い河がある

誰も渡れぬ河なれど

エンヤコラ今夜も舟を出す

Row and row, row and row

振り返るな row, row

 

ローズがつぶやくように唄い始める。それは、棟梁が振り付けハニーが踊った野坂昭如のバラード「黒の舟唄」*2だった。

昭平が止めるのも聞かず、歌い続けるローズ。やがて踊り子たちみんながローズに続く。「男と女の間には、深くて暗い河がある…」合唱の中、ローズは一枚ずつ服を脱ぎ、ダンスを始める。それがストリッパーの、鎮魂の儀式であるかのように。

 

「今日は派手にやるで!弔い合戦や!」

骨壺を引き取って久しぶりにA級京都に戻ってきたローズと昭平。だが興業初日のその日、警察の大規模な摘発が入る。護送車で運ばれていくローズら踊り子たち。みなで「黒の舟唄」を合唱する中、ローズは独り、窓の外を眺めていた・・・。

 


 

「喜劇 特出しヒモ天国」(森崎東監督・1975年東映)は京都に実在した劇場を舞台に、様々な事情でストリップ稼業に生きてゆく女たちと男たちの人間模様を描く作品。

 

森崎東は松竹専属で山田洋次の初期の作品のシナリオを書いたり、「男はつらいよ フーテンの寅」(1970年松竹)を撮ったりしていたが、1974年に松竹を退社し東映で撮ったのがこの作品。上品さを志向する松竹では描くことができない世界を描ききった感がある名作である。死んだ棟梁一家のために鎮魂の舞を舞う、ローズのしなやかな肢体を描いたシーンは忘れがたい。

 

この作品には忘れがたいエピソードがもう一つあるのだが、それは別記事としたい。(続く)

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黒の舟唄

黒の舟唄

 

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*1:ここでは「チューリップ」は女性器の隠語。この映画と同年、パチンコをテーマにした間寛平コミックソング「ひらけ!チューリップ」がヒットしたことに由来する

*2:1974年のヒット曲。能吉利人作詞・桜井順作曲。野坂昭如の歌によるものと、加藤登紀子によるものの2バージョンがある