トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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赫い髪の女

6月第2週のNHK連続テレビ小説花子とアン」は、主人公の祖父、安東周造こと「おじぃやん」が病に倒れてから息を引き取るまでがストーリーの核に描かれていて、必然的に石橋蓮司が大きくクローズアップされる週になった。不在の父、吉平(伊原剛志)に代わって安東の家を護る寡黙な作農、文盲であるがゆえに主人公・はな(吉高由里子)の著作を読むことができず、病の床でその本を触って愛でる優しき老人*1を石橋は好演していた。

 

花子とアン」ではすっかりハゲてしまっているが、石橋蓮司の特徴的なチリチリヘアーは地毛である。若い頃ーー例えば代表作「赫い髪の女」(神代辰巳監督・1979年日活)では主人公のダンプカー運転手・光造こと「光やん」をフサフサ天然パーマで演じる石橋を拝むことができる。

 

*

 

光やんは仕事の帰り道、カップラーメンをすすりながら雨宿りをしている赤い髪の女(宮下順子)をダンプで拾い、アパートに連れ帰る。暗い女ではないが、自分の素性のことはあまり話さない。ヤクザと思われる夫から逃げてきたこと。2人の子供がいたこと。友達がシャブ(覚醒剤)中毒の果てに心中したこと。ポツポツとそんな話を寝物語に聞かせるが、名前すら最後まで明かさないし、光やんも聞こうとしない。

 

光やんにとって、女は犬ころのようなものだった。だから光やんが3月ほど前に同僚の孝男と輪姦した社長の娘・和子が孝男になついていしまい、弁当を届けるようになっても冷やかすだけだった。

 

次の日、雨で現場作業が中止になったため、光やんは朝のうちにアパートに帰ってくる。待っていた女は光やんにすがりつく。「起きたらあんたが居ないから、自分でしたんよ。このまま夕方まで帰って来なんだら、通りで他の人にして貰お思うとったんよ」と光やんの体を求める。女の求めに応じる光やん。前の夫が好きだった体位でしてやろうという光やん。

 

赤い髪、赤いシュミーズ、そして生理中の女とのセックスから、光やんと女の生活が始まった。女は赤いカーテンを買ってきて、光やんの部屋にまた赤いものが一つ増えた。

 

光やんの下の部屋には、シャブ中の夫婦が住んでいて、夜ごとのセックスであげる奇声が光やんの部屋にまで聞こえていた。ある日、妻の頭に洗濯物を落としたことがきっかけで、女はイカれた女に殺されかけるほどの暴力を振るわれる。だが部屋に帰ってきた光やんは、廊下に落ちていた女の下着を目にして留守の間に女が浮気したと誤解し、怯えて布団にくるまっている女を怒りにまかせて犯してしまう。

 

光やんが赤い髪の女と同棲していることを聞きつけた孝男は、自分にもやらせろと持ちかけるが光やんは拒絶する。「なんや、惚れたんか!女は犬ころと一緒やいうてたやないか!」とけしかけられた光やんは、やむなく、セックスの最中に入れ替わり、孝男に女を犯させる。はげしく抵抗しひっくり返ったコタツの赤外線を浴びて赤く照らされる女の顔。光やんは飲み屋街の片隅に飛び出し、いたたまれなさを感じつつも勃起したままの自分の性器を慰める。

 

部屋に帰ってみると、女はいなかった。愛想を尽かされても仕方のないことをしたのだ。女の残した口紅を自分の性器に塗り、落ちていた陰毛を鏡に貼り付ける光やん。そこに、思いがけず女が帰ってくる。風呂に行っていたのだ、そう言った。

ーーあの人ね、駆け落ちするんやて。

あの時の輪姦で、孝男は和子を妊娠させていた。孝男は和子と生きていく覚悟を決めたのだ。

ーー若いってええなぁ。若いってええなぁ。

女は泣きながら、光やんの体を再び求める。「一日中しよう」と。光やんもまた、女を愛している自覚に目覚める。

 

*

 

この作品に関連して行われたトークショーで、脚本を書いた荒井晴彦は「この作品は『男の嫉妬』がテーマだ」という主旨の発言をしていた。これは会場の若い女性観客から「この作品がなぜ高い評価を得られているのかよくわからない」という率直な質問を受けてのことで、この辺にジェネレーションギャップを感じずにはいられないが、自分も最初に見たときは、暴力的で、自分の女を友人に差し出す光やんに嫌悪感しか感じなかったのを覚えている。大体、神代作品に出る男には「嗚呼!おんなたち 猥歌」の内田裕也を筆頭にろくな奴がいない。

 

だが「嫉妬」を手掛かりにこの作品を再び見ていくと、光やんが女に次第に愛情を感じてゆくさまが(極めてわかりにくいが)描かれているのを見ることができる。最初から存在感を示す宮下順子に対し、石橋蓮司は、短い尺の中でその心情のグラデーションを丁寧に描いていることがわかる。「ほとんどの観客は一度しか見ないのに、そんなことでいいのか」という批判は承知だが、一度見ただけでは良さがわからない作品もあるのだ。

 

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*1:このドラマが取り上げる明治〜大正期の日本人の文盲という主題には、気が向いたら別記事に書いてみたい。