トーキョーナガレモノ

日本映画の旧作の感想。でもそのうち余計なことを書き出すだろう。

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狂った果実(1981)

20歳の哲夫(本間優二)は、昼はガソリンスタンド、夜は歌舞伎町のピンクサロンのボーイとして働いていた。ピンサロのマスター「アニキ」(益富信孝)はタイで活動したこともある元キックボクサーで、ホステスの春恵(永島暎子)と同棲していた。田舎の神社の息子で神主の心得がある哲夫はアニキと春恵のアパートでささやかな婚姻の祝詞をあげてやる。盛り上がってセックスを始める二人。興奮してしまった哲夫はアパートを飛び出し、駐車場の陰でオナニーをしてしまう。

その姿を車の中から見ている女と男がいた。女千加(蜷川有紀)はデザイン学校に通う20歳の金持ち学生。男は千加の継父で密かに千加と関係を持っていた建築家の東野(岡田英次)。

 

心も体も大人びていて、どこか醒めたところがある千加は哲夫に興味を持ち、きまぐれにドライブに誘うが、運転を代わろうとした千加の太股に興奮した哲夫は千加に襲いかかる。土砂降りの車外で千加を犯しかけた哲夫は、挿入する前に果ててしまう。

翌日、千加はガソリンスタンドに哲夫を訪ね、「強姦魔」とからかう。哲夫は千加に気を取られて客の車を壁にぶつけてしまい、スタンドをクビになってしまう。千加は哲夫を、原宿のたまり場に集まる遊び仲間に紹介するが、道楽者の金持ち学生たちとそりの合わない哲夫は店を去る。千加は哲夫を歌舞伎町のバイト先まで追いかける。

 

哲夫のピンサロでは今日も酔客相手に高い代金をふっかけて暴力で脅す商売をやっていた。店から逃げ出した客を追いかける哲夫、客に警察を呼ばれて千加の手引きで連れ込み旅館に逃げ込む。その夜、初めて二人は肌を合わせる。

 

数日後、千加は湘南の自宅に哲夫を連れて行き、東野に仕事の世話を頼むが断られる。東野自身が振る舞うスペイン仕込みのパエリャは旨いものだったが、哲夫とは棲む世界が違いすぎることを見せつけられるものだった。そのとき千加のつわりが始まる。東野の子を妊娠してしまったのだ。そのことを千加は、ひそかに哲夫に打ち明ける。

 

哲夫は東京の東野の事務所を訪れ、秘密を暴露されたくなかったら千加との結婚資金を出せと迫るが、土方相手にやり合ってきた東野に哲夫の下手な恫喝は通じない。帰り道、哲夫は春恵に誘われる。ホステスで貯めた金を麻雀に持っていくアニキに、春恵はやり切れないものを感じていた。哲夫は春恵を抱く。春恵は明るく哲夫に言う。「ありがと。感じちゃったから。でも旦那には黙っていて。あんな男でも好きだから。」

 

千加は気まぐれにアメフトか何かをやっている遊び仲間をけしかけて、哲夫のピンサロに押しかける。たまたまアニキが不在だったその時、哲夫の示したぼったくり料金をきっかけに学生たちが暴れ回り、店をめちゃくちゃに壊され、哲夫はぼこぼこに打たれてしまう。さらに春恵まで暴力を振るわれ流産してしまう。男たちが引き上げた後、哲夫は店に残っていた千加を怒りにまかせ強姦する。

 

哲夫はアニキと共に、千加らの溜まり場にお礼参りに押し掛けるが、屈強な学生たちに返り討ちに遭う。血だらけでうずくまる兄貴を前にして、哲夫は隠し持った包丁で学生を刺し殺す。その一部始終を千加は店の片隅で見守っていた。血だらけで振り返りざま、哲夫は千加をじっと見つめる。千加も涙を浮かべて見つめ返す。無言で店を去る哲夫。千加もまた、店を去る。

 

哲夫は傷だらけの体で、母に電話する。ボーナスがたくさん出そうだということ、まだ結婚はするつもりはないこと。傷の痛みに悶えながら他愛ない言葉を絞り出す。

 

翌朝、哲夫は日課にしていたジョギングに走り出す。その後ろから、覆面パトカーが追い抜いていく。アリスの曲の一節が流れる。

「中途半端でなけりゃ 生きられない それが今・・・」

 


 

狂った果実」(根岸吉太郎監督・1981年日活)は、石原慎太郎が原作を書き実弟の裕次郎をスターダムに押し上げた同名の作品(中平康監督・1956年日活)とは内容的に何の関係もない。本作は1980年のアリスのヒット曲(詞:谷村新司、曲:堀内孝雄)に想を得た青春映画である。脚本は神波史男。

 

 哲夫は孤独な暮らしの中に、千加は満たされない虚無感に、それぞれ鬱屈した思いを抱えて生きている。二人は連れ込み旅館に逃げ込み体を合わせたわずかな時だけ心を通わせるが、それは結局二人の生きる世界の溝を埋めるものではなかった。

 

それ以前の時代に比べれば、80年代の若者の生活水準ははるかに良くなっている。千加はともかく、哲夫のアパートにだってミニコンポもあれば電話も引いてある。だがモノで虚ろな心は満たすことはできない。千加は哲夫に、最初はからかい半分だったがやがて互いを補い合える可能性を感じていたのに、その心を通じ合わせて愛をはぐくんでゆくことができず、破滅を招いてしまう。だらしない男でも愛していると堂々と言える年上の春恵のようになるには、20歳の二人はまだ若すぎ、互いを傷つけ合う結果に至るしかなかった。

 

*

10年目に入った日活のロマンポルノ路線の、この作品は思春期を引きずる20代の若者の感性を描き出す名作である。若きフランソワ・トリュフォーが絶賛したという56年の同名作品よりも、本作の方に深い共感を覚える人は多いのではないだろうか。

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